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12-1.老いても
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「フィラス、朝だよ、起きて」
「……うん……」
朝、朝日が差し込む部屋で、エステルは目を覚ます。ぱちぱちと軽く瞬きをしてから、軽く伸びをして、隣で眠る恋人――フィラスの体を揺らす。
フィラスはもごもごと何かしら言って、エステルの体に手を回してきた。もう少し、とか、あと少し、と言うようなことを言っているのが聞こえて、エステルは苦笑した。
いつまで経っても、フィラスは朝が弱い。
エステルとフィラスが結ばれた日から、少し経つ。
フィラスは王命に背くこと無く、王都に行くことになり、エステルもそれに付いて行くことになった。ダグザは二人のことを祝福してくれて、エステルの父母も、驚いていたようだが「まあ昔からエステルはフィラス様のことが好きだったしね」と、納得してくれたように思う。
ユーリにも手紙を書いて、結婚式をするなら呼んで欲しい、ということを言われている。エステルが結婚することはケイにも伝わったらしく、お祝いにお酒を送る! というようなことが書かれていて、本当に樽に入ったお酒が届けられたので、少し笑ってしまった。
王都で、エステルはフィラスと共に過ごしている。
フィラスは王都の魔法士として仕えることになり、それもあって仕事が多く、時々昼に抜け出して来ては泣きながらエステルを抱きしめてくる。
「エステルと一緒に居られると思ったのに、全然一緒に居られない、嫌だ、もう嫌だ、エステル、逃げよう」と言いながら抱きしめてくるフィラスを宥めるのが、最近のエステルの仕事である。と言っても、慰めながら背を叩くことくらいしか出来ないのだが。
……もし逃げよう、という言葉にエステルが同意したら、即座に実行へ移しそうなあたりが、フィラスの恐ろしい所である。
「エステル、……エステル、キスして欲しい……キスして起こして」
「……」
甘えるようにエステルの名前を呼んで、フィラスはすりすりとエステルの背中を撫でる。エステルの肩口に顔を寄せて、すん、と匂いを嗅ぐように鼻を鳴らして、フィラスは緩慢な動作で目を開いた。白金色の瞳が、涙の紗幕を落としているのが見える。エステル、ととろけそうなほど甘い声で囁いて、フィラスはエステルに顔を寄せた。
ちゅ、と口元に軽くキスをして、エステルはフィラスの頭を撫でる。フィラスはエステルの背中から、ゆっくりと手を上らせて首元に腕を回し、そのままぎゅうっと抱きしめてきた。
とく、とく、と一定の速度で鼓動が動く音が聞こえる。ぬるま湯のような体温が、じんわりと衣服越しにエステルの肌を濡らす。
フィラスと抱きしめあうことが、エステルは、とても好きだ。フィラスも多分、心地良く思ってくれているのか、隙があればエステルのことを抱きしめようと腕を伸ばしてくる。
フィラスは長く生きた割に、存外、とても甘えたがりなのだと、エステルは知っている。
「ふ。エステル。おはよう。今日も起こしてくれてありがとう。大好きだよ」
囁く声は、まるで冗談を口にするように聞こえる。エステルはフィラスの背中を軽く叩いた。
「ほら。頑張って着替えて、行かないと」
「もう少し。大丈夫、僕、空を飛んでいけるから。遅刻とかは絶対にしないし、だから、もう少しだけ。ね。良い? エステル」
「……いっつも朝、そういうよね」
「ふふ。でも、エステルもそういいながら、許してくれるから。大好きだよ。僕に甘いエステル、可愛くて、大好き」
「フィラス……」
「駄目だよ、エステル。二人きりの時は、僕の本当の名前を呼んでくれるっていう約束だったでしょ」
「……レーヴェ」
「うん。エステル。僕のエステル。エステルの、レーヴェだよ」
「……うん……」
朝、朝日が差し込む部屋で、エステルは目を覚ます。ぱちぱちと軽く瞬きをしてから、軽く伸びをして、隣で眠る恋人――フィラスの体を揺らす。
フィラスはもごもごと何かしら言って、エステルの体に手を回してきた。もう少し、とか、あと少し、と言うようなことを言っているのが聞こえて、エステルは苦笑した。
いつまで経っても、フィラスは朝が弱い。
エステルとフィラスが結ばれた日から、少し経つ。
フィラスは王命に背くこと無く、王都に行くことになり、エステルもそれに付いて行くことになった。ダグザは二人のことを祝福してくれて、エステルの父母も、驚いていたようだが「まあ昔からエステルはフィラス様のことが好きだったしね」と、納得してくれたように思う。
ユーリにも手紙を書いて、結婚式をするなら呼んで欲しい、ということを言われている。エステルが結婚することはケイにも伝わったらしく、お祝いにお酒を送る! というようなことが書かれていて、本当に樽に入ったお酒が届けられたので、少し笑ってしまった。
王都で、エステルはフィラスと共に過ごしている。
フィラスは王都の魔法士として仕えることになり、それもあって仕事が多く、時々昼に抜け出して来ては泣きながらエステルを抱きしめてくる。
「エステルと一緒に居られると思ったのに、全然一緒に居られない、嫌だ、もう嫌だ、エステル、逃げよう」と言いながら抱きしめてくるフィラスを宥めるのが、最近のエステルの仕事である。と言っても、慰めながら背を叩くことくらいしか出来ないのだが。
……もし逃げよう、という言葉にエステルが同意したら、即座に実行へ移しそうなあたりが、フィラスの恐ろしい所である。
「エステル、……エステル、キスして欲しい……キスして起こして」
「……」
甘えるようにエステルの名前を呼んで、フィラスはすりすりとエステルの背中を撫でる。エステルの肩口に顔を寄せて、すん、と匂いを嗅ぐように鼻を鳴らして、フィラスは緩慢な動作で目を開いた。白金色の瞳が、涙の紗幕を落としているのが見える。エステル、ととろけそうなほど甘い声で囁いて、フィラスはエステルに顔を寄せた。
ちゅ、と口元に軽くキスをして、エステルはフィラスの頭を撫でる。フィラスはエステルの背中から、ゆっくりと手を上らせて首元に腕を回し、そのままぎゅうっと抱きしめてきた。
とく、とく、と一定の速度で鼓動が動く音が聞こえる。ぬるま湯のような体温が、じんわりと衣服越しにエステルの肌を濡らす。
フィラスと抱きしめあうことが、エステルは、とても好きだ。フィラスも多分、心地良く思ってくれているのか、隙があればエステルのことを抱きしめようと腕を伸ばしてくる。
フィラスは長く生きた割に、存外、とても甘えたがりなのだと、エステルは知っている。
「ふ。エステル。おはよう。今日も起こしてくれてありがとう。大好きだよ」
囁く声は、まるで冗談を口にするように聞こえる。エステルはフィラスの背中を軽く叩いた。
「ほら。頑張って着替えて、行かないと」
「もう少し。大丈夫、僕、空を飛んでいけるから。遅刻とかは絶対にしないし、だから、もう少しだけ。ね。良い? エステル」
「……いっつも朝、そういうよね」
「ふふ。でも、エステルもそういいながら、許してくれるから。大好きだよ。僕に甘いエステル、可愛くて、大好き」
「フィラス……」
「駄目だよ、エステル。二人きりの時は、僕の本当の名前を呼んでくれるっていう約束だったでしょ」
「……レーヴェ」
「うん。エステル。僕のエステル。エステルの、レーヴェだよ」
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