それは、檸檬の様な。/お茶のような。

IKUMI

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3.詩文玲1/古茶詩文1

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詩文玲 朝

春__。
私が住んでいる地域は桜の開花が遅いので枝丸出しの並木を見上げながら新学期を迎えるのが通例だ。
もっとも、年々四季の感覚が薄れていく現代日本で桜を楽しみにする気持ちもあまり持たなくなったが。春と秋、どこ行ったん。
本来華々しいものであろう高校2年生のスタートが何とも虚しいものである。
進学クラスである2年1組の一員となった私は、根拠のない自信をひけらかして廊下の真ん中を歩く猿山のボスのような男子や、全ての事象に文句を垂れる歳上の同級生女子もいないことに安らぎを感じながらホームルームが始まるまでの時間を友人との談笑にあてていた。

「玲が同じクラスで良かったよー。うちは1人じゃ勉強できないタイプだから!また答え見せてね!」
「新学期早々宿題丸写し宣言やめぇ。よっちゃん頭は良いんだし今年はちょっとくらい勉強に時間使いなよー?」
「うちはバスケとゲームで忙しいのでっ!玲はどうするの?テニス部、続けるの?」
「しばらくは続けr
「れちゃおはろー!」
元気よく教室に入ってきた地下アイドルもどきに言葉を遮られる私。これは人望が鬱陶しい方向に作用する例の代表格である。
「おはよ!みーたん今年もマジ天使!」
意味がわからないだろうが各友人に対するキラーワードが存在し、「みーたんマジ天使」はこの地下アイドルもどきに特攻を発揮する言葉である。そしてそれらを上手く使う事で私はカーストの上層に座しているのだ。本当の私はこの地の文の通りの性格であり、あらゆる秘密については『よっちゃん』こと吉田のみが知るものである。
「ぅぃす、玲。」
「ういすー。山さん今日も髪キマってるね!」
「れもんちゃんおはよー。またよろしくねー。えへへー。」
「おはよー。ぽわぽわみなみちゃんなでなでー。」(撫)
「レイ・シモンおは!トランザム!」
「トランザムッ!」
………
……

続々と教室に集まる友人達のせいで吉田への返答が返らずじまいとなったが、同じクラスの友人への挨拶が済んだので良しとしよう。
表情筋が疲れを見せてきた頃ようやくチャイムが鳴り、ホームルームが始まるのだった。



古茶詩文 朝

ほんのりと色付き始めた桜の枝に心を弾ませながら廊下を後にし、教務室の隅の自席に着く。
(ホームルームまでまだ時間あるな…)
着任してから1週間。
新しい職場にも慣れてきたが、今日は初めて生徒たちと顔を合わせることになる。
数日前から生徒名簿に何度も目を通し、顔と名前は完璧に一致するようになった。余程写真映りの悪い子や派手な高2デビューを果たした子が居なければスムーズなスタートが切れることだろう。…と、自分に言い聞かせながら、緊張を解そうとスマートフォンに目を移す。

(最近LGBTの話題が多いな…。騒がれるほうが迷惑だと思う人も多いだろうに…。)
ストーリー上必要ないであろう『黒人の同性愛者』という設定を与えられた映画キャラクター、有名人のカミングアウトを大きく取り上げるニュース。露骨な『配慮してます!注目してます!』のアピールほど気持ちの悪いものはない。
かく言う僕が勤めるこの高校もLGBTに配慮した活動の一環として、昨年度から制服の自由化制度が取り入れられた。性別に関わらずスラックスかスカートの好きな方の制服を選択して着用して良いというものだ。
女子生徒がスラックスを着用しているケースはよく目にすると聞いているが…
(スカート男子は僕のクラスのかr…彼女だけか。)
『青山空』
引き継ぎの際にトランスジェンダーであるとだけ聞いたが上手く対応出来るだろうか。
一口にトランスジェンダーと言っても各個人ごとに抱える問題は異なるし、別に問題を抱えてない場合も往々にしてある。それだけは理解している。
副担任とはいえ十分な配慮を持って向き合うべきだろう。いや、過剰に意識を向けるのはさっき否定したような行為と同じなんじゃ…でも何か悩みがあったら誰かに相談したいんじゃ…でもいたずらにつっつきまわすみたいなまねは…
「古茶先生!」
僕が持つクラス、2年1組の担任である植村先生に声を掛けられ時計に目をやる。
…まだ15分あるが。
「ちっちしてくるけど一緒に行く?」
「いえ、結構です…。先に向かいますね、お荷物お持ちしますよ。」
「ありがと!」
植村先生はなかなかに…ユニークな……
変人だがお陰で少し緊張が和らいだ。
プリント束を抱え、桜色の枝を眺めながら廊下を進む。
(ホームルームって僕も何か挨拶するのかなぁ…)
チャイムが鳴るまでの数分、挨拶文を考えてみる事にした。
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