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「お嬢様、その……」

 サラは事の成り行きについていけず、思わず声を漏らした。

「大丈夫よ」

 計算通りの婚約破棄だ。
 父はすぐに相応の慰謝料を請求するとともに婚約破棄を遂行するだろう。

 父は実母が亡くなったあと、早くに夫を亡くした美しい義母を後妻にしたが、妹は義母の連れ子であり、血のつながりはない。
 養子縁組もしていないから、正式にはマリーナは平民だろう。父はマリーナにも貴族としての教育を施していたが、彼女は不真面目で授業をサボってばかりいた。教養という意味では貴族へ嫁ぐのは厳しいはずだ。

(マリーナに淑女としての教養が備われば、お父様は養子縁組したはず……)

 教師を付けられている意味を理解せず、ニコルだけが伯爵令嬢として扱われることにマリーナは不満を抱いていた。使用人に虐げられてはいなかったが、扱いは違う。婚約者がいるのもニコルだけ。
 少し考えれば当然のことも、マリーナは理解できなかった。
 お義姉様だけズルいと、何度言われたかわからない。

(お勉強すればよかっただけなのに……義母もマリーナも理解してなかったのよね)

 教育の意味を教えるはずの義母も、娘の立場が弱いことを気に病んでばかりで、マリーナを甘やかしていた。

 義母の元夫は男爵であったが、夫が亡くなってすぐに夫の弟が男爵家を継いだ。
 その弟には嫡男がおり、争いの元になりそうなマリーナをわざわざ引き取る理由がない。

 つまり、次男のフェリクスとマリーナが結婚したら平民同然ということになる。
 フェリクスの実家がどの程度彼を援助するかにもよるが、それはあまり期待できないだろう。

 フェリクスに優しくされたことを自慢していた令嬢たちもフェリクスとは遊びだった。火遊びのついでに、顔のいいフェリクスからモテてモテて困ってしまうわアピールができるのだから、いい浮気相手だっただろう。

(フェリクスって転生前、よほどモテなかったのね。性欲むき出しでキモいのよ)

 これまでに聞き及んでいたフェリクスと令嬢たちとの浮気を思い出して、理子はげんなりした。

 ニコルも令嬢たちとの浮気ならまだ我慢できたのだろう。
 しかし、義理とはいえ妹との浮気、しかも我が家の庭園。
 ニコルの心は擦り切れてしまった。

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