三度目の正直!~今度こそ寿命まで生きます~

翠の目

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第一章 病弱皇女と血のつながった他人

病弱たる皇女は皇帝を知らない

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目を開けると心配そうに自分を見つめる皇帝がいるとかそれなんていうドッキリ?


アリスティアは驚いた。只々驚いた。
まさか皇帝が自分の看病をしているとは思わなかったのだ。その上心配そうに自分をのぞき込んでいるなんて驚かない訳がない。

いや、貴方ここで何してるの????
あまりのことにアリスティアは一言も話さず、思わずじっと皇帝を見てしまうアリスティアを訝しみながら皇帝は優しく声を掛ける。

「どうした、アリスティア。水か欲しいのか?」

違うそうじゃない。
混乱する頭でアリスティアは辛うじて心の中でツッコむ。寧ろ声に出さなかったことを褒めて欲しい。

この時アリスティアは自身が混乱していることを自覚していた。自覚していたが故に彼女は本来他にツッコむべきことを諸々すっ飛ばして斜め上のことを皇帝に問うた。

「仕事は……?」

違う。聞きたかったのはこれではない。この質問はワーカーホリックだった日本人時代の自分に対して言っているようで嫌だ。
というか、だ。これだけ聞くと仕事ばかりしている両親に向かって拗ねている子供が「私じゃなくて仕事はいいの?」みたいなニュアンスを持ってしまう。そのニュアンスを含むのはアリスティアにとって非常に不本意であった……が、頭のまわってない彼女は弁解しようとしても更に拗ねている子供のようなニュアンスを含んだ言葉になり、周りからの視線が徐々に生暖かくなるのを感じ、頭を抱える。

「違う…違うんです……」

「何が違うんだ?」

やはり皇帝の声に甘さが含まれている……とアリスティアは頭を抱えながら遠い目になってしまう。もういっそさっきの声が幻聴でいてほしかった。

「……皇帝陛下。何故ここに?」

「ティアをここに運んできたのが私だからな。成り行きでここにいるのもあるが青い顔で目の前で倒れた娘を放っておくほど私は冷たくはない」

驚愕した。まさか、まさか、アリスティアを忌み嫌っていた皇帝自身がそんなことをを言うとは思っていなかったのだ。そういえばと思い出す。以前目の前で倒れたアリスティアを冷たい目で見ただけで何もしなかった皇帝は今のアリスティアではなく、前のアリスティアの時ではなかっただろうか。

あぁ、ダメだ。前と今の記憶がごちゃごちゃに混ざっている……一度記憶の整理が必要だなとアリスティアは目の前の現実から少し目を遠ざけつつ横目で皇帝を盗み見る。

そんなアリスティアの視線に気づいたのか、皇帝は首を傾げ暖かな目を向けながら「どうした?」と問う。

「『いや、おま、ほんま、誰やねん……。人が変わるにも程がある…ええ加減にせえよ……』」

「……??すまない、今なんて言ったんだ?」

混乱が故に日本語でかつ特に出身でもないのに関西の方言で思わずつぶやいてしまう。

「『あ、しまった。これ日本語か』……いいえ、なんでもありません。ところで、先程からおしゃっているティアとは私のことですか?」

「ああ……そなたに言われてハッとしたのだ。遅いかもしれない、手遅れかもしれない……いや、事実手遅れであることは分かっている…分かっているのだが、ティアのきちんとした父親になりたいと思ってな……。そなたの名前はその第一歩としてだ……その、駄目だろうか…?」

皇帝の窺うようなその視線にアリスティアは心の中で両の手を挙げた。アリスティアはNOと言える日本人だった。しかし、日本人であった頃も一度目の頃も根本的に彼女はお人好しなのだ。こういった視線に大昔から弱いアリスティアは今までの恨みつらみをそっと吞み込んでそっと口を開く。

「……アリスティアという名前は陛下がつけた名前でしょう。呼ぶ呼ばないかはあなたの自由なのでは?」

アリスティアはここぞというときに素直になれない残念な子であった。
因みに本当に言いたかったのは「私の名前は陛下がつけたのでいつでも呼んでください」である。

「そうか!!ありがとう、ティア」

「……っ」

暖かな声音で継がれる己の名前は何となく気恥ずかしい感じがした。

「……ところで、エマ…私の侍女は?」

「ティアの新しい部屋の用意をしてもらっている」

「え、あ、あの話本気だったのですか!?」

「……?冗談など言わないが?」

「……陛下。この際はっきり言わせていただきますが、あの離宮よりも皇宮の方が私にとって危険なのです」

「あぁ、分かっている。だが、これ以上そなたお離宮に住まわせるわけにはいかんのだ」

「なぜですか?!」

「言い訳にしかならないが、離宮の状態がああだとは思っていなくてな……どうやら離宮の予算の多くが着服されていたらしい。着服していたものは余罪を確認後、処罰する予定だ。それに伴って離宮を建て替えることが決定し、その間だけでもティアには皇宮で過ごしてほしい。離宮が完成してそなたがまだ離宮がいいと思うならば、全力で引き留めた後に渋々離宮に戻そう。まぁ、その前に全力で皇宮がいいと思わせるが」

「……」

果たして、皇帝がこういったことを言うことを一体誰が予測できただろうか。

アリスティアは知らなかった。

皇帝が存外諦めが悪いということを。
皇帝が皇帝らしく、自分の懐に入れたものを宝物の如く大切に大切にすることを。
アリスティアが既にそのくくりに入ったことを。

アリスティアは知らずにいた為、なんというか駄々こねる?ような皇帝に驚いた。

というか、だ。
それを真顔で言うのはやめてほしいと切実に思う。真剣なのか、冗談なのか分からない。

困惑しているアリスティアを知ってか、知らずか、皇帝はなおも続ける。

「ティアが皇宮で過ごしやすいように先ずは私の珠玉であることを周囲に知らせる必要がある。ということでだ、ティアよ、調子のいい日に茶会をしないか?」

「……何が、ということで、ですか」




アリスティアは辛うじて生き生きとしている皇帝にそうツッコんだ。



アリティアは知らない。

皇帝が思いの外愉快な性格であることを。





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