7 / 10
第一章 病弱皇女と血のつながった他人
病弱たる皇女は皇帝を知らない
しおりを挟む
目を開けると心配そうに自分を見つめる皇帝がいるとかそれなんていうドッキリ?
アリスティアは驚いた。只々驚いた。
まさか皇帝が自分の看病をしているとは思わなかったのだ。その上心配そうに自分をのぞき込んでいるなんて驚かない訳がない。
いや、貴方ここで何してるの????
あまりのことにアリスティアは一言も話さず、思わずじっと皇帝を見てしまうアリスティアを訝しみながら皇帝は優しく声を掛ける。
「どうした、アリスティア。水か欲しいのか?」
違うそうじゃない。
混乱する頭でアリスティアは辛うじて心の中でツッコむ。寧ろ声に出さなかったことを褒めて欲しい。
この時アリスティアは自身が混乱していることを自覚していた。自覚していたが故に彼女は本来他にツッコむべきことを諸々すっ飛ばして斜め上のことを皇帝に問うた。
「仕事は……?」
違う。聞きたかったのはこれではない。この質問はワーカーホリックだった日本人時代の自分に対して言っているようで嫌だ。
というか、だ。これだけ聞くと仕事ばかりしている両親に向かって拗ねている子供が「私じゃなくて仕事はいいの?」みたいなニュアンスを持ってしまう。そのニュアンスを含むのはアリスティアにとって非常に不本意であった……が、頭のまわってない彼女は弁解しようとしても更に拗ねている子供のようなニュアンスを含んだ言葉になり、周りからの視線が徐々に生暖かくなるのを感じ、頭を抱える。
「違う…違うんです……」
「何が違うんだ?」
やはり皇帝の声に甘さが含まれている……とアリスティアは頭を抱えながら遠い目になってしまう。もういっそさっきの声が幻聴でいてほしかった。
「……皇帝陛下。何故ここに?」
「ティアをここに運んできたのが私だからな。成り行きでここにいるのもあるが青い顔で目の前で倒れた娘を放っておくほど私は冷たくはない」
驚愕した。まさか、まさか、アリスティアを忌み嫌っていた皇帝自身がそんなことをを言うとは思っていなかったのだ。そういえばと思い出す。以前目の前で倒れたアリスティアを冷たい目で見ただけで何もしなかった皇帝は今のアリスティアではなく、前のアリスティアの時ではなかっただろうか。
あぁ、ダメだ。前と今の記憶がごちゃごちゃに混ざっている……一度記憶の整理が必要だなとアリスティアは目の前の現実から少し目を遠ざけつつ横目で皇帝を盗み見る。
そんなアリスティアの視線に気づいたのか、皇帝は首を傾げ暖かな目を向けながら「どうした?」と問う。
「『いや、おま、ほんま、誰やねん……。人が変わるにも程がある…ええ加減にせえよ……』」
「……??すまない、今なんて言ったんだ?」
混乱が故に日本語でかつ特に出身でもないのに関西の方言で思わずつぶやいてしまう。
「『あ、しまった。これ日本語か』……いいえ、なんでもありません。ところで、先程からおしゃっているティアとは私のことですか?」
「ああ……そなたに言われてハッとしたのだ。遅いかもしれない、手遅れかもしれない……いや、事実手遅れであることは分かっている…分かっているのだが、ティアのきちんとした父親になりたいと思ってな……。そなたの名前はその第一歩としてだ……その、駄目だろうか…?」
皇帝の窺うようなその視線にアリスティアは心の中で両の手を挙げた。アリスティアはNOと言える日本人だった。しかし、日本人であった頃も一度目の頃も根本的に彼女はお人好しなのだ。こういった視線に大昔から弱いアリスティアは今までの恨みつらみをそっと吞み込んでそっと口を開く。
「……アリスティアという名前は陛下がつけた名前でしょう。呼ぶ呼ばないかはあなたの自由なのでは?」
アリスティアはここぞというときに素直になれない残念な子であった。
因みに本当に言いたかったのは「私の名前は陛下がつけたのでいつでも呼んでください」である。
「そうか!!ありがとう、ティア」
「……っ」
暖かな声音で継がれる己の名前は何となく気恥ずかしい感じがした。
「……ところで、エマ…私の侍女は?」
「ティアの新しい部屋の用意をしてもらっている」
「え、あ、あの話本気だったのですか!?」
「……?冗談など言わないが?」
「……陛下。この際はっきり言わせていただきますが、あの離宮よりも皇宮の方が私にとって危険なのです」
「あぁ、分かっている。だが、これ以上そなたお離宮に住まわせるわけにはいかんのだ」
「なぜですか?!」
「言い訳にしかならないが、離宮の状態がああだとは思っていなくてな……どうやら離宮の予算の多くが着服されていたらしい。着服していたものは余罪を確認後、処罰する予定だ。それに伴って離宮を建て替えることが決定し、その間だけでもティアには皇宮で過ごしてほしい。離宮が完成してそなたがまだ離宮がいいと思うならば、全力で引き留めた後に渋々離宮に戻そう。まぁ、その前に全力で皇宮がいいと思わせるが」
「……」
果たして、皇帝がこういったことを言うことを一体誰が予測できただろうか。
アリスティアは知らなかった。
皇帝が存外諦めが悪いということを。
皇帝が皇帝らしく、自分の懐に入れたものを宝物の如く大切に大切にすることを。
アリスティアが既にそのくくりに入ったことを。
アリスティアは知らずにいた為、なんというか駄々こねる?ような皇帝に驚いた。
というか、だ。
それを真顔で言うのはやめてほしいと切実に思う。真剣なのか、冗談なのか分からない。
困惑しているアリスティアを知ってか、知らずか、皇帝はなおも続ける。
「ティアが皇宮で過ごしやすいように先ずは私の珠玉であることを周囲に知らせる必要がある。ということでだ、ティアよ、調子のいい日に茶会をしないか?」
「……何が、ということで、ですか」
アリスティアは辛うじて生き生きとしている皇帝にそうツッコんだ。
アリティアは知らない。
皇帝が思いの外愉快な性格であることを。
アリスティアは驚いた。只々驚いた。
まさか皇帝が自分の看病をしているとは思わなかったのだ。その上心配そうに自分をのぞき込んでいるなんて驚かない訳がない。
いや、貴方ここで何してるの????
あまりのことにアリスティアは一言も話さず、思わずじっと皇帝を見てしまうアリスティアを訝しみながら皇帝は優しく声を掛ける。
「どうした、アリスティア。水か欲しいのか?」
違うそうじゃない。
混乱する頭でアリスティアは辛うじて心の中でツッコむ。寧ろ声に出さなかったことを褒めて欲しい。
この時アリスティアは自身が混乱していることを自覚していた。自覚していたが故に彼女は本来他にツッコむべきことを諸々すっ飛ばして斜め上のことを皇帝に問うた。
「仕事は……?」
違う。聞きたかったのはこれではない。この質問はワーカーホリックだった日本人時代の自分に対して言っているようで嫌だ。
というか、だ。これだけ聞くと仕事ばかりしている両親に向かって拗ねている子供が「私じゃなくて仕事はいいの?」みたいなニュアンスを持ってしまう。そのニュアンスを含むのはアリスティアにとって非常に不本意であった……が、頭のまわってない彼女は弁解しようとしても更に拗ねている子供のようなニュアンスを含んだ言葉になり、周りからの視線が徐々に生暖かくなるのを感じ、頭を抱える。
「違う…違うんです……」
「何が違うんだ?」
やはり皇帝の声に甘さが含まれている……とアリスティアは頭を抱えながら遠い目になってしまう。もういっそさっきの声が幻聴でいてほしかった。
「……皇帝陛下。何故ここに?」
「ティアをここに運んできたのが私だからな。成り行きでここにいるのもあるが青い顔で目の前で倒れた娘を放っておくほど私は冷たくはない」
驚愕した。まさか、まさか、アリスティアを忌み嫌っていた皇帝自身がそんなことをを言うとは思っていなかったのだ。そういえばと思い出す。以前目の前で倒れたアリスティアを冷たい目で見ただけで何もしなかった皇帝は今のアリスティアではなく、前のアリスティアの時ではなかっただろうか。
あぁ、ダメだ。前と今の記憶がごちゃごちゃに混ざっている……一度記憶の整理が必要だなとアリスティアは目の前の現実から少し目を遠ざけつつ横目で皇帝を盗み見る。
そんなアリスティアの視線に気づいたのか、皇帝は首を傾げ暖かな目を向けながら「どうした?」と問う。
「『いや、おま、ほんま、誰やねん……。人が変わるにも程がある…ええ加減にせえよ……』」
「……??すまない、今なんて言ったんだ?」
混乱が故に日本語でかつ特に出身でもないのに関西の方言で思わずつぶやいてしまう。
「『あ、しまった。これ日本語か』……いいえ、なんでもありません。ところで、先程からおしゃっているティアとは私のことですか?」
「ああ……そなたに言われてハッとしたのだ。遅いかもしれない、手遅れかもしれない……いや、事実手遅れであることは分かっている…分かっているのだが、ティアのきちんとした父親になりたいと思ってな……。そなたの名前はその第一歩としてだ……その、駄目だろうか…?」
皇帝の窺うようなその視線にアリスティアは心の中で両の手を挙げた。アリスティアはNOと言える日本人だった。しかし、日本人であった頃も一度目の頃も根本的に彼女はお人好しなのだ。こういった視線に大昔から弱いアリスティアは今までの恨みつらみをそっと吞み込んでそっと口を開く。
「……アリスティアという名前は陛下がつけた名前でしょう。呼ぶ呼ばないかはあなたの自由なのでは?」
アリスティアはここぞというときに素直になれない残念な子であった。
因みに本当に言いたかったのは「私の名前は陛下がつけたのでいつでも呼んでください」である。
「そうか!!ありがとう、ティア」
「……っ」
暖かな声音で継がれる己の名前は何となく気恥ずかしい感じがした。
「……ところで、エマ…私の侍女は?」
「ティアの新しい部屋の用意をしてもらっている」
「え、あ、あの話本気だったのですか!?」
「……?冗談など言わないが?」
「……陛下。この際はっきり言わせていただきますが、あの離宮よりも皇宮の方が私にとって危険なのです」
「あぁ、分かっている。だが、これ以上そなたお離宮に住まわせるわけにはいかんのだ」
「なぜですか?!」
「言い訳にしかならないが、離宮の状態がああだとは思っていなくてな……どうやら離宮の予算の多くが着服されていたらしい。着服していたものは余罪を確認後、処罰する予定だ。それに伴って離宮を建て替えることが決定し、その間だけでもティアには皇宮で過ごしてほしい。離宮が完成してそなたがまだ離宮がいいと思うならば、全力で引き留めた後に渋々離宮に戻そう。まぁ、その前に全力で皇宮がいいと思わせるが」
「……」
果たして、皇帝がこういったことを言うことを一体誰が予測できただろうか。
アリスティアは知らなかった。
皇帝が存外諦めが悪いということを。
皇帝が皇帝らしく、自分の懐に入れたものを宝物の如く大切に大切にすることを。
アリスティアが既にそのくくりに入ったことを。
アリスティアは知らずにいた為、なんというか駄々こねる?ような皇帝に驚いた。
というか、だ。
それを真顔で言うのはやめてほしいと切実に思う。真剣なのか、冗談なのか分からない。
困惑しているアリスティアを知ってか、知らずか、皇帝はなおも続ける。
「ティアが皇宮で過ごしやすいように先ずは私の珠玉であることを周囲に知らせる必要がある。ということでだ、ティアよ、調子のいい日に茶会をしないか?」
「……何が、ということで、ですか」
アリスティアは辛うじて生き生きとしている皇帝にそうツッコんだ。
アリティアは知らない。
皇帝が思いの外愉快な性格であることを。
10
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

悪役令嬢、第四王子と結婚します!
水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします!
小説家になろう様にも、書き起こしております。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでのこと。
……やっぱり、ダメだったんだ。
周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中
※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

乙女ゲームのヒロインに転生したらしいんですが、興味ないのでお断りです。
水瀬流那
恋愛
大好きな乙女ゲーム「Love&magic」のヒロイン、ミカエル・フィレネーゼ。
彼女はご令嬢の婚約者を奪い、挙句の果てには手に入れた男の元々の婚約者であるご令嬢に自分が嫌がらせされたと言って悪役令嬢に仕立て上げ追放したり処刑したりしてしまう、ある意味悪役令嬢なヒロインなのです。そして私はそのミカエルに転生してしまったようなのです。
こんな悪役令嬢まがいのヒロインにはなりたくない! そして作中のモブである推しと共に平穏に生きたいのです。攻略対象の婚約者なんぞに興味はないので、とりあえず攻略対象を避けてシナリオの運命から逃げようかと思います!

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる