三度目の正直!~今度こそ寿命まで生きます~

翠の目

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第一章 病弱皇女と血のつながった他人

病弱たる皇女は悟った

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アリスティアは皇帝と兄達に嫌われている。否、それだけではない。皇帝を、兄達を、国を愛しているものは皆アリスティアを嫌っている。

アリスティアが何かやった訳ではない。かといって、病弱だから、国の役に立たないからと冷遇されているわけではない。アリスティアが冷遇されている根本的な原因はアリスティアの母にあった。

カレン・ミーア・オールスティン。
オールスティン帝国にて『毒妃』と呼ばれている女だ。彼女の実家は帝国で悪徳貴族と有名な侯爵家の令嬢であったが、皇帝に一方的に恋心を抱いており、あの手この手で皇帝の第二妃になった。しかし、事はそれだけに留まらなかった。あろうことかカレンは皇帝に愛されていた国母たる皇妃シンシア・ルナ・オールスティンを暗殺した。

この事態に激怒した皇帝はすぐさまカレンを処刑し、実家の侯爵家をも国家転覆を謀ったとして粛清した。

皇妃が暗殺されてからそう日も経たない内にカレンは処刑された。では、皇妃が殺された憎悪はどこに行くのか。それは当時齢3つであったアリスティアただ一人に集まった。
カレンの面影を持つアリスティアに皇帝は憎しみを抱き、冷遇した。これは何も皇帝だけではない。シンシアの3人の息子である皇子を始め、城に仕える者達、果ては国民までもアリスティアに憎しみを抱いた。

それほどまでに国母たるシンシアは人々に愛されていたのだ。




閑話休題それはともかく

アリスティアがいくら病弱であろうと、倒れようと誰も見舞いには来ない。それだけでなく、アリスティアが住んでいるこの離宮は離宮と呼ぶのも烏滸がましいくらいに廃れている。

三日三晩高熱を出し続け、漸く意識を取り戻したアリスティアは自分自身の環境に頭を抱える。

「私何も悪いことしてないわよね……」

刺殺された黒髪の女……日本人であった彼女の記憶を思い出し、普通の感性や倫理観を取り戻したアリスティアは一つ前の人生であるもう一人のアリスティアの人生を含め項垂れる。

家族、という存在は好き。無条件に信頼を寄せて、愛していた存在

しかし、それはあくまで日本人であった頃の有栖川雫でだった頃の話。今の家族はもう一人のアリスティアを含め、愛してほしい、愛したい、信頼を寄せたい、話したい、と望んでもそれが叶うことはなかった。前のアリスティアを含め、約30年、アリスティアは愛してもらおうと必死に努力してきた。相手がもう一人のアリスティアを覚えていなくても、アリスティアにとってそれは曲げようもない事実なのだ。




故に。


故に彼女はやめた。


愛されることを、努力することを、期待することを、やめた。



正確には今からやめるである、が。

そう決めたところでアリスティアはベット脇にあるベルを鳴らし、エマを呼ぶ。

「ティア様!!お目覚めですか!!」

恐らくアリスティアに飲ませるための水を厨房に取りに行ってたであろうエマが肩を揺らしながら水を抱えてやって来た。

「エマ……いきなり倒れてごめんなさい。いつも世話をかけるわ……」

「いいえ!お気になさらないでくださいませ。ティア様をお世話することは私にとって誇りなのですから」

「……本当にいつもありがとう。ところで、このこと皇帝陛下や皇子殿下達には……?」

「……勿論報告は致しましたが、忌々しいことにいつも通りただ一言『そうか』とだけ」


アリスティア以外が聞いていたのなら不敬罪と取られかねないエマの言葉を聞きアリスティアは儚げに笑いをこぼす。
実の父親や兄達に期待してた訳ではない。……ないが、今まで三日三晩も高熱に侵されたことはない為、何かしらのアクションはあるのではないかとほんの少しだけ思ったのだ。
その結果がいつもと変わらない反応でアリスティアは思わず笑いが漏れてしまう。


「そう……。まぁ、いつものことなのだし気にしなくていいわ。それよりも光精霊術師はもう呼んだかしら」

「本日お目覚めにならなかったらお呼びしようと思っておりましたが……お呼びいたしますか?」

「ええ、ちょっと気になることがあるから、呼んで来てもらえる?」

「畏まりました」

アリスティアの言葉にエマは頷き、頭を下げ部屋を出て光精霊術師を呼びに行く。

エマが戻ってくる間にアリスティアはごちゃごちゃになった記憶の整理をする。


この世界はよくある剣と魔法の世界……ではなく、剣と精霊の世界。
15歳になると精霊の儀にて人は精霊と契約する。魔法という異世界の定番的力がない代わりに、精霊と共存することによって人々は生きている。

精霊には火、水、土、風、光、闇、無の7つの属性に分けられる。契約する際の主導権は精霊自身で、精霊が人間を選ぶ。しかし、その基準は本人の血筋や気質によるところが大きい。
その中でも光、闇、無の属性は契約者が少なく、光の精霊と契約した者は光精霊術師と呼ばれ、医者と同じ役割をしており、下位精霊でも中位精霊でもその契約者は問答無用で国に属する。それほどまでに傷の治癒、病の治癒の力を持つ光精霊術師は貴重なのだ。

精霊には階級も存在する。
下から、下位精霊、中位精霊、高位精霊、そして、最高位精霊がある。下位精霊、中位精霊、高位精霊には多くの精霊が存在するが、最高位精霊は一つの属性毎に一人しかいない。

そして、全ての精霊を束ねる者として精霊王がいる。おもに、物語や伝承の中で、だが。
何故物語や伝承の中だけなのか。それは現在生きている人間の中で精霊王を見た者はおらず、凡そ二千年前に確認された存在だと文献などでしか伝えられていないからである。

本当にいるのか疑わしいな、とアリスティアは思っているが、その存在の物的証拠こそがアリスティアを含めたオールスティン帝国の皇族なのだ。

凡そ二千年前、その当時精霊王が唯一契約した女性がいた。その女性を精霊王が愛し、妻として娶り、やがてその子供が国を作った。

それこそがオールスティン帝国の始まりである。

つまり、オールスティン帝国の皇族は精霊王の血を引いているというわけだ。

その証拠にオールスティン帝国の皇族は皆、黄金に輝く美しい瞳を持っている。この瞳は現在最高位精霊とオールスティン帝国の皇族でしか確認されていない為、この伝承にはある程度の信憑性があるのだ。

また、精霊王の血を引いているからか皇族は高位精霊の中でも力の強い精霊と契約することが多く、皇族の血に近い貴族も他よりも高位精霊と契約しやすくなっている。


と、これはまだアリスティアが頭を抱える問題ではない。


その問題こそがこの世界が日本人であった頃プレイした乙女ゲームを主軸とした世界である、ということだ。

乙女ゲームの舞台は17歳から20歳の中位精霊以上の契約者が通う学園。中位精霊以上の契約者は自動的に国に属することが決まっている為、国について多くを学ぶのがこの学園の役割だ。

一回目のアリスティアはこの学園に通い、主人公がどんどんと攻略対象者を落としていく中、アリスティアは警告を促していただけだった。まぁ、少し強引に説得のようなものはしたが。しかし、それでもアリスティアは処刑された。

そこで、一回目の主人公の行動を顧みてアリスティアは気付く。

「あれ……。あの主人公もしかして逆ハー狙いの転生者?」

あの乙女ゲームには確か隠しルートである逆ハーレムルートがあったことをアリスティアは思い出す。


そうしてアリスティアは決意する。

エンディングである卒業パーティーまで主人公と接触しないでおこう、と。











それまでアリスティアが生きていればの話だが。





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