【完結】なんちゃって幼妻は夫の溺愛に気付かない?

佐倉えび

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15.日本酒

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ホットワインで気絶するように寝てしまったせいだろう。
レイは楽しかった休みの日をしめくくるように日本酒を出してくれた。

「日本酒!!??」

「うん、やっと手に入ったんだ」

「凄い! 異世界で日本酒!!」

「イセカイってよく言ってるけど、今はここが現世だからイセカイは前世のほうじゃないの?」

「レイさまって、やっぱり鋭いですよね。実はわたくしも最近そのことについてよくよく考えていたところです」

「そう?……ところで、イカのお腹に米を詰めるの??」

「はい。イカ飯です!!」

「いかめし……そのまま? 丸ごと!?」

「はい!! 日本酒があるならもう、張り切っちゃいますので待っててくださいね!?」

「わかった」

目を細めたレイはマイナの頭をひと撫でして厨房に持ち込んだ椅子に座った。
見られながら料理するというのも非常に恥ずかしいけれど、追い出すと不貞腐れてしまうので我慢である。

「立派なイカがたくさんあってよかった~!!」

ニコやヨアンや使用人たちにも食べてもらいたい。

足と軟骨とわたをとりのぞいて、漬けておいたうるち米ともち米に足を刻んだものとみりんと醤油を混ぜてイカに詰め込む。
パンパンになったイカを鍋に並べてて料理酒、醤油、みりん、砂糖を加えて煮込み始めた。

料理酒やみりんも手に入りにくく高価だが、そこはタルコット公爵家である。
一度、料理酒を舐めてみて日本酒の代わりにならないか試したことがある。
べえってしたのは内緒だ。

「あとは、焼きナスと……」

祖父は凝った料理が好きというより、素材の味を生かした料理を美味しく食べることが好きだった。
それはマイナにもいえる。

とはいえマイナはちゃんと現代っ子だったので、イタリアンだって大好きだしジャンクフードだって大好きだった。
若い子たちが食べるようなものは一通り好きだった。

一番が和食であり、米だというだけ。

だからマイナにとって、メニューはその時々の気分であり、自由である。

「レイさまの好きな鯖の味噌煮!! と、言いたいところだけど」

「え、却下? 心が踊っちゃったよ?」

本を開き、読み始めていたレイが顔を上げた。

「イカ飯と味の方向性が被るから、カプレーゼにしようかな。途中でレイさまはワイン飲むでしょ?」

「そうだね」

「じゃあ決まりっ!!」

トマトとチーズを切って、オリーブオイルとレモンと塩コショウをかければできあがり。

(楽ちん! あとはスープをバアルが作ってくれたし、こんなもんでいいかな?)

出来上がったイカ飯を切り分けて、焼きナスにショウガをのせる。
カプレーゼとバアル特製スープを添えて。

「なんだろう、何となくアンバランスだな……枝豆があったほうがよかったかなぁ??」

「奥様ー! 枝豆ならありますよー!! 茹でますかー!?」

厨房からバアルが叫ぶ。

バアルもマイナが厨房にいたり料理をしたりすることに慣れてくれたので、気さくに話せるようになってきたのだ。
このぐらいの関係がいい。

肩の力を抜いたやりとりで、ご飯がもっと美味しくなるだろう。

「お願いしまーす」

元気よく返事を返して、ご機嫌な様子のレイと日本酒を乾杯して口をつける。

「ふあああ。これはまたずいぶんとスッキリ爽快!」

キリッとして、なかなかの辛口だ。

「なるほど、こういう味か」

「鼻に抜ける香りが独特でしょ?」

「そうだね」

「どう? 好きになれそう?」

「うん、好きだよ。イカ飯も初めて食べたけれど美味しいね。モチモチしていて食感もいいし、イカの香りが日本酒とよく合うね」

マイナがどんな料理を作っても、嫌がらずにチャレンジしてくれるレイをとても好ましく思う。


「幸せだなぁ。美味しいご飯と、美味しいお酒と素敵な旦那さま」


うっとりと囁くと、レイは柳眉を上げてマイナを見た。
朝も昼も夜も、レイは美しい。
お猪口を持つ長い指まで美しい。

「マイナ」

(あぁ、声も美しいの、どうして?)

心の叫びをぐっと呑み込んだ。

「なぁに?」

「大好きだよ」

「……う、うん……うん……?」

(大!? 大きい!? 大きく好きってこと!? レイの好きは大きいの!? どゆことー!?)

不意打ちの告白に打ちのめされるマイナであった。


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