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「庭園はもう冷えるから、私の部屋でもいいだろうか?」
話し合いをするのに向いているかはわからないが、クリスティーヌの部屋に入るのは失礼だろう。
夫婦の寝室も目的がわかりやすいので避けたい。
頷いたクリスティーヌに腕を差し出すと、小さな手を乗せてくれた。
その僅かな重みを感じながら部屋まで歩く。
カリナはずっと傍に付いていたいという顔をしていたが、茶を淹れてもらった後は退室してもらった。
「殺風景な部屋で申し訳ない」
「いいえ。とても落ち着きます」
「そうか……」
紅茶のカップをクリスティーヌが置くのを待って、切り出した。
「ルーカスの暴言への謝罪はもう聞きたくないかもしれないが、本当に申し訳なかった」
「それはもう、本当に結構ですので」
「そうだな」
「お気遣いいただいたことには、とても感謝しています」
視線を下げ、少し照れたようにクリスティーヌが言うので、ロジェは首を傾げた。
「気遣いとは?」
「はい。私を手放す気はないとか……ルーカス様を諫めてくださるために、わざと、ですよね?」
「いや?」
「違うのですか?」
クリスティーヌは可愛らしい、くりくりとした瞳をパチパチさせた。
「クリスティーヌが私を愛することがなくても手放す気がないというのは本音だ」
まさか、と言いたげな顔でクリスティーヌは小さな唇をポカンとあけた。
「私は恋愛ごとに疎く、その手のことに限っては貴族的な言い回しができない」
「それは……」
「全て本音だと、これからもそう思ってくれていい」
「あ、ありがとう……ございます」
困ったように眉を下げるので本当にロジェの気持ちを知らなかったのだろう。
腹をくくってしまったロジェは、それでも引く気はさらさらなかった。
「私は今日、クリスティーヌと本当の夫婦になりたいと、そう思っている」
膝の上に置かれたクリスティーヌの手をとり、目を見つめて真剣に語った。
回りくどい言い方は、誤解を生みやすいので避けた。
「今の今まで何もしなかったのは、クリスティーヌにとって、閨は苦痛でしかないだろうという思いがあったからだ。政として戴冠式後という話をしたのは、そのときもう一度、私と本当の夫婦になってもいいか、それを聞こうと思っていたからだ」
静かにロジェの言葉を聞いているクリスティーヌの髪をひと房手にして、唇を寄せた。
「私はクリスのことがとても好きだ。大きな瞳に小さな唇。か弱いようでいて物怖じしない凛とした姿。女性に興味なんてなかったのに、初めてクリスを見たとき、時が止まったかと思った。正直、恋愛結婚なんて非効率的だと思っていたし、そもそも結婚など私には不要、そう思っていたのに。レイと並んで歩くあなたを見たとき、隣に並び立つなら私のほうがいいのにと、そんなことを考えてしまったぐらい……前世からずっと、あなたが好きだった」
とうとうクリスティーヌの瞳が零れんばかりの大きさになった。
次第に唇がわななき、震えたように首を振る。
「ロジェさま……も……いつから……」
ロジェにも前世の記憶があるのか、いつからクリスティーヌにも記憶があると気付いていたのかと問いたいのだろう。
話し合いをするのに向いているかはわからないが、クリスティーヌの部屋に入るのは失礼だろう。
夫婦の寝室も目的がわかりやすいので避けたい。
頷いたクリスティーヌに腕を差し出すと、小さな手を乗せてくれた。
その僅かな重みを感じながら部屋まで歩く。
カリナはずっと傍に付いていたいという顔をしていたが、茶を淹れてもらった後は退室してもらった。
「殺風景な部屋で申し訳ない」
「いいえ。とても落ち着きます」
「そうか……」
紅茶のカップをクリスティーヌが置くのを待って、切り出した。
「ルーカスの暴言への謝罪はもう聞きたくないかもしれないが、本当に申し訳なかった」
「それはもう、本当に結構ですので」
「そうだな」
「お気遣いいただいたことには、とても感謝しています」
視線を下げ、少し照れたようにクリスティーヌが言うので、ロジェは首を傾げた。
「気遣いとは?」
「はい。私を手放す気はないとか……ルーカス様を諫めてくださるために、わざと、ですよね?」
「いや?」
「違うのですか?」
クリスティーヌは可愛らしい、くりくりとした瞳をパチパチさせた。
「クリスティーヌが私を愛することがなくても手放す気がないというのは本音だ」
まさか、と言いたげな顔でクリスティーヌは小さな唇をポカンとあけた。
「私は恋愛ごとに疎く、その手のことに限っては貴族的な言い回しができない」
「それは……」
「全て本音だと、これからもそう思ってくれていい」
「あ、ありがとう……ございます」
困ったように眉を下げるので本当にロジェの気持ちを知らなかったのだろう。
腹をくくってしまったロジェは、それでも引く気はさらさらなかった。
「私は今日、クリスティーヌと本当の夫婦になりたいと、そう思っている」
膝の上に置かれたクリスティーヌの手をとり、目を見つめて真剣に語った。
回りくどい言い方は、誤解を生みやすいので避けた。
「今の今まで何もしなかったのは、クリスティーヌにとって、閨は苦痛でしかないだろうという思いがあったからだ。政として戴冠式後という話をしたのは、そのときもう一度、私と本当の夫婦になってもいいか、それを聞こうと思っていたからだ」
静かにロジェの言葉を聞いているクリスティーヌの髪をひと房手にして、唇を寄せた。
「私はクリスのことがとても好きだ。大きな瞳に小さな唇。か弱いようでいて物怖じしない凛とした姿。女性に興味なんてなかったのに、初めてクリスを見たとき、時が止まったかと思った。正直、恋愛結婚なんて非効率的だと思っていたし、そもそも結婚など私には不要、そう思っていたのに。レイと並んで歩くあなたを見たとき、隣に並び立つなら私のほうがいいのにと、そんなことを考えてしまったぐらい……前世からずっと、あなたが好きだった」
とうとうクリスティーヌの瞳が零れんばかりの大きさになった。
次第に唇がわななき、震えたように首を振る。
「ロジェさま……も……いつから……」
ロジェにも前世の記憶があるのか、いつからクリスティーヌにも記憶があると気付いていたのかと問いたいのだろう。
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