【完結】なんちゃって幼妻は夫の溺愛に気付かない?

佐倉えび

文字の大きさ
上 下
4 / 125

4.プリン

しおりを挟む


「やはりマイナのプリンが一番だな」
「レイさま、それは違います。素晴らしいのは『コッコ』の玉子です。コッコの玉子のために実家へ足を運びました」

「そうか。確かにコッコは素晴らしい雌鶏だと思うが、プリンを作ったのはマイナだろう?」
「そうですけれど。プリンは簡単なんですよ?」

「そうだろうか? マイナの作る料理はどれも手が込んでいるが」
「わたくしなんて、お妙さんの足元にもおよびません」

「お妙さんか。どんな人だったの?」
「凄く優しくて綺麗な方でした。長らく独り身だったお爺ちゃんと結婚してくれたらと何度思ったことか」

「そういった雰囲気は?」
「実は若干ありまして。ですが、前にお話したように、わたくしの記憶は二十五歳までで、それ以降のことはよくわからないのです」

「では、いい未来だったと、そう思うことにしたらどうだろう?」
「そうですね。そうします。厳しそうに見えて、お爺ちゃんは結構おちゃめでしたし、お妙さんもそんなお爺ちゃんにまんざらでもなさそうだったような?」

「そうか……ところで、帰ったら私も『らーめん』を食べられるのかな?」
「ごめんなさい。まだタルコット公爵家のシェフ、バアルと審議中でして」

「何か問題でも?」
「バアルは麺が縮れてるのがどうにも我慢ならないようです」

「縮れか」
「それによってスープが絡みますし、わたくしとしては縮れさせたい」

「バアルはストレートにしたい?」
「はい。いえ、あるんですよ? 縮れていないものも。ですからわたくしが妥協すればよいのですが」

「マイナが妥協する必要はないだろう」
「ごめんなさい、妥協という言葉が悪かったですね。ストレートもまた違った食感になりますし、実家との差別化という意味でも、それに合わせて味を変えてみようかとも思っているのですが、どのぐらい味が絡むかとか、あとは材料費が高すぎますし、そのあたりを審議中なのです」

「マイナが望むのであれば何をどれだけ使っても構わないとバアルには言い含めておいたのだが、申し訳ない」
「なぜレイさまが謝るんです!? バアルからも気にせず使って欲しいとは言われたのですが、純粋な醤油ラーメンを思いついてしまいまして、それが頭から離れなくなってしまって……いくらなんでも醤油と煮干しが高すぎて迷いが……」

「醤油も煮干しも我が邸にたくさんあるだろう?」
「いかんせんこの世界の醤油と煮干しは高すぎるので、それは無駄遣いというものでしょう。スープも全部飲み干してしまえば塩分過多ですし、飲まないスープに大量の醤油はとても気が引けます。ストレートの麺だと絡まないことを考えると少し強めに使うことになりそうですし」

「またそのようなことを。高いものを購入し、市場を活性化させるのも私たち貴族の役目なのだから気にしなくていい」
「そうは言ってもですねぇ。やっぱり……」


「そろそろ僕がいるってことを思い出してもらってもいいかな!?」


 ヴィヴィアンの問いかけに、ソファーで仲良く並んでプリンを食べていたレイとマイナがこちらを向いた。


「ここ、僕の執務室って知ってた!?」
「いやですわ殿下。もちろん知っております」

「他人行儀~! いつもの口調どうしたの~!?」
「王宮に来ておりますので、わきまえておりますの。オホホ」

「いや調子狂うから、普通でいいよ」

「殿下もさっさとプリン食べたら?」
「レイはわきまえてくれるかな!?」

「ちっ」
「え!? 舌打ちした!?」

「いいえ、そんなそんな。なぜ我が妻のプリンを殿下にまでおすそ分けしなければならないのか疑問には思っていますが舌打ちなどはしておりません」
「さっきしてたよね!? それに僕だって食べたいよ、マイナのプリン」

「はっ、また呼びすてですか」
「はいはい。マイナさんのプリンいただきますね!?」

「タルコット夫人と」
「タルコットふじーん、プリンたべていいー?」

「どうぞ、召し上がってくださいまし」
「……ねぇ、夫人」

「なんでございましょう?」
「どうして僕のプリンにはフルーツと生クリームのってないの?」

「えっ」
「えっ?」

「殿下、わたくし……」
「なに?」

「レイさまのことばかり考えていて、忘れておりました」
「どうせそんなことだろうと思ってたよー!!」

 不貞腐れたヴィヴィアンの手に、マイナはちょこんとお詫びのキャラメルを乗せた。

「これはマイナ……いや、夫人のお手製キャラメル!?」
「殿下にわたくしの拙いキャラメルなど渡せません。こちらはべイエレン公爵家のシェフお手製ですからご安心を。手作りキャラメルは自宅用です」

 誇らしげなマイナの様子にヴィヴィアンはがっくりと肩を落とした。

 手作りという『心』が欲しいのに、全く理解してもらえないヴィヴィアンであった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。 何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。 同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。 もうやめる。 カイン様との婚約は解消する。 でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。 愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

処理中です...