【完結】なんちゃって幼妻は夫の溺愛に気付かない?

佐倉えび

文字の大きさ
上 下
15 / 125

15.日本酒

しおりを挟む



ホットワインで気絶するように寝てしまったせいだろう。
レイは楽しかった休みの日をしめくくるように日本酒を出してくれた。

「日本酒!!??」

「うん、やっと手に入ったんだ」

「凄い! 異世界で日本酒!!」

「イセカイってよく言ってるけど、今はここが現世だからイセカイは前世のほうじゃないの?」

「レイさまって、やっぱり鋭いですよね。実はわたくしも最近そのことについてよくよく考えていたところです」

「そう?……ところで、イカのお腹に米を詰めるの??」

「はい。イカ飯です!!」

「いかめし……そのまま? 丸ごと!?」

「はい!! 日本酒があるならもう、張り切っちゃいますので待っててくださいね!?」

「わかった」

目を細めたレイはマイナの頭をひと撫でして厨房に持ち込んだ椅子に座った。
見られながら料理するというのも非常に恥ずかしいけれど、追い出すと不貞腐れてしまうので我慢である。

「立派なイカがたくさんあってよかった~!!」

ニコやヨアンや使用人たちにも食べてもらいたい。

足と軟骨とわたをとりのぞいて、漬けておいたうるち米ともち米に足を刻んだものとみりんと醤油を混ぜてイカに詰め込む。
パンパンになったイカを鍋に並べてて料理酒、醤油、みりん、砂糖を加えて煮込み始めた。

料理酒やみりんも手に入りにくく高価だが、そこはタルコット公爵家である。
一度、料理酒を舐めてみて日本酒の代わりにならないか試したことがある。
べえってしたのは内緒だ。

「あとは、焼きナスと……」

祖父は凝った料理が好きというより、素材の味を生かした料理を美味しく食べることが好きだった。
それはマイナにもいえる。

とはいえマイナはちゃんと現代っ子だったので、イタリアンだって大好きだしジャンクフードだって大好きだった。
若い子たちが食べるようなものは一通り好きだった。

一番が和食であり、米だというだけ。

だからマイナにとって、メニューはその時々の気分であり、自由である。

「レイさまの好きな鯖の味噌煮!! と、言いたいところだけど」

「え、却下? 心が踊っちゃったよ?」

本を開き、読み始めていたレイが顔を上げた。

「イカ飯と味の方向性が被るから、カプレーゼにしようかな。途中でレイさまはワイン飲むでしょ?」

「そうだね」

「じゃあ決まりっ!!」

トマトとチーズを切って、オリーブオイルとレモンと塩コショウをかければできあがり。

(楽ちん! あとはスープをバアルが作ってくれたし、こんなもんでいいかな?)

出来上がったイカ飯を切り分けて、焼きナスにショウガをのせる。
カプレーゼとバアル特製スープを添えて。

「なんだろう、何となくアンバランスだな……枝豆があったほうがよかったかなぁ??」

「奥様ー! 枝豆ならありますよー!! 茹でますかー!?」

厨房からバアルが叫ぶ。

バアルもマイナが厨房にいたり料理をしたりすることに慣れてくれたので、気さくに話せるようになってきたのだ。
このぐらいの関係がいい。

肩の力を抜いたやりとりで、ご飯がもっと美味しくなるだろう。

「お願いしまーす」

元気よく返事を返して、ご機嫌な様子のレイと日本酒を乾杯して口をつける。

「ふあああ。これはまたずいぶんとスッキリ爽快!」

キリッとして、なかなかの辛口だ。

「なるほど、こういう味か」

「鼻に抜ける香りが独特でしょ?」

「そうだね」

「どう? 好きになれそう?」

「うん、好きだよ。イカ飯も初めて食べたけれど美味しいね。モチモチしていて食感もいいし、イカの香りが日本酒とよく合うね」

マイナがどんな料理を作っても、嫌がらずにチャレンジしてくれるレイをとても好ましく思う。


「幸せだなぁ。美味しいご飯と、美味しいお酒と素敵な旦那さま」


うっとりと囁くと、レイは柳眉を上げてマイナを見た。
朝も昼も夜も、レイは美しい。
お猪口を持つ長い指まで美しい。

「マイナ」

(あぁ、声も美しいの、どうして?)

心の叫びをぐっと呑み込んだ。

「なぁに?」

「大好きだよ」

「……う、うん……うん……?」

(大!? 大きい!? 大きく好きってこと!? レイの好きは大きいの!? どゆことー!?)

不意打ちの告白に打ちのめされるマイナであった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
 王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

処理中です...