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122.お披露目(3)
しおりを挟む「ミケロと言いましたね」
エラルドに扮したミケロが笑顔をマイナに向けて「はい」と答える。
「一緒に厨房へ」
「かしこまりました!!」
ミケロを厨房へ招き、準備を整えて食堂へ戻ると、レイと陛下はいまだにどちらに似ているか論争を繰り広げている最中だった。
両親といい、陛下もなぜそんなにもムキになれるのだろう?
どう見てもケンちゃんはレイに似ている……と、マイナは思うのだが。
これもまたムキになっているという状態なのだろうか。
「お待たせ致しました」
出来上がりからずっとミケロが持っていたプリンアラモードを陛下の前に出してもらう。
レイとマイナの分のプリンアラモードをテーブルに置きながら、嬉しそうな顔をしている陛下を覗き見た。
陛下の後ろにはミケロが付き、ニコはそのままの場所でケンちゃんを抱いたまま立っていた。
他の使用人たちは人払いをしてある。
シモンとアンだけでなく、ミリアとエラルドも控室で待機中だ。
「この身分になっても、マイナ夫人の手作りをいただけるとは思ってなかったよ。ありがとう」
切なげに寄る眉を誤魔化しながら笑う陛下に、胸がいっぱいになってしまった。
『毒見で欠けていないプリンモードを陛下に食べていただきたい』というマイナの我がままを、レイと陛下とミケロが、そしてあの、ぶりざーど宰相が叶えてくれたのだ。
作っている間もずっとミケロに見張ってもらい、毒の混入がないことを証明すれば可能ではないかと考え、皆に了承を得た上で実現したことだった。
マイナの感傷に近い想いに一国の王を付き合わせるのかと問われれば、その通りとしか言いようがない。
まさか宰相が快諾してくれるとは思わず、今日この瞬間を迎えるまでマイナは密かに緊張していた。
レイいわく、宰相はマイナに感謝しているのだという。
(本当の意味で陛下を救ってくださったのはシャンタルさまなのだけれど……)
シャンタルにそんなことを言っても、あのツンデレ魔女は絶対に頷かないとは思うけれど。
「ミケロ、このプリンアラモードに毒は入っていないな?」
わざと確認するように陛下が問うと、ミケロは「この国の王子ともいえるお子さまを生んでくださったタルコット夫人の手作りです。毒など混入されるはずもありません。全ての工程を拝見し、途中で味見もしましたが、全く問題ありませんでした」と答えてくれた。
「なんだミケロ、お前が先に食べるとは」
「ある意味、毒見ですよ」
「なにがある意味だ。お前、昨日からウキウキしてたではないか」
「そりゃぁ、ウキウキもしますよ。我が君と二人きりでのお出かけ、しかも我が君の初恋の君のデザートをいただけるんですから!!」
なんとも余計なことを言い放ったミケロは、陛下に叩かれていた。
レイのこめかみがピクピクしている。
「あの、そろそろ食べませんか?」
思わず声をかけてしまった。
背の高いガラスの器に盛った、プリンとメロンとキウイとバナナとオレンジとクリーム。
その上に乗ったさくらんぼ。
前世でお妙さんが作ってくれたプリンアラモードである。
「うむ。いただこう」
前世の記憶が戻ったとき、最初に作ったデザートはプリンでありプリンアラモードであった。
マイナにとっても、なぜか一番心に沁みるデザートだ。
素朴なのにどこか贅沢に思えるのはフルーツの多さだろうか。
「あぁ、懐かしい」
ひと口含んで、陛下がしみじみと語る。
煌びやかなタルコット公爵家の食堂で食べるプリンアラモードは、べイエレン公爵家での三人の思い出を優しい味と共に思い出させてくれた。
幼少期から多忙だった陛下とは、お菓子を食べたりお茶を飲んだりするぐらいの時間しかなかったけれど。
季節の花を眺めながら庭を歩いた穏やかな記憶が鮮明に蘇った。
「お口に合いますか?」
「もちろん。マイナの料理の中で、一番好きだよ」
陛下が殿下であったころのような屈託ない笑顔を浮かべてくれたことが嬉しかった。
「マイナの笑顔と共に、私の幼少期の記憶に刻まれているものだからな」
「我が君、僕も完成品が食べたいです」
「お前にはやらん。今、マイナとイイ感じだったのに邪魔をしおって」
「イイ感じとは何です? どのあたりがですか? マイナマイナと我が妻を馴れ馴れしく名前で呼ばないでいただけますか?」
「うるさいな、レイ。今日ぐらいいいだろう」
「よくありませんね。その辺りはキッチリしていただきませんと」
「あー。うるさい。お前の父は少々うるさいな?」
ニコが抱くケンちゃんを見て陛下が呟くと、キャッキャとはしゃぐような声を出してケンちゃんが笑った。
「笑ったか!?」
「笑ったかな?」
「笑いましたね?」
陛下が素で驚き、レイは首を傾げ、マイナは思わず立ち上がった。
ケンちゃんを抱いたニコは顔を見ていたらしく「笑っていらっしゃいます」と陛下にケンちゃんの顔が見えるように屈んだ。
レイも思わず立ち上がり、食い入るように見つめている。
これまでも何度か笑うことはあったが、ハッキリと声を上げて笑ったのは始めてだろう。
タルコット公爵家の食堂は、ケンちゃんの笑い声と皆の笑顔で溢れかえった。
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