上 下
11 / 16

11

しおりを挟む
「なっ!!」

 止める間もなく、椅子の上で足を開かされ、下着の腰紐が解かれたのがわかる。

「んあっ!!」

 痺れるほどの快感が突き抜けた。

(そんな場所をこんな明るい陽射しの中、舌でなぶられるだなんて……)

「や……」

 首を振るレナータのことなど、ドレスの中に隠れたラッセルは見ていない。

 開いた足を肘掛けに乗せる仕草は、案外優しかった。
 そんな風に思えるのは、自分の中にまだ冷静な部分が残っているからだろう。

 義務のように抱かれることが虚しかったのは本当だ。

 綺麗なラッセルにはわからないであろう、ふしだらな想いを抱いているのだと知られれば、きっと嫌ってくれるだろうと、そう思って言っただけなのに。

 毒を飲んで死んだ妻に罪悪感を持たないで欲しいと――

 ぴちゃぴちゃ、ずるずると、卑猥な音がレナータの可憐な部屋に響き渡る。

 ラッセルは、そのつもりで部屋に入ってきたのだろう。
 人の気配がしない。
 人払いがなされているのはあきらかだった。

 あえかな声をあげながら、レナータの思考は不思議と晴れていった。

(こんなことをされて、私は、喜んでいるのだわ……)

 清廉潔白が服を着て歩いているようなラッセルが、獣のようにレナータをなぶる。

 内太腿に歯を立てられても体は快感と認識し、レナータはいっそう淫らな蜜と声を零した。
 いつものようにキスから愛撫が始まり、順序よく丁寧にほぐしていくわけでもないのに、いくら薬を使ったからといって、これはない。

 とめどなく溢れる蜜がドレスに染みを作る。

 はくはくと、浅い息を漏らしていると、顔をあげたラッセルと目が合った。
 欲情に濡れた獣の瞳だ。


 いつものような静かな、冬の湖畔のごとき青ではない。

 底冷えするような冷たさと、焼き切れそうな熱さ。

「愛してるの……」

 だからどんなに詰っても、一言も嫌いとは言えなかったではないか。
 そのことに、ラッセルは気付かない。

「……レイモンドにはもう……妻がいる。諦めろ」

「私が愛してるのは昔からずっと、あなたよ!!」

 ラッセルはカチャカチャと音を立てて腰のベルトを外し、どうやって隠していたのかと思うほどの昂ぶりを引き出した。

「私を愛していると言えば満足して止まると思ったのか。さすがレナータは賢いな……だが、本来の私は、レナータがどんなに泣き叫んでも欲望を止められない……そんな醜い男なんだよ」

 ずぷり……
 音が聞こえるほどの泥濘を、一気に貫かれた。

「ああああああああーーーーーーー」

 喉が反り、違う、愛してるのは本当だと叫びたかったが声にならない。
 死ねないのであれば、あんな心にもない言葉でラッセルを傷つけなければよかった。

(ラッセルの正しさが苦しかったのは本当……。でも、そんなラッセルだから愛していたのも本当なの……)

 首を振りたいが、強くて深い快感に思考が薄れる。
 激しく何度も突かれ、椅子がギシギシと悲鳴のような音を立てた。

 それはまるでラッセルの心の悲鳴のようで、レナータの心を強く揺さぶる。

「いっ!!」

 首筋にラッセルが歯を立てた。
 そんなことをされたというのに、レナータの体は絶頂を覚えてしまう。
 喘ぎにもならない、息だけの叫びと、張り裂けそうな心臓の音。

 首元にうずくまるラッセルの銀の頭をかき抱いた。

「……聞いて……おねがい……」

 ラッセルは腕の中の頭を振り、背中に手を回してきた。
 そのまま抱き上げられ、歩きながら下から突かれる。
 酷い抱き方をされているのに、頭がおかしくなるほど気持ちがよかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

あの……殿下。私って、確か女避けのための婚約者でしたよね?

待鳥園子
恋愛
幼馴染みで従兄弟の王太子から、女避けのための婚約者になって欲しいと頼まれていた令嬢。いよいよ自分の婚期を逃してしまうと焦り、そろそろ婚約解消したいと申し込む。 女避け要員だったはずなのにつれない王太子をずっと一途に好きな伯爵令嬢と、色々と我慢しすぎて良くわからなくなっている王太子のもだもだした恋愛事情。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!

奏音 美都
恋愛
 ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。  そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。  あぁ、なんてことでしょう……  こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

処理中です...