【完結】なんちゃって幼妻は夫の溺愛に気付かない?

佐倉えび

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91.蜜月

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 マイナはパッチリと目を開けた。
 何度か瞬きを繰り返し、ここがどこであるかを考えた。

(寝室だわ……)

 寝室である。
 なんだか首が痛い。

(これが腕枕というやつね!?)

 細く見えても男性のレイの肩回りはなかなか立派である。
 首が変な角度で乗っている。
 気絶するように眠ったのですっきりはしているが、体はあまり動かせなかった。
 静かに寝息をたてるレイに手を伸ばし、体を揺すった。

「レイさま、登城の時間では!?」

「……ん」

「ん! じゃないです! 可愛いけど! 起きて! 大変、遅刻しちゃう」

 レイを起こすためにも、まずはマイナが起き上がらなくては。
 体の下側にある手を動かそうとしたが、痺れて動かすことができなかった。
 仕方がないので先ほどレイを揺すったほうの手でベッドを押して起き上がろうとしたけれど、今度はレイの体に阻まれた。

「レイさまー!! 遅刻ー!!」

 マイナの大声でようやく目を開けたレイは、こちらを向くと寝起きとは思えない美しい笑顔を浮かべてマイナの頭を撫でた。

「撫でてる場合じゃないですよ!! 遅刻します!!」

「今日は休みだよ」

「休み!?」

「言うの忘れてた。ごめんね」

 マイナを抱き込むように体勢を変え、髪に顔をうずめるようにしてまた眠ろうとしている。
 マイナはすっかり目が覚めてしまった。

(裸なのよ! 裸!! 着ていたヒラヒラのナイトドレスはどこにあるのかわからないし)

 上質な布団と艶々のレイに囲まれて全く寒くはないが落ち着かない。
 意識しては駄目なやつである。
 レイがいい匂い過ぎて困る。
 あと服が着たい。
 ヒラヒラのやつじゃなくて、安心感のあるやつが着たい。

「お腹すいたなぁ~」

 わざとらしくアピールしてみた。
 さすがにお腹をすかせたマイナを放っておくことはないだろう。

 マイナから離れたレイは、少し起き上がってベルを鳴らした。
 すぐにニコが来てくれた。
 天蓋のカーテン越しでもシルエットでわかる。
 寝ずの番でもしていたかのような速さであった。

「お呼びでしょうか」

「何かつまめるものとスープを」

「かしこまりました」

 何をかしこまったのだ。
 そしてなにをつまむというのだ。

 マイナは起きたくてウズウズしているというのに。

「あの、マイナさまは」

「すごく元気だよ。大丈夫」

「……ありがとうございます。すぐにお持ちします」

 カーテン越しにニコが頭を下げたのがわかった。
 光の速さで駆けていく後ろ姿まで見えたような気がする。

「食堂に行かないんですか!?」

「なんでこんな大切な日に、何が悲しくて父上の顔を見ながら食事をしなきゃならないんだ。ここで食べるよ」

「ええええ」

「大丈夫。たぶん、おにぎりがくるよ」

「あぁ! なるほど……ってそうじゃない!! わたくし起きたくてたまらないのだけど」

「え、」

 再び寝ようとしていたレイが目を見開いてマイナを見た。
 どことなくショックな顔をしているのはなぜだ。

「なんで……こうしてるのが嫌?」

「嫌じゃないですよ! でもなんか動きたいというか体を起こしたいというか服を着たいというか、落ち着きたいんです!!」

「ふぅん?」

 なぜか意地悪な顔をしたレイは、髪をかきあげながら起き上がった。
 ものすごく目のやり場に困るので、こっそりレイに布団を掛けてしまった。

「起きられるの?」

「だからなんでそんな意地悪な顔を……起きられるに決まってるじゃないですか」

 よいしょ!!
 両手を突いて体を起こそうとして、ペシャッと潰れた。

「なんで!?」

「仕方ないよ。初めてだし」

 仕方ないだろうか!?
 よくよく体を観察してみると、全身筋肉痛であった。

「体中が痛い……」

「筋肉痛だね」

「信じられない、運動不足にもほどがあるわ」

 プルプル震えるマイナを抱きしめて、レイが呟くように言った。

「すぐ慣れるよ」

「耳元でそういうこと言うのは禁止ー!!」

「さすがに大声は情緒がないなぁ。焦ってて可愛いけど」

「お風呂、湯あみ、湯あみします。そして服を着させて」

「そういえば昨日ガウン着てこなかったね」

「ニコがダメだって」

「冷えないようにってミリアに言っておいたのに」

「ミリアもわたくしもニコにそう言いましたよ。でも今度こそは絶対にと燃えるニコは気合が入りすぎていて……」

「あぁ。そうか。それは私に非があるからニコは責めないであげて」

「いえ、レイさまのせいではなく、むしろわたくしがニコに色々と心配をかけたので申し訳なくて強くは言えなかったのです……それよりガウンだけでも着ていいですか? 持ってないけど。いっそレイさまのやつを。むしろレイさまのやつを」

「んー。どうせまたすぐ脱ぐのに」

「ハイ!?」

 レイはとろりとした笑顔を浮かべながらガウンを着せてくれた。

(せっかく着せてもらったのに、脱ぐだと!?)

 マイナは限界である。
 嘘だろ、という顔を隠さずにレイに向けた。

「蜜月と呼ぶには少し時間が経ってしまったけれど、いいものだねぇ?」

 言っているそばから怪しい動きをするレイに絶句するマイナであった。




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