【完結】なんちゃって幼妻は夫の溺愛に気付かない?

佐倉えび

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101.ちらし寿司

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 食堂へレイに運ばれている間も、昼間のエレオノーラの発言が頭をよぎって仕方がなかった。

(ヤンデレ……もしかしてレイさまってヤンデレ……いえ、単に私の足を心配しているだけのはず……でも、今日は妙な気迫があるし……)

 マイナがモゾモゾ動くたびにレイが気にする素振りを見せるので、安心させるように微笑んでおいた。
 多少は緊張感が弱まった気がするが、やはりどことなく表情が硬い。

 もしかして……。

「あの、今朝のお食事がやはり……不評でしたか?」

 レイにしか聞こえない声で囁いた。

 義父母があまりにも和食に抵抗を示さないので、味噌を知らない人がネギ味噌焼きおにぎりを見ると、色に驚くということを失念していた。
 驚かなかったのはバアルぐらいだろう。
 彼は興味の方が勝ったようだった。

「いや、すごく感心していたし、本当に喜んでたよ」

「……でもお義母さまが……」

 驚かせてしまったお詫びも兼ねて、晩餐は可愛らしいちらし寿司を作ってもらった。
 円形の小さな型に、スモークサーモンときゅうりと酢飯を重ねて層にしてもらい、上にもたっぷりサーモンをのせて錦糸卵を真ん中にちょこんと置いて、その上にぷりぷりの海老をのせてもらった。
 義母は海老だけでなく貝類も好きだとバアルに聞いたので、はまぐりのお吸い物も添えてもらった。

「母上も見た目に驚いたようだけど、父が食べているのを見て安心したようだったよ」

「本当に?」

「うん、大丈夫だから。むしろ……」

「むしろ?」

「……いや、なんでもない」

 レイはそう言ったきり、口をつぐんでしまった。

 心配していた義母は、嫌がる素振りもなく晩餐では嬉々としてちらし寿司を食べてくれた。
 味や見た目を気に入ってくれたようで、義母はずっと笑顔だった。

 義父は食べ足りない様子で何度もおかわりをしてバアルを忙しくさせていた。
 まかない分には回らないかもしれない。

(お義父さまだと、ふた口なんだもの………足りないわよね)

 けれども、味は大層気に入ったらしく今度は大きく作れと言ってバアルを苦笑させていた。
 義母のためのチラシ寿司なので、それでは本末転倒なのだが、そんな義父を義母は微笑ましいという顔で眺めていたから、次は大きくてもいいのかもしれない。

 そういえば今朝はやけに義父がお喋りだった。
 今までの食事の中で気に入ったものを色々と教えてくれたが、特に餡子に執着していることがわかった。

(領地の料理人に来てもらって、イーロと一緒にドルーに弟子入りしてもらおうかしら?)

 それが一番、安全に餡子を領地で食べてもらえる案だと思う。

 そんなことを考えながら湯浴みを終え、夫婦の寝室に入るとおもむろにレイに抱きしめられた。

 一体、何があったというのだ。
 やっぱりおかしい。
 いつもなら、お酒でも飲みながらのんびりする時間である。

「レイさま、何があったのです?」

「……父上が……マイナの料理を気に入り過ぎて、領地に連れて行くと言いだした」

「バカンスですか?」

 それとも新婚旅行だろうか?
 領地に?

「いや、マイナを預かるという言い方をしていたから……」

「預かる……なぜ?」

 つまりレイとは離れ離れということだろう。
 城で何かよからぬことでも起きているのか?
 いや……先ほど料理を気に入ったと言っていたから、まさかそれだけで?

「戴冠式が終わるまでには子ができているだろうと、領地にいたほうが子がよく育つからと、医者や産婆を連れて行くと言ってきかない」

「すみません、ちょっと理解が追いつかないのですが……」

「そうだよね、ごめんね。突拍子もないのはいつものことだけど参るよ。子どものことは建前で、本当はマイナの料理が領地でも食べたいというのが本音なんだ」

「なぜそうなります!?」

「父上の中では何ら不思議なことでもない、整合性のとれた話になってるんだよ。父の傍にいる人間はみな、この手の父の思いつきに振り回されてきたんだ」

「極端ですね」

「そういう人なんだよ。マイナ、お願いだから父上から誘われても、領地には行かないと断って欲しい。お願いだから」

「なるほど。それでレイさまは不安そうにしてたんですね」

 怯えたようにマイナを抱きしめるレイの背中を、安心させるように撫でた。

「レイさま、今朝、わたくしがなぜネギ味噌焼きおにぎりを作ったかご存知ですか?」

「父上を喜ばせるためでは?」

「違いますよ」

 レイの胸元を押し、顔をあげて微笑んだ。
 不安そうなレイの顔を両手で挟む。

「レイさまは、甘めの味噌味お好きですよね? サバの味噌煮まで食べられる和食上級者ですもの。まだ披露していない甘味噌分野があったと、わたくし気付いたのですわ」

「それって」

「そうです。レイさまに喜んでもらいたかったのです。ですから、お義父さまに領地行きを勧められても、お断りしますし、わたくしはレイさまの傍を離れません」

「マイナ……!!」

「もう、レイさまってば心配し過ぎです! わたくしがレイさまの傍を離れるわけないでしょう?」

 だって、レイさまのことが大好きなんですから。

 という言葉は、レイの唇に塞がれて紡ぐことはできなかった。

 少々刺激し過ぎたらしい。
 眠りについたのは真夜中をだいぶ過ぎた時間になってしまった。

 翌日は起き上がることができず、朝食の席に着くことができなくなってしまったマイナであった。




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