異世界に来たのでお兄ちゃんは働き過ぎな宰相様を癒したいと思います

猫屋町

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書籍化御礼番外編  ※リツ視点

家族サービス 3

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「リツ、先日話していた場所が分かったぞ」

いつもより遅い時間に帰って来たディーンさんと一緒にお風呂に浸かっているとき、不意に後ろからそう話しかけられた。温かい湯にリラックスしていた頭ではすぐに話の意図が分からず、首を傾げる。

「ええっと、何の話しでしたっけ」

「リアンが行きたがっていた場所だ。不思議な水が湧き出るという」

「あぁ、あの場所ですか」

リアンくんが騎士団の誰から聞いたという情報しかなかったのに、もう分かったのか。
忙しい合間にリアンくんにバレないようこっそりと調査していたかと、ちょっと微笑ましい。

騎士団の訓練場に僕たちの作業場があるため、リアンくんに見つからないように調べるのは大変だっただろう。目敏く、何事にも察しがいいリアンくん相手だから、騎士さんたちがいつもと違う動きをすれば、すぐに勘付かれてサプライズにならない。
リアンくんの能力はディーンさんももちろん知っているから、きっと細心の注意を払いながらの調査だっただろう。

それほど気を配ってリアンくんを喜ばせようとしているディーンさんがいじらしく、愛しい。振り向いてディーンさんの頬にキスをした。すると僕の頬に大きな手が添えられ、湯気に濡れた口唇が重なる。

「ん……ディーン、さん……」

深くなる口づけに密着した身体が疼く。縋るように名前を呼べば、くすりと笑われ、口唇が解放された。

「リツからキスしてくれるなんて珍しいな」

今度はコツンと額を合わせられ、蒼い瞳が間近に迫る。言葉にされると自分の行動が急に恥ずかしくなった。

「つい、したくなって……」

「いつでもしてくれて構わないぞ」

嬉しそうな、それでいて揶揄うような声音に返事に困った。ディーンさんとのキスは何度してもなかなか慣れない。今みたいに自然と出来ることも増えたけど、それでも頬が限界。

「……善処します」

「楽しみにしている」

にっこりと笑うディーンさんに居た堪れなくなって、前に向き直って話を戻す。

「水の湧き出る場所が分かったんですよね」

「そうだ。西の森の中にある湖近くらしい」

異世界に来てからまだ城門の外へは出たことがない。西の森と言われてもピンと来なかった。

以前ディーンさんと杏を採りに出掛けた森も王宮のすぐ裏手で城壁内だった。その森には魔物がいたりするんだろうか。

「西の森、ですか」

僕の声で察したのか、ディーンさんがふむ、と頷く。

「リツはまだ外へ出たことがなかったな。王都は出るが、すぐそばで動物もほとんど出ない静かな森だ。広さは比べものにならないほど広いが」

「そうなんですね」

動物も出ないと聞いてそっと安堵すると、ディーンさんの手が僕の手に重なり、指を絡められる。

「リツを危険な目に合わせたりしない」

「ディーンさん……」

「だから、安心してくれ」

「はい、信じています」

力強い言葉にディーンさんの方へ身体を預けると、頭上で咳払いが聞こえた。

「それで、早速だが明後日、リアンを連れて行ってみないか」

「お仕事は大丈夫なんですか」

今夜も仕事が立て込んでいたらしくいつもよりも遅い夕食だった。

「調整をつけて来た。今日遅かったのはそのためだ」

「なるほど。じゃあ、その日はお弁当を作ります」

せっかくなのでピクニックみたいに森の中でお昼をとるのもいいだろうと提案すると。

「それはいいな。ーーあぁ、そうだ。リアンには現地に着くまで秘密な」

僕たち以外誰も聞いていないのに、声を顰め、耳元で囁かれる。

僕も真似してディーンさんの耳に口唇を寄せた。

「はい、秘密ですね」


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