こんにちは、いれてください

うづき

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 加賀は、冬里が逃げようとすること、そして拒否をすることを、許さなかった。
 冬里の傍に居る時間が長くなり、冬里が家から去ろうと荷物をまとめたりすると、すぐにそれに気付く。
 加賀はおかしい、絶対に関わってはいけない。そうやって思うのに、冬里は扉越しに加賀からいれて、と話しかけられると、その声に逆らえなくなってしまっていた。

 気を失いそうになるくらい愛された次の日、冬里はすぐ、実家へ戻ろうと荷物をまとめた。母親にメッセージも入れ、今日帰る、ということを伝える。メッセージアプリで送ったそれに、すぐに母親は気付いたらしく、可愛らしい絵柄のスタンプと共に、待ってるよ、という言葉が返ってきた。

 母親、父親、そして妹。三人が、冬里の帰りを待っていてくれるはずだ。それに、大学の友人にも最近は会っていない。戻ったら直ぐに会おう、そしてここであったことは忘れよう――そう考えて、玄関のノブに触れた瞬間、呼び鈴の音が鳴った。

 まるで、冬里の行動を見透かすような、そんなタイミングだった。
 本来なら、加賀はもっと遅くに来るはずである。加賀ではない。多分、お隣さんか、もしくは、他の。
 他の。
 思考がぐるぐると回る。ノブを持つ手に汗が滲む。鼓膜に、柔らかな声が、差し込まれるように響いた。

「こんにちは。いれてください」
「……加賀、くん……」
「少し早くに来てしまったけれど。冬里、いれてくれるよね。いれて。ねえ、冬里」

 冬里、と名前を呼ばれる度に、濡れた手でひたひたと背中を触られるような、なんとも言えない感覚を覚える。
 駄目だ。そう思う。そう思うのに、冬里は、加賀の言葉に、逆らえない。従順に従い、そして、いいよ、と言った後で、とてつもない後悔をするのだ。

 最初はそうではなかったはずなのに。自分の無意識が、加賀によって再構築されていくようだった。

「……冬里?」

 どうぞ、と囁く声が、まるで枯れ枝を思わせる声になる。ありがとう、と囁く声が響いた。
 鍵をかけていたはずなのに、それががちゃりと回る。閉めていた扉が開いた。

 黒曜石のような瞳が、冬里を見つけて柔らかく微笑む。加賀は室内に入ってきて、それからゆっくりと息を零した。

「冬里。おはよう。昨日は無理をさせてごめんね。だから今日は、なんにもしないよ」

 それに、お盆は明日だから、と、加賀は続ける。うっそりとした笑みを浮かべ、冬里の手を取った。そうして、自身の頬に冬里の手をそろりと押しつけて、音を立てるようにキスをする。

「お盆、楽しみだね。冬里が僕のお嫁さんになる日なんだから」
「……加賀、くんは……」

 加賀くんは、一体、何。
 問いかけは、けれど喉の奥に落ちていく。わかっている。今までの行動と、そして、語られた昔話、それらを照合すれば、すぐに加賀の正体は、わかる。信じられないし、荒唐無稽な話ではあるけれど、加賀は、多分――。

「かがち、様、なの……?」

 冬里の言葉に、加賀は僅かに瞬いた。そうして、ふ、と息を零すようにして笑う。
 明確な答えは無い。はぐらかすつもりはないのだろうが、答えを与えるつもりもないのだろう。そういったことが、明確に察することが出来た。

「冬里、目元が腫れている」
「……」
「昨日、沢山泣いたから、かな。ごめんね。治してあげる」

 言いながら、加賀が冬里の目元に優しくキスをする。ちゅ、ちゅ、と啄むようにキスをして、そうしてから僅かに唇の端を持ち上げた。
 加賀の黒髪が、さらりと揺れるのが見える。加賀は、汗という存在に無縁そうに見えた。

「どうかな。喉も……声が枯れている。冬里、口を開けて」
「……キス、するの?」
「うん。舌で、キスするよ。冬里、口を開けて、舌を出して」

 冬里は首を振る。唇を引き結ぶと、加賀は少しばかり困ったような顔をした。そうしてから、冬里、と甘い声で名前を呼ぶ。
 玄関口に突っ立ったままの冬里を、加賀は難なく抱き上げると、そのままリビングに移動した。座布団を腰の下に置き、「これは効率が悪いんだけれど」と続ける。

「けれど、冬里が舌を出さないから――仕方ないよね」
「え……っ、え……?!」

 すり、すり、と加賀の手が腹部を撫でる。瞬間、喉がひきつれるような声が零れた。抱えていた鞄が、加賀の手によって簡単に取り払われる。遠くに置かれたそれに慌てて手を伸ばすが、届かない。加賀は冬里の足を割るように腰を据え、そうしてから冬里の上着を脱がした。胸元が露わになる。

「肌、白い。綺麗だね……」
「あ、あ、やだ、やだ、おねが……っ」

 昨日、散々に弄られ回された体が、直ぐに反応を示す。ひくひくと胸の先端が震えるように芯を持ち、それに加賀の手が触れる。先端を指先ですりすりと撫でられたり、芯をこねるようにくりくりと指の腹で上下にはじかれる。

「ま、まって、ま、んぅ、んっ、やだ、乳首、やだぁ……っ」
「嫌? でも、冬里の体は、触れるたびにびくびくっ、て反応してるよ。お腹の部分が、波打つみたいに痙攣して、気持ち良さそうな匂いが立ち上ってくる」

 五指を使って、まるでくすぐるように胸元の端から先端へ、指先が登っていく。息が詰まって、喉が震えた。太ももが僅かにぴくぴくと痙攣して、足先に力が入る。

「んっ、んぅ、あ、あ、――ひ、あ、おか、し、おかひ、い……っ」
「ふふ。可愛い。大丈夫、何もおかしくないよ。冬里の体は、僕の子どもを孕むために、頑張って準備してくれているんだから」

 そんなの。――そんなの、していない。孕む準備なんて、していない。首を振ると、不意にきゅうっと先端を摘ままれる。痛みの中に滲む快楽を、体が敏感に拾いあげた。下着がじんわりと濡れていくのがわかる。愛液が太ももを伝って、お尻の方へ落ちていくのが、わかった。

「あ、ン、んっ、ふ、あ、ァあ……っ」
「気持ち良さそうな声。――ねえ、冬里、帰ろうとしていたの?」

 加賀が、僅かに息を詰めるようにして、言葉を続ける。冬里の胸元を擽るように愛撫し、割入った足の隙間、ぐしょぐしょに濡れてしまった秘部に腰を押しつけるようにしながら、加賀はちらりと遠くに放られた鞄を見つめた。
 そうして、不意に何を思いついたのか、それに手を伸ばし、中から冬里の携帯を取り出す。

「ふふ。お母さんから、連絡が来ているよ。待っています、冬里の好きなものを作って、だって」
「――っ」
「冬里は帰らないよ。ね。そうでしょう? ほら、ちゃんと、ごめんなさい、帰らないです、って、連絡をして」

 加賀が言いながら、携帯を差し出してくる。ぐり、ぐりと押しつける熱が強くなるのがわかった。生地越しに擦れるだけで、じわじわとした快楽が背骨をゆっくりと登るように、冬里の脳を犯していく。

「ん、ん、あ、あ、ごめ……っ、ごめんなさ、い、ごめんなひゃ、いぃ……っ」
「どうして謝るの? 大丈夫、怒ってなんかいないよ。――そうだ、メッセージが送りづらいなら、電話にしたらどうかな」
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