長命種の愛は重ため

うづき

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10-3.冗談と本気 ※

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「隣村に『女性の隣人はいない』って言ったのを、覚えている?」
「――っ」
「あれは、嘘ではないけれど、真実を話したとも言えない。隣村に居たのは、『男性の隣人』だよ。もう居なくなってしまったけれど」

 エステルは瞬く。なら、『女性の隣人がいた』という話は、一体どこから出てきたのだろう。
 余裕があったら、沢山考えられただろうが、今は与えられる快楽によって脳が強く揺さぶられていて、エステルにはそれ以上何も考えられない。ただひたすら、フィラスが口にする言葉をそのまま受け止めるだけしか、出来ない。

「かわいそうな話だよね。でも、大丈夫。僕は、エステルの傍にずうっと一緒に居るから。エステルが死ぬときは、僕も一緒に死ぬ。僕が死ぬ時は、エステルを殺してあげる。だから、寂しい思いなんて、絶対にさせないよ」

 ゆっくりと指が引き抜かれる。フィラスが下をくつろがせて、強く芯を持った熱を、エステルの秘部に触れさせた。
 先ほどの指とは比べものにならないほどのそれが、エステルの秘部をなぞるようにくち、くちと音を立てながら動く。
 これを、中に、いれられるのか。

「エステル、僕との子どもを孕んでくれる? ――お腹がいっぱいになるくらい、沢山沢山、注ぐから」
「ま、まって、まって……」

 体ががくがくと震える。フィラスがエステルの体をぎゅうっと抱きしめた。大丈夫だよ、と言わんばかりに、エステルの頭を優しく撫でて、そのままゆっくりと腰を落とされる。
 先端が、僅かな抵抗をすぐに崩して、中に入る。ゆっくりと馴染ませるように奥まで進み、フィラスは腰を止めた。視界がちかちかと明滅する。心臓がどくどくと耳の傍で鳴っているような気がするくらい、ひどく音を立てる。

「あ、っ、ま、まって、って、いった、のに……っ」
「ごめんね。僕も限界で、……エステルのえっちな所、沢山見たからかな、凄く興奮してしまっている。今までは自分で抜いていたんだけれど、今日は――エステルの中で、イけるんだって、思うと、興奮しちゃって」
「なん、で、わたし……っ、私、のこと、犬、とか、猫、って、思って……たんじゃ、ないの……?」

 足が震える。エステルが必死に息を詰まらせながら言葉を口にすると、フィラスは呆けたように瞬いて、それから笑った。

「そんなこと、一度も思ったことはないよ」
「――っ」
「エステル。僕の可愛い子。君に出会えるまでの日々を、僕はもう忘れてしまった。君が居ないと、もう生きていけない。大好きだよ」

 頬にキスをされて、フィラスがゆるく律動を開始する。奥の方をなぞるように動かされて、エステルはぼろ、と涙を零す。
 初めては痛い、と聞いた覚えがある。それなのに、エステルの体は、与えられる微弱な快楽を、沢山のものに増幅していく。痛いどころか、どうしようもなく気持ち良かった。

「あっ、……っあ、ん、う、うう、フィラス、おか、しぃ、からだ……っ、体、おかしい、からぁ……っ」
「大丈夫。おかしくないよ。痛くないでしょう? 痛かったらエステルがかわいそうだなあって思って、痛みを感じる感覚だけ、魔法でふさいでおいたからね」
「な、に、なに……? なに、んっ、ひ、ぁ……っ」
「可愛い。エステル。エステルは、僕のものだよ。僕も、エステルのものになるから。ね。一緒、ずっと、……ずっと。大好きだよ。エステル、君以外のものなんて必要ない。大好き。エステルの代わりになんて、誰もなれないよ。僕にはエステルだけだ」

 熱に浮かされたように、滔々とフィラスは言葉を口にする。熱がゆっくりと引き抜かれて、そのまままた奥の方へゆっくりと押し進められる。最奥にキスをするように先端をぎゅうっと押しつけられると、ぞわぞわとした感覚がエステルの背筋を駆け上っていく。

「あは、ここ、奥、ちゅうって吸い付いてきてるみたい……、エステルの中、ずうっときゅうきゅう動いているよ。ね、ずーっと甘イきしてるみたいだね」
「ひ、あ、っ、や、奥、つぶ、さない、でぇっ……」
「ふふ。可愛い。蜜が溢れてきて、まるでお漏らししているみたいだね。可愛い。エステル。小さい頃も、今も、全部」

 フィラスはまるで歌うように口にする。それらの言葉を、今まで、エステルは、冗談だと思っていた。
 だって、そうだろう。どうして自分のことを好きなのかわからないのだ。フィラスのことは誰もが好きになる。優しくて、少しだけ間が抜けていて――けれどお茶目な彼に、好感を抱かない人なんて、きっと、居ない。
 それなのに、今、エステルはフィラスに愛を囁かれて、体を重ねられている。好きだと、いつもの調子で囁かれて――けれど、きっと、それは、フィラスにとって冗談などではない。

 本気で。
 ずっと、本気で、フィラスは、エステルのことが、好きだったのだろう。

「――っ」
「ん、きゅうって、締まった、けれど、ここ、気持ち良かった? 沢山撫でてあげるね」
「あ、っ、あ、ふぃら、す……っ」

 なんだそれ、と思う。
 そんなの、知らなかった。だって、いつも冗談めかして言っていたから。だから、エステルはフィラスに対する恋心を頑張って押さえつけたのに。
 優しさで紡がれた恋を、終わりにしたのに。それなのに、こんな状況になって、初めてフィラスの気持ちをきちんと知ったなんて、まるでお互い、馬鹿みたいだ。
 いや、――馬鹿なのは、多分、エステルだけ、だろう。

 フィラスの言葉を、ずっと、信じ切れていなかったエステルだけが、きっと。
 フィラスはずっと、エステルに愛を囁いてくれていたのに。

 フィラスの熱がエステルの体を高めていく。興奮と、どうしようもない快楽で眦に涙が浮かんだ。瞬きの度にそれは流れ落ちていく。フィラスがエステルの胸を舌先で愛撫しながら、指先で優しく花芽を摘まむ。ちゅこちゅこ、と扱くようにされて、エステルは体を跳ねさせた。

「あっ、あっ、おか、し、からだ、熱い、……っ、フィラス……っ」
「――ねえ、レーヴェ、って呼んで」
「は、っ、……?」
「レーヴェ。僕の名前。僕の本当の名前、レーヴェ。呼んで、お願い。エステルに呼ばれたい、エステル……」

 レーヴェ。
 紡がれた言葉を脳裏で繰り返す。エステルは唇を一度だけきゅうっと引き結んで、それから呼吸の合間に、唇を開いた。

「レー、っ、ヴェ……っ」
「うん。――そうだよ。君だけが知っていて。エステル、君だけが、僕の本当の名前を、呼んで……、好きだよ。大好き。――ねえ、キスをしても良い?」

 散々あれほど好き勝手触れてきたのに、急に何を言うのだろう、とエステルは瞬く。多分、エステルの体を散々に舐めたから、キスを迫ってエステルに嫌がられないかを考えていたのではないだろうか。

 なんだそれ、と、エステルは思う。なんだそれ、本当に、わけがわからない。気にするところはそこなのか、と怒りたくなる。
 けれど沢山の言葉を飲み込んで、エステルは小さく頷いた。

 怒るのは後で、出来る。――言葉が足りなかったことを謝罪して、強引に事を起こしたことを怒って、それから。
 それから、ちゃんと、話すべきなのだろう。

 二人のこれからを、きちんと。

 フィラスが嬉しそうに目を細める。腰の律動を早めながら、フィラスはエステルの唇に触れた。
 皮膚が重なる。触れあった場所から、お互いの心臓がとろけて混ざり合いそうなほどの熱を滲ませながら、エステルとフィラスは達した。
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