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「では次に、今後のスケジュールですが、」

 ロジェに見惚れるクリスティーヌに向け、彼はこほんと、場の雰囲気を正すように咳ばらいをした。
 ハッとしたクリスティーヌの前に、別の書類が置かれる。
 それを手に取ったところで扉の辺りが騒がしくなり、派手な音を立てて扉が開いた。

「会いたかったよ、クリスティーヌ!!」

 大声で叫ぶ王太子殿下が、まばゆい飾りのついた豪奢な衣装を着て駆けつけたのであった。
 殿下の護衛が慌ててる様子から、この行動が予定外のものであることがわかる。

「お会いできて光栄です、マノロ殿下」

 慌てて立ち上がったクリスティーヌは、淑女の礼をとった。

「そんな挨拶はいい。こんなところに閉じ込められては気の毒だ。さぁ、お前の離宮を用意している。すぐに行こうではないか」

 マノロはクリスティーヌの腕を持ち、ぐいっと引っ張った。
 まさかそこまで不躾な事をされるとは思わず、驚きと共に痛みに顔を歪めてしまった。

「殿下、まだ契約が完了していません」

 ロジェが護衛騎士に手を振ると、近付いて来た護衛騎士がクリスティーヌの腕を掴んでいるマノロ殿下を引きはがしてくれた。

「貴様!! この私に歯向かうとはいい度胸だ!! 打ち首にしてやろう!!」
「お言葉ですが殿下。殿下にそのような裁量権はございません」

 ロジェの冷たい声がマノロ殿下を遮った。

「なんだと!?」
「王族の一言で民や臣下を裁く時代ではなくなったのですよ? 裁判というものをご存知ですか?」
「そっ、そんなことは……し、知っているっ!!」
「左様でございますか。ではクリスティーヌさまが『愛妾』という役職であり、契約を交わさなければ殿下にお仕えすることができない、ということは?」
「もちろん知っている!!」
「ようございました。では契約を交わした後、クリスティーヌ様はすぐに医師の診察を受け、三か月ほど殿下との接触はできない、ということもご存知ですね?」
「そんなにか!?」
「ご存知ない?」

 ロジェの鋭い視線と言葉に、マノロ殿下はぐっと喉を詰まらせたような声をあげた。

「これでも急げという殿下のお言葉により、最短でお迎えしているのですが。本来であればバルト男爵家に家庭教師を派遣し、行儀作法の確認などを行い、足りない教養部分があれば学び直していただいた後、半年ほど間を置いてからの登城となるわけですが」

「なぜそんなに時間がかかるのだ!?」

「それでも短いぐらいです。妃候補ともなればその何倍もの期間が必要となります。王家の子を授かるかも知れない女性には、それほどの準備が必要だということをお忘れですか? ご側室様をデビュタントの日に寝所に連れ込んだとき、既に特例は使い果たしたとお伝えしたはずですが? そもそも、公妾制度のないベツォ国で愛妾という特例を持ちだすのは三代ぶりであり、まさかまさか第二ご側室になさりたいなどという、最大の特例を通そうとし、議会で大反対されたことはお忘れではないですよね?」

「その話はもういい!! これから三か月もかかるのは何でだ!?」
「ですから、準備です」
「何の!?」

 まくしたてるマノロ殿下を、ロジェは目を眇めて睨んでいた。
 見ているこちらまですくみ上るような迫力だ。

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