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しおりを挟む「まさか……それがループの原因……?」
前世のロジェとレイ、そしてマイナの行く末を話すと、聡明なクリスティーヌも気付いたらしい。
「私の身に起こっていることは、人知を超えていると思っていましたから」
見上げてくるクリスティーヌの瞳に、自分の姿が映っていることを嬉しく思う。
こんな日がくるなんて奇跡のようだと思う。
クリスティーヌがマノロ殿下の愛妾にされたとき、どれほど悔やんだかわからない。
マノロ殿下は前世で病死したので、今世も長くはないのではと思い、それにすがった。
(まさか、あのように狂うとは思わなかったが)
「鍵は、ヴィヴィアン殿下の生死だと思う」
憶測に過ぎないことを話すのは嫌いだ。
だがこの話は、憶測でしか話せない。
全てがわかっているのは、人の理を外れた者だけだろう。
「前世の記憶があるクリスティーヌにはわかると思うが、ヴィヴィアン殿下とルーカス、レイと私は同い年だった。それが今世の私は彼らより十二歳も年上で、レイも五歳年上で生まれた。そして、ヴィヴィアン殿下の婚約者だったマイナ様は、今世ではレイを選んだ。マイナ様は、前世とは別人とも言えるぐらい人が変わった」
クリスティーヌはゆっくり頷いた。
(クリスティーヌが人からどんな扱いを受けてもそれを流し、どこか諦めたようにも見えるのに芯が強く、いつも何かに立ち向かっているように見えたのは、三度の人生のせいだったのか)
「私は、自分に前世の記憶があるように、ヴィヴィアン殿下の生死に何らかの形で関わる人物は前世の記憶を持って生まれているのではないかと感じ、観察した。そして、殿下が二度と殺されないよう、細心の注意を払っていたつもりだった。そのために、前世で第一隊だった兄たちには、近衛団と第二隊に入ってもらった。そして何より、私自身が最年少で宰相となり、王家の都合に翻弄されやすいレイを側に置き、彼自身が自分の身を守れるよう、王家と城の情勢を常に共有した。それでもヴィヴィアン殿下毒殺未遂事件は起きた。そして、それを本当の意味で解決したのは、おそらくマイナ様だ」
「ヴィヴィアン殿下はご病気で倒れられたのかと思っていました」
「表向きではそういうことになっている。直接関わった者しか知らないことだ。一命を取りとめたヴィヴィアン殿下がマイナ様に『ありがとう』とお礼を言い、死の連鎖は止まった」
王家と王家の影による毒殺未遂事件の全容はクリスティーヌには話せない。世の中には知らなくていいことがたくさんある。
ロジェはごまかすようにクリスティーヌのふわふわした髪を撫でる。
気持ちを落ち着かせるためにしたことだったが、クリスティーヌは驚いた顔をしたあと、ふわりと笑ってくれた。
ロジェが髪に触れても嫌ではないらしい。どうにもくすぐったい気持ちになった。
「他にも前世の記憶を持った方がいらしたというのは……?」
クリスティーヌはロジェが話せないことを上手くよけて質問してきた。
「そうだな……私が考えた前世の記憶がある人物は……身近な人物を上げるならば、私の母と、レイの父上であるアーサー様」
「アーサー様……」
「そう。私とレイが若くして死に、そのことで国が混乱したことを知っている人物で、それを避けるために私たちを早く生むことができる人物だろうと考えた。父が前世を知っては事が大きく動き過ぎる。レイの母君は深窓の令嬢ゆえ、自分で出産時期など選べない。そう考えると、この二人である可能性が高いと思った。母は、私に対して早く宰相になれと常に言っていたし、アーサー様は、呼ばなくてもここぞという場面で必ず登城し、陛下に重要なことを進言していた。それは耳が早いというレベルではなかった。それからマイナ様は……前世の記憶自体が違い、場を変える何か特別な知識を持って生まれ、今世ではそういう人物と関わりがあった。たとえば……魔女とか」
「魔女……」
荒唐無稽な話に、クリスティーヌは眉根を寄せていた。
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