三度目の正直!~今度こそ寿命まで生きます~

翠の目

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第一章 病弱皇女と血のつながった他人

病弱たる皇女は死を知っている

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オールスティン帝国 第一皇女 アリスティア・ファータ・オールスティンは物心ついた時から病弱であった。成長するにつれ良くなると思われていた病弱さは良くなることはなく、しかし、悪くなることもなかった。



アリスティアは重く熱い体を起こし、咳をする。これがいつもの朝であるならば、アリスティアは侍女を呼び、朝食をとる。しかし、今日に限っていつものようにはいかなかった。

「…っごほ、ん゛ん゛……かはっ」

瞬間、アリスティアの手に液体が付着した。赤い、赤い、そう血のような鮮やかな赤い液体であった。

「……血?」

アリスティアは手についた血を茫然と見つめる。
赤いその液体にアリスティアは妙な既視感を感じ、はて?と考えるが妙な既視感は消えない。茫然と血を見つめながら考える。
考え、考え、そして、覚えの光景がアリスティアの脳内に浮かぶ。

アリスティアは小さなころから後悔していた。何を、と聞かれても何を後悔しているのかアリスティアは分からなかった。後悔の他にも軽蔑、嫌悪、罪悪感、憎悪、絶望…様々な負の感情がアリスティアの中のあった。

その何か、がたった今分かった。

声が、頭の中で声が響く。

_____「はっ、死ね、死ね、死ねぇぇぇぇえっ」

何度も何度も手に持ったナイフで女を刺し、嗤っている男を混乱しながらも己の生を諦める黒髪の女。自分とは似ても似つかない女をアリスティアは

_____「その女の首を刎ねろ!!!!」

大勢の人間に蔑まれながら自分の首を刎ねられた光り輝くプラチナブロンドのアリスティアと同じ顔の女をアリスティアは

痛くて、痛くて、熱くて、全てを諦めた末に感覚の全てが無くなり、自分から流れた血を見つめながら一人孤独に女達は息絶える。
女達の息絶える瞬間、そして、その一生を垣間見えたアリスティアは悟る。

あれはアリスティア自身だと。

生きたかった、まだ何もしていない、まだ何も己は成し遂げていない!!!どうして、どうしてこんなことに!!どこで、一体何を間違えた。いや、何も己は何も間違えてはいない。己が正しいと思ったことをしただけだ。それに関して、己は後悔していいない、いや、してはいけない。

それでも、それでも己が国の大切な民たちに対して彼らを止めきれなかったことを己は後悔している。

血に濡れた手を見つめながら、アリスティアは静かに静かにその美しい顔を濡らす。


その時、いつまで経ってもいつものように侍女を呼ばないアリスティアを訝しみ、部屋の前に待機していた侍女が部屋のドアをノックする。
しかし、現在のアリスティアにはそのノックに反応できるだけの気力や余裕はなかった。

アリスティアの乳母の娘である侍女のエマは乳姉妹かつアリスティアの親友であり、この国で唯一アリスティアに信頼され、この国で唯一アリスティアの寝室に無断で入る許可を他でもないアリスティアから得ている。

故に、彼女はアリスティアの返事がなくとも寝室へ入る。

「失礼いたします。ティア様、起床のお時間ですが……っティア様!?」

アリスティアに向かって一礼した後に茫然と涙を流しているアリスティアをエマは目にし、普段の彼女らしくなく慌てた様子でアリスティアに駆け寄る。

「エマ……申し訳ないけれど、私は今から倒れます。看病よろしくお願いします、ね」
「ティア様!?ティア様!?」

混乱するエマには申し訳ないが、一気に二つの自分を思い出したアリスティアの脳はすでに限界を超え、彼女はその日三日三晩続く高熱を出した。




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