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しおりを挟む「私がクリスティーヌを手放す気がない以上、本当の夫婦であるということが、クリスティーヌを護ることにもなる……言い訳がましいが、これは本当のことだ」
震えるクリスティーヌを抱きしめた。
混乱からの震えだと信じたい。
「私がこうして抱きしめるのも、怖いか?」
小さく丸まったクリスティーヌが首を振った。
そのことに少し安堵する。
「やはり……レイのことが忘れらない?」
「……レイ様、ですか?」
「あなたは前世で私が保護すると言ったとき、レイのことをまだ愛してると……あれは嘘か」
「はい。迷惑はかけられないと思い、ロジェ様に諦めていただくためにそう伝えました。私とレイ様は偽装結婚でしたから、私たちの間に恋愛感情や夫婦としての交わりはありませんでした」
「そうだったのか……いや、あなたたちが白い結婚だということは申し訳ないが知っていたのだが」
「ロジェ様のお立場なら、すぐにそういった話は耳に入るでしょうね」
力なく笑いながらクリスティーヌが呟く。
「では、あなたの抱えている不安は何だろう?」
「……わた、わたしは……」
「うん」
背を撫でると、腕の中でクリスティーヌが深呼吸した。
「今世が三度目なのです」
「三度目!?」
思わず手を離し、驚きに目を見張った。
「一度目も二度目も、二十歳を迎えることができませんでした。ですから、アブト橋崩落の事故の責任をロジェ様が感じる必要は、何も……何もないのです」
ぼろぼろと大粒の涙を流しはじめたクリスティーヌを、ロジェは強く抱きしめていた。
「あなたは……こんなときでさえ……私のことを先に慰めようとするのだな」
二度も若くして死を経験することがどれほど辛いか。
前世の記憶があるロジェには痛いほどわかる。
アブト橋崩落の事故のあと、ロジェは半身をもがれたような状態になった。
精彩を欠き、レイの顔を見るのが苦痛になった。
アーレ伯爵夫人に嵌められ、貞操の危機に陥ったクリスティーヌを助けたのがレイだということは調べがついていた。
二人が偽装結婚であることも。
そんなことを調べつくしてしまうぐらい、ロジェはクリスティーヌが好きだった。
手に入らなくても愛おしいと思っていた人の死を受け入れることができず、ロジェは生きる気力を失っていた。
アブト橋の事故からわずか半月で、レイとマイナは正式に結婚をしたが、二人の関係はぎくしゃくしていた。
ヴィヴィアン殿下という幼馴染を亡くしたのはレイもマイナも同じで、伴侶を亡くしたのもまた同じであったから。
特にレイは、離婚届を王城で書いた直後にクリスティーヌが事故で亡くなったため、心を病んでいたのではないかと思われた。
死んだような顔をして生きていたのは、ロジェも同じではあったが。
その後、一年経たずしてそのレイも馬車の事故で亡くなり、その事故の見分に向かうロジェもまた、馬車の事故で命を落とした。
馬車には普段のロジェであれば気付くような細工がされていた――
その陰謀を解明し、身の回りで起こった死の連鎖を断ち切ることが、今世を生きるロジェの使命になった。
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