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23-1 建前
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飲まないの、と話しかけられて、奏はハッと息を零した。
いつのまにか、視線を下げてしまっていたようだ。顔を上げると、微笑みを浮かべるステラと目が合う。
ステラは空になったカップを静かにソーサーの上へ置くと、「聖女様の好みの味なんだろう?」と首を傾げた。
「我が義弟ながら、甲斐甲斐しいね」
「――」
言葉が上手く形にならない。肯定をするのも、否定をするのもおかしいように思われた。勧められるがままにティーカップを手に取り、口元に運ぶ。花のような匂いと共に、舌先を微かな甘さが濡らす。
美味しい。ほっとするような味だった。――どこまでも、奏のことを考えて選ばれた茶葉であるということが、一口飲むだけでわかってしまう。
そのことに、更に感情が揺さぶられる。頭の中がぐちゃぐちゃになって、どうしようもない。
「……そんな顔をするのに、……」
「――え?」
囁きが耳朶を打つ。そんな顔――とは、どんな顔、だろう。そこまで変な顔をしていただろうか。
考えていることや感情が表に出すぎている。一人で居るならばまだしも、ここに居る人々は、奏の表情から様々な感情を察してしまう人ばかりだ。気をつけなければ、バレてしまうかもしれない。
――奏の気持ちも、全て、何もかも。
ティーカップを持つ手に力がこもる。爪先がかた、と震えて、陶器と当たって硬質な音を立てる。
好きだという気持ちだけで、ここに残るような決心が出来る強い人間であれば良かった。
私が幸せにしてみせます、と豪語出来るような人間であれば良かった。
だが、簡単に二十年以上の月日を過ごした世界を捨て去ることが、奏には出来ない。怖くて仕方無い。それに残ったところで、フェリクスと共に居られる保証なんてものは何処にも無い。
奏はどうしようもなく、臆病だった。
「ねえ、聖女様――」
「ただいま」
ステラが唇を開く。それと時を置かずして、扉が開いてフェリクスが入って来た。
アレウスから渡されたのだろう、いくつかの封筒を手に抱えたまま、「紅茶を飲んでいたんだ? どう、美味しいでしょう」と奏に声をかけてくる。
優しい声だった。瞬間、奏の心の中を、沢山の感情がめまぐるしく動く。喉の奥が震えて、先ほど胸の奥に押し込めた熱が、ぶり返すように目元を熱くする。
少しでも力を抜いたら、泣いてしまうのが自分でもわかった。だが、まさかここで涙を流すわけにもいかないので、奏は必死で腹に力を込める。
「……はい、美味しいです、すごく」
「……、……奏?」
フェリクスが奏を見つめる。虹彩が、探るように細められるのが見えた。
「なんでしょう」
「――、ステラ様、聖女様とのお話は終わりましたよね? 兄上のもとへ行かれては?」
「おっと。追い出すのかな?」
「まさか。ただ、兄上の婚約者が、その弟の部屋に長い時間居る、というのは外聞が悪いでしょうから。もちろん、そういった噂話をステラ様が問題無いと思うのであれば、どうぞご自由に」
フェリクスは微笑む。ステラは軽く肩をすくめて見せた。今更だろう、なんて笑いながら続けつつ、立ち上がる。
「わかった、失礼するよ。聖女様、また近いうちに会おう。その時は、もっと違う話をしようか。例えば、――地位や立場を盤石にする方法について、とかね」
「お気遣い無く」
ステラの言葉をフェリクスが切って捨てる。ステラはふふ、と微かに笑いながら、ゆっくりと室内を出て行った。フェリクスはすぐ、ステラが呼んだ使用人達にも退去を命じる。
室内にフェリクスと奏、二人きりになった。フェリクスは手に持っていた封筒を机の上に置くと、奏の隣に腰を下ろす。
「……フェリクス?」
「――キミって、隠すの下手だよね」
「え?」
「絶対泣きません、みたいな表情をしているよ」
フェリクスの指がすり、と奏の頬を撫でる。金色と緑が混じった虹彩が、奏をじっと見つめた。
そんな表情していただろうか。自分のことを客観視出来る、鏡のようなものがあればいいのにな、と奏は思う。そうしたら、もう少し表情や感情を隠すのも上手になれていたはずだろう。
「そんな……顔を、していましたか」
「結構ね。何があったの? 直ぐ戻ってきたつもりだったけれど。ステラ様は結構意地の悪いところがあるからね。こっちが言われたくないことをぐさぐさ言ってくる。僕も幼い頃は何度か泣かされた」
「フェリクスが?」
「そんなに驚くこと? 僕をなんだと思っているの?」
フェリクスが笑う。優しくて、甘い感情を滲ませた微笑みだった。奏を見つめる瞳、その虹彩が、穏やかに揺れる。
その瞳を見ていると、奏の心、その絡まった感情が、フェリクスによって少しずつ解きほぐされていくような心地を覚えた。
――ステラは、悪くない。悪いのは、何も考えていなかった奏に違いない。
ステラはただ、こうなる『可能性』を示してくれただけだ。そこに悪意は無い。ただ淡々と現実を口にしていただけで、それにただ奏が勝手にショックを受けただけだ。
ただそれだけの話でしかない。
「……ステラ様は、本当に、関係無いんです。ただ、私が色々と甘く見積もっていたなあと思うだけで」
「そうだね。キミって結構、甘く見積もりがちだよね。出来る、大丈夫って言って、全然そうじゃないことも多いし」
「……そこはこう、慰めとか言うべきじゃ……」
「慰める時は慰めるし、必要な時はきちんと苦言を呈するのが僕の良いところでしょ」
フェリクスは笑う。そうしてから、奏の頬を撫でた。する、と指先で優しくくすぐるように触れて、フェリクスは肩をすぼませる。
くすぐられた部分が、熱を持ったように熱い。奏はそっと指先で自身の頬に触れた。なぞるように動かすと、その手の上からフェリクスの手が重ねられる。
「甘く見積もりがちだけれど、そういうところも、キミの良い所だよ。悪い所でもあるけれどね。出来れば今後は安請け合いしないようにして」
「……褒めてるのか褒めてないのか、全然わからないのですが」
「褒めてるよ。褒めてる。――ねえ、奏」
フェリクスの指が、奏の手の甲を撫でる。そのままゆっくりと首元へ下りて、フェリクスの手が離れていった。
「泣くなら胸くらいは貸すけれど」
「……、私が絶対に泣く前提なんですか?」
「そうだね。それで更に言うと、キミって泣く時はどこかへ行ってしまいそうだから。僕はキミが、僕の居ない場所で泣くことに耐えられそうにない。泣くならここで泣いて」
我が儘だな、と奏は思う。けれど、――その我が儘に、甘えてしまいたくなるのも、確かだ。
奏は息を零すように笑って、それからフェリクスの肩口に顔を寄せた。
良い匂いがする。フェリクス自体の匂いと、それと――陽だまりのような匂い。そろ、と背中に手を回すと、フェリクスが触れるよ、と声をかけてきて、奏の背に手を回してきた。背骨を優しく撫でるように手の平が動く。
「……フェリクスの幼い頃の話、聞きたいです」
「僕の? 良いけれど。よく泣いてたかな。それ以外は、今と結構違うよ。目の色がまず違うからね」
「目の色が?」
「そう。元々は赤色だったんだ。毒を盛られてから、今の目の色になった」
さら、と言い切られた言葉だった。
明日の天気を言うような言葉に似合わない、ずしりとした質量のある過去である。奏は思わず身じろぎする。
「それ、物凄く重要な話なんじゃ……」
「終わったことだからね。昔は母上に良く似ていると言われていたんだ。今は誰にも言われないな。まあ僕も背とか伸びたしね」
フェリクスは静かに言葉を続ける。まさか幼い頃の話をして欲しい、とお願いをして、こんなとんでもない重ためな話題が出てくるとは思わなかった。絶対今の状況に合っていない。
奏は苦笑を零し、顔を上げる。至近距離で目があった。美しい虹彩が、奏を見つめる。
「……フェリクスは、今の目の色は、嫌いですか?」
「どうだろう。こうなったばかりの頃はとても嫌だったけれど、僕も成長したから」
「……、……」
いつのまにか、視線を下げてしまっていたようだ。顔を上げると、微笑みを浮かべるステラと目が合う。
ステラは空になったカップを静かにソーサーの上へ置くと、「聖女様の好みの味なんだろう?」と首を傾げた。
「我が義弟ながら、甲斐甲斐しいね」
「――」
言葉が上手く形にならない。肯定をするのも、否定をするのもおかしいように思われた。勧められるがままにティーカップを手に取り、口元に運ぶ。花のような匂いと共に、舌先を微かな甘さが濡らす。
美味しい。ほっとするような味だった。――どこまでも、奏のことを考えて選ばれた茶葉であるということが、一口飲むだけでわかってしまう。
そのことに、更に感情が揺さぶられる。頭の中がぐちゃぐちゃになって、どうしようもない。
「……そんな顔をするのに、……」
「――え?」
囁きが耳朶を打つ。そんな顔――とは、どんな顔、だろう。そこまで変な顔をしていただろうか。
考えていることや感情が表に出すぎている。一人で居るならばまだしも、ここに居る人々は、奏の表情から様々な感情を察してしまう人ばかりだ。気をつけなければ、バレてしまうかもしれない。
――奏の気持ちも、全て、何もかも。
ティーカップを持つ手に力がこもる。爪先がかた、と震えて、陶器と当たって硬質な音を立てる。
好きだという気持ちだけで、ここに残るような決心が出来る強い人間であれば良かった。
私が幸せにしてみせます、と豪語出来るような人間であれば良かった。
だが、簡単に二十年以上の月日を過ごした世界を捨て去ることが、奏には出来ない。怖くて仕方無い。それに残ったところで、フェリクスと共に居られる保証なんてものは何処にも無い。
奏はどうしようもなく、臆病だった。
「ねえ、聖女様――」
「ただいま」
ステラが唇を開く。それと時を置かずして、扉が開いてフェリクスが入って来た。
アレウスから渡されたのだろう、いくつかの封筒を手に抱えたまま、「紅茶を飲んでいたんだ? どう、美味しいでしょう」と奏に声をかけてくる。
優しい声だった。瞬間、奏の心の中を、沢山の感情がめまぐるしく動く。喉の奥が震えて、先ほど胸の奥に押し込めた熱が、ぶり返すように目元を熱くする。
少しでも力を抜いたら、泣いてしまうのが自分でもわかった。だが、まさかここで涙を流すわけにもいかないので、奏は必死で腹に力を込める。
「……はい、美味しいです、すごく」
「……、……奏?」
フェリクスが奏を見つめる。虹彩が、探るように細められるのが見えた。
「なんでしょう」
「――、ステラ様、聖女様とのお話は終わりましたよね? 兄上のもとへ行かれては?」
「おっと。追い出すのかな?」
「まさか。ただ、兄上の婚約者が、その弟の部屋に長い時間居る、というのは外聞が悪いでしょうから。もちろん、そういった噂話をステラ様が問題無いと思うのであれば、どうぞご自由に」
フェリクスは微笑む。ステラは軽く肩をすくめて見せた。今更だろう、なんて笑いながら続けつつ、立ち上がる。
「わかった、失礼するよ。聖女様、また近いうちに会おう。その時は、もっと違う話をしようか。例えば、――地位や立場を盤石にする方法について、とかね」
「お気遣い無く」
ステラの言葉をフェリクスが切って捨てる。ステラはふふ、と微かに笑いながら、ゆっくりと室内を出て行った。フェリクスはすぐ、ステラが呼んだ使用人達にも退去を命じる。
室内にフェリクスと奏、二人きりになった。フェリクスは手に持っていた封筒を机の上に置くと、奏の隣に腰を下ろす。
「……フェリクス?」
「――キミって、隠すの下手だよね」
「え?」
「絶対泣きません、みたいな表情をしているよ」
フェリクスの指がすり、と奏の頬を撫でる。金色と緑が混じった虹彩が、奏をじっと見つめた。
そんな表情していただろうか。自分のことを客観視出来る、鏡のようなものがあればいいのにな、と奏は思う。そうしたら、もう少し表情や感情を隠すのも上手になれていたはずだろう。
「そんな……顔を、していましたか」
「結構ね。何があったの? 直ぐ戻ってきたつもりだったけれど。ステラ様は結構意地の悪いところがあるからね。こっちが言われたくないことをぐさぐさ言ってくる。僕も幼い頃は何度か泣かされた」
「フェリクスが?」
「そんなに驚くこと? 僕をなんだと思っているの?」
フェリクスが笑う。優しくて、甘い感情を滲ませた微笑みだった。奏を見つめる瞳、その虹彩が、穏やかに揺れる。
その瞳を見ていると、奏の心、その絡まった感情が、フェリクスによって少しずつ解きほぐされていくような心地を覚えた。
――ステラは、悪くない。悪いのは、何も考えていなかった奏に違いない。
ステラはただ、こうなる『可能性』を示してくれただけだ。そこに悪意は無い。ただ淡々と現実を口にしていただけで、それにただ奏が勝手にショックを受けただけだ。
ただそれだけの話でしかない。
「……ステラ様は、本当に、関係無いんです。ただ、私が色々と甘く見積もっていたなあと思うだけで」
「そうだね。キミって結構、甘く見積もりがちだよね。出来る、大丈夫って言って、全然そうじゃないことも多いし」
「……そこはこう、慰めとか言うべきじゃ……」
「慰める時は慰めるし、必要な時はきちんと苦言を呈するのが僕の良いところでしょ」
フェリクスは笑う。そうしてから、奏の頬を撫でた。する、と指先で優しくくすぐるように触れて、フェリクスは肩をすぼませる。
くすぐられた部分が、熱を持ったように熱い。奏はそっと指先で自身の頬に触れた。なぞるように動かすと、その手の上からフェリクスの手が重ねられる。
「甘く見積もりがちだけれど、そういうところも、キミの良い所だよ。悪い所でもあるけれどね。出来れば今後は安請け合いしないようにして」
「……褒めてるのか褒めてないのか、全然わからないのですが」
「褒めてるよ。褒めてる。――ねえ、奏」
フェリクスの指が、奏の手の甲を撫でる。そのままゆっくりと首元へ下りて、フェリクスの手が離れていった。
「泣くなら胸くらいは貸すけれど」
「……、私が絶対に泣く前提なんですか?」
「そうだね。それで更に言うと、キミって泣く時はどこかへ行ってしまいそうだから。僕はキミが、僕の居ない場所で泣くことに耐えられそうにない。泣くならここで泣いて」
我が儘だな、と奏は思う。けれど、――その我が儘に、甘えてしまいたくなるのも、確かだ。
奏は息を零すように笑って、それからフェリクスの肩口に顔を寄せた。
良い匂いがする。フェリクス自体の匂いと、それと――陽だまりのような匂い。そろ、と背中に手を回すと、フェリクスが触れるよ、と声をかけてきて、奏の背に手を回してきた。背骨を優しく撫でるように手の平が動く。
「……フェリクスの幼い頃の話、聞きたいです」
「僕の? 良いけれど。よく泣いてたかな。それ以外は、今と結構違うよ。目の色がまず違うからね」
「目の色が?」
「そう。元々は赤色だったんだ。毒を盛られてから、今の目の色になった」
さら、と言い切られた言葉だった。
明日の天気を言うような言葉に似合わない、ずしりとした質量のある過去である。奏は思わず身じろぎする。
「それ、物凄く重要な話なんじゃ……」
「終わったことだからね。昔は母上に良く似ていると言われていたんだ。今は誰にも言われないな。まあ僕も背とか伸びたしね」
フェリクスは静かに言葉を続ける。まさか幼い頃の話をして欲しい、とお願いをして、こんなとんでもない重ためな話題が出てくるとは思わなかった。絶対今の状況に合っていない。
奏は苦笑を零し、顔を上げる。至近距離で目があった。美しい虹彩が、奏を見つめる。
「……フェリクスは、今の目の色は、嫌いですか?」
「どうだろう。こうなったばかりの頃はとても嫌だったけれど、僕も成長したから」
「……、……」
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