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伯爵令嬢は悪役令嬢を応援したい!

リアム(4)

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『おとうさま、おにわでようせいにあいました。おはなのようせいでした。とてもかわいらしかったです』

 アリシアに初めて会った時、その姿のあまりの可愛さに胸を打たれたリアムはそう言って笑ったらしい。
 普段あまり表情が動かない子どもだったので、その様子を見た使用人たちはこの日のことを語り継いでいた。

 しばらく本当に妖精だと思っていたのは、子供のころの恥ずかしいエピソードのひとつだ。
 婚約者候補と呼ばれる相手だと知った後は、何度も婚約者にして欲しいと父に願ったが、なかなか許可されなかった。

 ヴァレンティーナとエミーリアだけでなく、マーガレットとアリシアを含めた四人が、ジークハルトの婚約者候補だったらしく、ジークハルトの婚約が決定してからでなければ許可できなかったらしい。
 それをリアムが知ったのは、八歳でアリシアと無事に婚約できてからだった。
 四歳で出会い、四年ほど粘った結果だった。

 リアムがアリシアにずっと想いを寄せていたことを知っていた使用人たちは、婚約が成立した日に密かに坊ちゃんを祝う会を開き涙した。
 後程リアムの耳にも入ったのだが、とにかく恥ずかしいエピソードだ。




「君は本当に妖精だったのか」
「リアム様、恥ずかしいのでおやめください」

「なぜだ、抱いていないとどこかへ行ってしまうのではないかと思う」
「どこにも行きませんから」

 何度も妖精だと呟きながら顔じゅうにキスをしていたら抗議された。

「私がアリシアを愛していて、婚約破棄などという言葉がいかに馬鹿らしいかを知ってもらわないといけない」
「もう、充分わかりましたわ!」
「本当に?」

 思わず疑わし気な目を向けたリアムを、深呼吸したアリシアが見上げた。

「正直に申し上げます。わたしはリアム様を心からお慕いしております。リアム様に婚約破棄されるかもしれないと思ったとき、わたしの胸は痛みました。今になって思えば、ずっと前からリアム様をお慕いしていたのです。わたしはそんな自分の気持ちすらわからず、とても愚かでした。それに、もしリアム様がわたしとの婚約をなかったことにしようとするのならば、わたしに非があったとしても破棄などなさらず、リアム様に非があるかのように見せながら解消なさるはずです。リアム様はそういうかただと、よく存じ上げておりますのに、わたしはオロオロとするばかりで——でも、これが恋というものなのでしょう。恋とは、人を愚かにしますのね」

 くっきりサッパリ理路整然と告白された。

 こらえきれずアリシアを強く抱きしめながらキスをした。
 驚いたアリシアが肩を震わせる。やめてと言わんばかりに手の平がリアムの胸元を押した。唇を離し、抱きしめていた腕を緩める。頬から耳をそっと撫で、首筋に指先を這わせた。

「いけません……」

 震えるアリシアは、正直可愛いだけだった。
 けれど、あまりやり過ぎては嫌われてしまうだろう。

 アリシアの息が整うように背を撫でれば、ふぅ、と息をつく声が艶めかしく、なぜかアルフレッドの言葉が脳裏を掠めた。


『エミーリアを取られるのなんて絶対嫌だったから既成事実はそれなりに作ったよ』

 絶句したが、冷静になってから問いただせば、あちら王家が勝手に何かあったと勘違いしてくれればいい、とのことだった。
 レオンハルトの婚約者候補にエミーリアの名が上がらないはずだ。
 実にアルフレッドらしい。

『は!? 唇へのキスすらしてない!? 頬だけ!? それも一年に一回って、リアムお前……』

 可哀そうな子を見るような目つきをやめろ。
 ついでに既成事実がどこまでか教えろと迫ったが、刺激が強すぎたので途中でやめてもらった。
 才女を落とす手管が恐ろしかった。


「わたしは、政略結婚で良かったですわ」
「ん?」

 アルフレッドのことを思い出していたら、アリシアがアルフレッドみたいなことを言い出した。

「恋愛だなんて、そんな不安定なものではリアム様を取られてしまいます」
「……それは私のセリフなんだが」
「寝言は寝てから言ってください」
「いや、それも私のだな」
「リアム様はご自分の魅力をわかっていらっしゃらないのですね」
「待て、だからそれは私のセリフだと」

 何度言っても、何を言っても、アリシアは自分の魅力を頑なに否定した。学園でどれだけ自分が人気があるのか知る由もないらしい。

 想像して欲しい。

 俺の肩にも届かないほどの身長に蜂蜜色の髪をフワフワ漂わせて、芽吹いたばかりの淡い緑の大きな瞳の可憐な少女が歩いている姿を。

 皆、保護欲をそそられ、見た目通りかと思って話しかけては取り付く島もなく撃沈していたが。

「リアム様、わたしはそろそろ帰らないと家の者が心配いたします」
「うん………わかった……」
「リアム様!! いけません……っ……!!」

 妖精なのに凛としていて、なんて可愛くて愛おしくてかっこいいのだろう。
 
 私のアリシア————


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