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 ルーカスは顔合わせのあと、義父のブラッドリーに謹慎を言い渡され、部屋から出してもらえなかったと聞いた。
 そのお陰か、結婚式では大人しかったので、皆がいるところではさすがに言わないだろうと思っていたのだが。

(どうしましょう。二度目はないとお義父さまは仰っていたのに……せめて馬鹿にするなら、もう少し貴族的な言葉で罵るべきだわ……この子がカヌレ伯爵家を継ぐのは厳しいでしょうね)


 同じく王の資質でなかったマノロを思い出す。
 高貴な家柄に生まれつくというのは、能力が伴わない場合とても気の毒なことだ。


「澄ました顔をして、ロジェ叔父様をどうやってたぶらかしたんだよ?」

 ルーカスはカツカツと靴底を響かせながらクリスティーヌのほうへ歩いてくる。
 レイモンドがクリスティーヌを庇うように一歩前に出たとき、何かが駆けてくるような、残像のようなものが見えた。

 次の瞬間。
 ぐえっ、という低い呻き声が聞こえ、ルーカスを後ろから羽交い絞めにして喉元に短剣を突き付けているロジェが見えた。

「我が妻を侮辱するのは止めろと忠告しておいたはずだ。理解できぬ頭なら、いっそ戯言を吐けぬよう喉を切ってやろうか?」

 ルーカスは首を振りながらはくはくと口を動かし、泡を吹きはじめた。

「ロジェ様、それ以上は危険です!! 私は何を言われても気にしません、大丈夫ですから」

 叫ぶクリスティーヌを無視するようにロジェは続けた。

「クリスティーヌの優しさに付け込んで暴言を吐きながら、そのクリスティーヌに懸想するルーカスを許すほど、私は甘くない」

「どういうこと!?」

 ミシェルが声を上げた。
 クリスティーヌ自身は、薄々感じていたことではあった。

(こういう男の子、昔から割といるのよね……)

 どういうわけか、粗野な男性に好かれる傾向にあるのだ。
 庇護欲をそそるとよく言われる見た目のせいだろうか。
 それは逆に残虐性を煽るともいえる。

 ロジェはルーカスを気を失わない程度に締め上げたあと、手を離して床に転がした。
 そして腹を踏みつけ、上から絶対零度の表情で睨みつけている。

「一度だけならまだしも二度までも。私が自らクリスティーヌの下賜を願ったこと、知らぬとは言わせない」

「キャッ!! ステキッ!!」

 小声ではあったが、またしてもミシェルだ。
 この可愛い人は、どうにも素直で困る。

「たとえクリスティーヌが私を愛することがなくとも、私は絶対に手放さない。お前の出る幕はないのだと、今ここで胸に焼き付けろ」

 ミシェルは胸の前で手を組んでうっとりしはじめた。
 クリスティーヌはロジェの言葉よりミシェルが何かしでかさないか、そればかり気になって集中できなかった。

「ミシェルお前、せっかくの場面なのに……」

 レイモンドが頭が痛いという顔をして呟き、クリスティーヌに「申し訳ない」と謝ってきた。
 クリスティーヌは全力で首を振る。
 クリスティーヌはそんなミシェルが大好きだし、癒される。何度もループしているクリスティーヌからすると、年上だけど年下みたいなミシェルが可愛くて仕方がない。

(それに、ロジェ様の言葉が嬉しすぎて、くすぐったい……)

 ルーカスがクリスティーヌにちょっかいかけないよう、釘を刺してくれたのだろう。そのために色々言ってくれているのだと思えば、嬉しくないはずがない。


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