こんにちは、いれてください

うづき

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 は、と冬里の喉が震える。電話? 今ここで?
 ――母親に、こんな、情欲に塗れきった声を、聞かせようと言うのだろうか。
 そんなこと絶対に出来ない。恥ずかしい。無理だ。冬里は泣きながら首を振る。

「ごめ、ごめんなさい、ごめんなひゃ、あ、あっ、むり、れす、むりです、ごめんなさい、できにゃ、できないぃ……っ」
「電話するだけだよ。ねえ、冬里、こんなにいやらしい体になっちゃったこと、ちゃんとご家族にも伝えないと」
「ひ、あ、無理、無理ぃ、無理です、む、り、んんっ、あ、あっ」

 片手が胸を愛撫して、そのままもう片方の手が、冬里の腹部を愛撫する。何度も撫でられ、ノックされ、快楽を教え込まれた下腹部が、触れられるだけできゅんと収縮するのがわかった。
 腰が痙攣するように持ち上がって、快楽の波が全身を支配する。

「ひあ、あ、ッ、イ、く、イって、イってる、イぅ、う……っ」
「ご家族にえっちな声、聞かれるの想像して、イっちゃったの?」
「ふあ、あ、あ、ひ……う、うぅ……っ」

 加賀が耳元で囁く。冬里を見つめる目には欲がたぎっていた。あと少し、もう少しで、触れられる、そう言いたげな――どこまでも昏い欲望を宿した、淀んだ瞳だ。

「――じゃあ、冬里、電話をしなくても良いから、舌を出して」
「……っ」
「舌出して、僕とキスをしてくれたら、逃げようとしたことも、何もかも――、無かったことにするから。ね」

 冬里にとっても良い提案でしょ、と加賀は続ける。ぐち、ぐち、と下着越しに熱が擦られる。表面にあてられて、ぬちぬちと上下に動かされると、喉の奥から声が零れるのを止められない。

 母親に、今の状況で電話をするか。
 加賀の言うとおり、舌を出して、キスをせがむか。
 二通りの選択肢だ。選ぶ方なんて、決まっていた。
 家族に、こんな姿を、見られたくはない。

 冬里は口を開けて舌を出す。そうして、加賀を見つめた。

「きす、して、くらしゃい……っ」

 舌足らずな声が零れる。加賀が嬉しそうに目を細め、そうしてから唇から舌を出す。
 長い舌だ。表面を擦るように合わせ、そのままゆっくりと唇が重なる。目の奥がちかちかと瞬くような感覚があった。唾液を混ぜ合わせるように加賀の舌が動いて、先日同様に喉の奥までその長い舌が伸びてくる。

 忌避感のような、嘔吐感にも似た感覚は、消えてしまっていた。喉の奥がしまるのが自分でもわかる。異物を飲み込もうとする動きだった。とろとろとした甘い液体が加賀の舌から落ちて、そのまま直接喉に塗り込まれる。息が上手く、出来ない。
 酸欠気味になりかけた瞬間、舌が離れた。黒曜石のような、無機物的な瞳は、今は情欲に塗れている。

 もっと、と加賀が続けて、そのまま唇を重ねてきた。腰をぐりぐりと動かしながら、深いキスを何度もしてくる。加賀が触れている場所全てが、まるで熱されたように暑い。興奮のためか汗がじんわりと滲んでくるのがわかった。
 
 携帯を持つ手は、いつのまにか力が抜けていた。ごめんなさい、と打ち込んだ言葉だけが、母親のもとに送信されている。母親からメッセージがいくつか送られてきている音が響くが、それよりも何よりも、冬里は加賀の愛撫に神経を割かれてしまっていた。

 下着がとりはらわれる。濡れた秘部があらわになり、糸を引いていた。キスをするたび、そして加賀に愛撫される度に、愛液がとろとろと零れ落ちて行くのがわかった。敏感な部分、花芽のような形をしたそこに加賀の指が触れた。形を辿るように指が動き、くりゅ、くりゅ、と軽く押しつぶされるようにする。

「あ、あ、んっ、やぁ、そこ、だめ、敏感、だからぁっ……」
「大丈夫。優しく触れるから――、冬里、僕のお嫁さん。僕の番。壊さないようにするからね」

 携帯が震えている。母親から着信が入っているらしい。
 出られるわけもないだろう。加賀の目がちら、と携帯に向かうのを見て、慌てて冬里は加賀の肩に手を伸ばした。そのまま無理矢理抱きしめるようにして、キスをする。
 加賀は一瞬、驚いたような顔をして、それから嬉しそうに頬を染めた。普段するキスよりも、数倍以上優しく口内を愛撫されて、ようやく、二人は唇を離す。

「冬里、……嬉しい、冬里からキスしてもらえるの、凄く……凄く好き……」

 早く、と加賀が冬里の腹部に触れる。そうして、恍惚とした声で言葉を続ける。

「家族、ずっと、欲しかったんだ。冬里が……冬里が、僕のお嫁さんになってくれる日を、ずっと待っていた。大好きだよ、冬里。中、溢れるくらい、沢山出すから、全部受け止めてね。僕のことをいれて。僕のことを、受け入れて、冬里……」

 優しい愛撫によって、体が酷く震える。もういちど口づけを交わしながら、冬里は深く達した。
 吐息が喉に詰まる。痙攣するように腰をひくつかせていると、加賀が嬉しそうに笑った。そうして、冬里が少しずつ冷静になるのを待ってから、眦にキスをする。

「明日は――お祭りの日だよ」
「……おま、つり……」
「そう。かがち様の、お祭り。かがち様が一軒一軒、家を回って、お嫁さんを探しに行くんだ」

 だから、と加賀は続けた。

「あけてね。――明日、必ず。絶対に」

 開けないと、どうなるのだろう。ぼんやりと考える。だが、真摯な様子で言葉を続ける加賀に、そんなことを聞くわけにもいかず、冬里は瞬いた。
 その茫洋とした顔を、どのように受け取ったのかはわからないが、加賀は柔らかく相好を崩した。

「――ずっと、ずっと、騙されてきて、……けれど、きっと、これまでは、明日のためにあったんだと思う」

 囁く声は僅かに震えている。

「生きていて、冬里に出会えて、良かった。僕のお嫁さん。大好き。大好きだよ」

 幸せに満ちあふれた声を聞きながら、冬里はそっと目を閉じた。
 明日。――明日さえ、越えたら。逃げることは出来ずとも、明日さえ、加賀の言葉に応えることなく、過ごすことが出来たら。
 そうしたら、かがち様の嫁、には、ならずに済むのかも、しれない。

 思考の隅でそういった考えが浮かぶ。一度火がついたそれは、消えることなく、冬里の心の中で、灯り続けた。
 
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