8 / 68
伯爵令嬢は悪役令嬢を応援したい!
リアム(4)
しおりを挟む『おとうさま、おにわでようせいにあいました。おはなのようせいでした。とてもかわいらしかったです』
アリシアに初めて会った時、その姿のあまりの可愛さに胸を打たれたリアムはそう言って笑ったらしい。
普段あまり表情が動かない子どもだったので、その様子を見た使用人たちはこの日のことを語り継いでいた。
しばらく本当に妖精だと思っていたのは、子供のころの恥ずかしいエピソードのひとつだ。
婚約者候補と呼ばれる相手だと知った後は、何度も婚約者にして欲しいと父に願ったが、なかなか許可されなかった。
ヴァレンティーナとエミーリアだけでなく、マーガレットとアリシアを含めた四人が、ジークハルトの婚約者候補だったらしく、ジークハルトの婚約が決定してからでなければ許可できなかったらしい。
それをリアムが知ったのは、八歳でアリシアと無事に婚約できてからだった。
四歳で出会い、四年ほど粘った結果だった。
リアムがアリシアにずっと想いを寄せていたことを知っていた使用人たちは、婚約が成立した日に密かに坊ちゃんを祝う会を開き涙した。
後程リアムの耳にも入ったのだが、とにかく恥ずかしいエピソードだ。
「君は本当に妖精だったのか」
「リアム様、恥ずかしいのでおやめください」
「なぜだ、抱いていないとどこかへ行ってしまうのではないかと思う」
「どこにも行きませんから」
何度も妖精だと呟きながら顔じゅうにキスをしていたら抗議された。
「私がアリシアを愛していて、婚約破棄などという言葉がいかに馬鹿らしいかを知ってもらわないといけない」
「もう、充分わかりましたわ!」
「本当に?」
思わず疑わし気な目を向けたリアムを、深呼吸したアリシアが見上げた。
「正直に申し上げます。わたしはリアム様を心からお慕いしております。リアム様に婚約破棄されるかもしれないと思ったとき、わたしの胸は痛みました。今になって思えば、ずっと前からリアム様をお慕いしていたのです。わたしはそんな自分の気持ちすらわからず、とても愚かでした。それに、もしリアム様がわたしとの婚約をなかったことにしようとするのならば、わたしに非があったとしても破棄などなさらず、リアム様に非があるかのように見せながら解消なさるはずです。リアム様はそういうかただと、よく存じ上げておりますのに、わたしはオロオロとするばかりで——でも、これが恋というものなのでしょう。恋とは、人を愚かにしますのね」
くっきりサッパリ理路整然と告白された。
こらえきれずアリシアを強く抱きしめながらキスをした。
驚いたアリシアが肩を震わせる。やめてと言わんばかりに手の平がリアムの胸元を押した。唇を離し、抱きしめていた腕を緩める。頬から耳をそっと撫で、首筋に指先を這わせた。
「いけません……」
震えるアリシアは、正直可愛いだけだった。
けれど、あまりやり過ぎては嫌われてしまうだろう。
アリシアの息が整うように背を撫でれば、ふぅ、と息をつく声が艶めかしく、なぜかアルフレッドの言葉が脳裏を掠めた。
『エミーリアを取られるのなんて絶対嫌だったから既成事実はそれなりに作ったよ』
絶句したが、冷静になってから問いただせば、あちらが勝手に何かあったと勘違いしてくれればいい、とのことだった。
レオンハルトの婚約者候補にエミーリアの名が上がらないはずだ。
実にアルフレッドらしい。
『は!? 唇へのキスすらしてない!? 頬だけ!? それも一年に一回って、リアムお前……』
可哀そうな子を見るような目つきをやめろ。
ついでに既成事実がどこまでか教えろと迫ったが、刺激が強すぎたので途中でやめてもらった。
才女を落とす手管が恐ろしかった。
「わたしは、政略結婚で良かったですわ」
「ん?」
アルフレッドのことを思い出していたら、アリシアがアルフレッドみたいなことを言い出した。
「恋愛だなんて、そんな不安定なものではリアム様を取られてしまいます」
「……それは私のセリフなんだが」
「寝言は寝てから言ってください」
「いや、それも私のだな」
「リアム様はご自分の魅力をわかっていらっしゃらないのですね」
「待て、だからそれは私のセリフだと」
何度言っても、何を言っても、アリシアは自分の魅力を頑なに否定した。学園でどれだけ自分が人気があるのか知る由もないらしい。
想像して欲しい。
俺の肩にも届かないほどの身長に蜂蜜色の髪をフワフワ漂わせて、芽吹いたばかりの淡い緑の大きな瞳の可憐な少女が歩いている姿を。
皆、保護欲をそそられ、見た目通りかと思って話しかけては取り付く島もなく撃沈していたが。
「リアム様、わたしはそろそろ帰らないと家の者が心配いたします」
「うん………わかった……」
「リアム様!! いけません……っ……!!」
妖精なのに凛としていて、なんて可愛くて愛おしくてかっこいいのだろう。
私のアリシア————
10
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜
凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】
公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。
だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。
ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。
嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。
──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。
王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。
カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。
(記憶を取り戻したい)
(どうかこのままで……)
だが、それも長くは続かず──。
【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】
※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。
※中編版、短編版はpixivに移動させています。
※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。
※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)
巻き込まれて婚約破棄になった私は静かに舞台を去ったはずが、隣国の王太子に溺愛されてしまった!
ユウ
恋愛
伯爵令嬢ジゼルはある騒動に巻き込まれとばっちりに合いそうな下級生を庇って大怪我を負ってしまう。
学園内での大事件となり、体に傷を負った事で婚約者にも捨てられ、学園にも居場所がなくなった事で悲しみに暮れる…。
「好都合だわ。これでお役御免だわ」
――…はずもなかった。
婚約者は他の女性にお熱で、死にかけた婚約者に一切の関心もなく、学園では派閥争いをしており正直どうでも良かった。
大切なのは兄と伯爵家だった。
何かも失ったジゼルだったが隣国の王太子殿下に何故か好意をもたれてしまい波紋を呼んでしまうのだった。
結婚式で王子を溺愛する幼馴染が泣き叫んで婚約破棄「妊娠した。慰謝料を払え!」花嫁は王子の返答に衝撃を受けた。
window
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の結婚式に幼馴染が泣き叫んでかけ寄って来た。
式の大事な場面で何が起こったのか?
二人を祝福していた参列者たちは突然の出来事に会場は大きくどよめいた。
王子は公爵令嬢と幼馴染と二股交際をしていた。
「あなたの子供を妊娠してる。私を捨てて自分だけ幸せになるなんて許せない。慰謝料を払え!」
幼馴染は王子に詰め寄って主張すると王子は信じられない事を言って花嫁と参列者全員を驚かせた。
可愛い姉より、地味なわたしを選んでくれた王子様。と思っていたら、単に姉と間違えただけのようです。
ふまさ
恋愛
小さくて、可愛くて、庇護欲をそそられる姉。対し、身長も高くて、地味顔の妹のリネット。
ある日。愛らしい顔立ちで有名な第二王子に婚約を申し込まれ、舞い上がるリネットだったが──。
「あれ? きみ、誰?」
第二王子であるヒューゴーは、リネットを見ながら不思議そうに首を傾げるのだった。
多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?
あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」
結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。
それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。
不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました)
※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。
※小説家になろうにも掲載しております
彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました
Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。
どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も…
これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない…
そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが…
5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。
よろしくお願いしますm(__)m
君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか
砂礫レキ
恋愛
十九歳のマリアンは、かなり年上だが美男子のフェリクスに一目惚れをした。
そして公爵である父に頼み伯爵の彼と去年結婚したのだ。
しかし彼は妻を愛することは無いと毎日宣言し、マリアンは泣きながら暮らしていた。
ある日転んだことが切っ掛けでマリアンは自分が二十五歳の日本人女性だった記憶を取り戻す。
そして三十歳になるフェリクスが今まで独身だったことも含め、彼を地雷男だと認識した。
「君を愛することはない」「いちいち言わなくて結構ですよ、それより離婚して頂けます?」
別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。しかしこれは反撃の始まりに過ぎなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる