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 あの王家の別邸で、今世のマイナはダヌシュカのドレスを着ていた。
 彼女の清らかな美しさに映えていて、目を奪われた。フリルやリボンは、彼女のために生まれたのかと思うほど。

(それをマノロ殿下はダヌシュカのドレスを馬鹿にしたのよね……知らないというのは恐ろしいことだわ。品質の良さは王都一と呼ばれているブランドなのに……)



 あの悪夢の夜が明け、長い時間結ばれていたクリスティーヌの手首は、赤く腫れてしまった。
 クリスティーヌの支度のために部屋に入ってきたマルティンは、ほぼ裸の状態で拘束されているクリスティーヌの姿を見て悲鳴をあげた。
 王太子は震えたまま気絶したので、クリスティーヌの足元に転がって寝ている。
 その異様な風景に、動じないはずの王宮侍女であるマルティンでさえ涙を浮かべていた。

「クリスティーヌ様、もしや……」

 貞操を奪われたのかと聞きたいのだろう。
 首を振り、紐を解いてもらって別室へ移動した。
 マルティンは温かいお湯に浸したタオルで体中を拭ってくれた。
 その優しい手つきに、こらえきれなくなった涙が一筋零れてしまった。
 そんなクリスティーヌをマルティンがギュッと抱きしめる。

「離宮に戻ったらヘンリエッタ様にすぐ報告しましょう。必ず保護してくださいます」

 ヘンリエッタは妃たちが住まう離宮を掌握していた。
 何年もかけて侍女頭やメイド長、護衛騎士まで。ありとあらゆる味方を増やし、横暴な王太子から女性たちを守ってきたのだ。マルティンをクリスティーヌの侍女に推してくれたのもヘンリエッタだという。

 そのマルティンの言葉にうなずき、何とか気を取り直して朝食の席へ向かった。
 対面したマノロ殿下は、何事もなかったかのようにニタニタと、いつも通り気味の悪い笑みを浮かべていた。

 食堂にはすでにタルコット夫妻が席に着いていた。

「マイナ夫人、この城は療養目的で作られているだけあって、快適だっただろう?」

「はい。とても」

 マイナは無表情で答えていた。
 本来なら、夫婦水入らずで楽しむためのバカンスだったはずだ。
 レイは王位継承権を持つ身のため、この王家の別邸が利用できる。
 二人から歓迎されていないというのに、マノロ殿下は空気など読まない。読めない、といったほうが正しいかもしれない。

「そうだろう、そうだろう。お祖父さまがご存命のころは、私もよく訪れたものだ。タルコット卿も、夫人を伴って出かけるならもっと準備をするべきだろう? 余興も足りぬ上に、使用人もそれっぽっちしか連れてこないとは。いささか不用心では?」

「我が家は少数精鋭ですし、私は身の回りのことは自分でしますので今のままで十分ですね」

 レイはしれっと答えていた。
 確かに、彼はクリスティーヌと偽装結婚していたときも、女性の使用人を寄せ付けなかったし、侍従が一人付いていたぐらいで、自分のことは自分で行っているようだった。

「そんなこと言ってるから夫人のドレスがその程度の物になるのであろう? マイナ夫人もそんなものでは不満だろう。私の妃ともなれば……」

「殿下、お迎えが来たようですよ」

 レイの冷たい声が響く。
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