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全ての始まりの日

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魔王も勇者もいなくなった世界に、残ったのは魔物と人間同士の醜い争いだけであった。


毎日のように命の灯火が消えていく。

そしてここにも、また一人、命の灯火が消えようとしていた。


暗雲が立ち込む空の下。

 民衆に怒号を浴びせられながら、処刑人に引っ張られ俺は処刑場の階段を登る。


(俺が何をしたというのか)


そして執行人が紙を広げ罪状を読む。


「では罪状を読み上げる。罪人である、第八位帝位継承権を持つ皇子“ルヴァンシュ・アンぺラール“は現皇帝“オグル・アンぺラール“を暗殺しようとした罪により、帝位継承権を剥奪及び“死刑“と処す。」


「俺はそんな事していない!!何かの間違いだ!!」


「黙らせろ。」


執行人が冷たい声で言い放ち、処刑人が縄でルヴァンシュの口を塞ぐ。


 言葉の通りルヴァンシュは暗殺など企ててはいなかった。ルヴァンシュは生まれつき頭が良かったが、成人の儀式で王族本来なら受け継がれる特殊な能力が受け継がなかった。


たったそれだけ……

 

 たった、それだけの事で、冤罪をかけられ、無能の烙印を押され、今、ルヴァンシュの人生が終わろうとしている。


 罪状が読まれ、民衆の怒号がさらに熱を帯びる中、処刑人に頭を掴まれ断頭台に頭を押し付けられる。


横にいたもう一人の処刑人の男が斧を振り上げ——


(本当に無意味な人生だった)


——ルヴァンシュの首目掛けて斧が振り下される。


走馬灯の様に過去の出来事が脳裏に駆け巡る。

 その中で1番思い浮かんだのは、亡くなった幼馴染の女の子“ユイ・ケーレス“の顔だった。


(俺に力があればあいつは助かったのかな、そして俺……自身も)


 悔しさで唇を血が出るほど噛み締めて、目を閉じ振り下される斧を待っていたが、一向に首を刎ねられる気配がしなかった。


「力が欲しいか?」


不意に話しかけられ、目を開ける。


「なっ、なんだこれは!?」


 口に咥えさせられていた紐は外れ、そして民衆も処刑人も何もかもが停止し世界が静寂になっており、目の前には女が立ってこちらを見下ろしていた。


「答えろ。世界を変えられる力が欲しいか?」


その問いに迷わず即座に答える。


「よこせ!この世界の何もかもを変えられる力を!!!」


 “フッ“っと妖艶な笑みで笑う女は、突然ルヴァンシュの左眼に触れ閉じさせない様にし、そして目玉に紋様を刻み込みだした。


「ぐぁぁぁあああああ!!!!」


 目玉を灼熱で焼かれて、針で何度も何度も突き刺されているような耐え難い痛みに発狂しそうになりながらも、現皇帝“オグル・アンぺラール“への復讐心だけでなんとか意識を保っていた。


そして、体感永遠とも思える時を耐え切った。


「忘れるな。これは契約だ。お前の復讐が終わったその時また会いに来よう。」


「待て!お前は一体—————」


そう言い終わる前に、ルヴァンシュの視界は歪み意識を失った。


◇◻︎◇◻︎◇


“ハッ“と目が覚めるとそこは罪人“ルヴァンシュ“の死刑執行の直前に入れられていた牢屋であった。するとそこに、処刑人がやってきた。


「おい!こっちへこい!これからてめぇを死刑にするってよ!」


処刑人は薄気味悪く嘲笑いルヴァンシュを引っ張り出そうとする。


「なぁ、お前は人を殺すのが好きなのか?」


「当たり前だろ!!こっちはいつも人を殺したくてうずうずしてんだよ!!だからてめぇも早く殺させろ!!!!」


「そうか、じゃあお前に命じてやろう」


 その瞬間、ルヴァンシュの左眼が深紅に光り輝き七芒星の様な紋様が浮かび出す。


「ハァ!?お前何言って—————」


《この城にいる奴ら全員皆殺しにしろ》


 すると、処刑人の眼は虚になり、首には隷属の印が一瞬刻まれ、そして斧を持ち走り出す。しばらくすると、辺り一体から悲鳴が響き騒然とする。


 その騒動に乗じて、ルヴァンシュは牢屋から脱獄し城の外へ繋がる隠し通路から逃げ出した。


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