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0.プロローグ
しおりを挟むベツォ王国、宰相の執務室にて――
「クリスティーヌ様、ここまでの説明で、何かご質問は?」
皆から怖いと評判のロジェは長く美しい銀髪を横に流して結っており、銀縁の眼鏡からのぞくアイスブルーの瞳もまた、工芸品かと思うほど美しい。
端正な顔立ちがより一層、彼を怜悧に見せるのだろう。
「ございません」
静かに答えたクリスティーヌの顔を、ロジェがジッと見つめる。
多くの人がロジェを怖いと恐れる理由は、この視線のせいらしい。
クリスティーヌは背筋をぶるりと震わせて、目の前の書類に目を通した。
そこにはクリスティーヌとロジェの契約結婚における予算額や、式の日取りなどが詳細に書かれていた。
(ロジェ様が私を保護して下さるなんて…… 今世はなんて恵まれているのかしら)
きちんと契約を書面にしたためるあたり、さすが宰相といえるだろう。
クリスティーヌが勘違いしないよう線引きしてくれているのだ。
あくまでも王命であり、マノロ殿下の愛妾だったクリスティーヌの保護が目的であると。
つまりこれは下賜という名の契約結婚である、ということを忘れてはいけない。
クリスティーヌを疑うような眼差しで見ているロジェに、ことさら『わかっている』という顔を作り、こくこく頷いた。
もちろん契約に異を唱えたりはしない。
私を愛して欲しいなどという願いなどない。
むしろ契約結婚であるからこそ、クリスティーヌは了承したのだ。
「あの、サインはどちらに!?」
そうと決まれば、多忙なロジェを煩わせることなくサインするべきだろう。
しかし手元の書類には、サインをする箇所が見当たらなかった。
ロジェには溜息を吐かれたような気がするが、契約内容が書かれた書類とは別に、婚姻許可書を差し出された。
夫の欄に記入済みのロジェの達筆なサインに感心しながらサインをするクリスティーヌだった。
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