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番外編 ※ディーン視点

幸福を手にした日(ディーン視点 プロローグ)

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毎日終わることのない執務が面倒だと思ったことも、煩わしいと思ったことも一度もなかった。
私が調べ、考え、決断することで国が良くなるのなら、民の暮らしが豊かになるなら、それ以上望むべくもない。
私事を後回しにし、ひたすら国に尽くせばそれで良いと家督さえも弟に譲るつもりで準備している。
婚姻すら難しいのに領地や家のことまで手が回らない。
私はただ走り続け、いつかぱたりと立ち止まり、死ぬんだろう。
国の犠牲になってるとは思わない。私自身が選んだ道だ。
ただ時々、ほんの少しだけ寂しく感じることがある。
心のどこかに空いた小さな穴が少しずつ、少しずつ広がっていくような気がすることがある。
この穴が埋まることはないのだろう。
それが少しだけ悲しくて、寂しい……


そんな詮ないことを頭の片隅で考えながら仕事を捌いていると、必要な書類が足りないことに気付いた。
許可するにしろ、差し戻すにしろそれがないと判断がつかない。
リアンに頼もうと顔を上げて、遣いに出していることを思い出す。
仕方がない……
自分で取りに行こうと重い腰をあげた。


別の棟にある部署へは一度一階まで降り、中庭の脇にあるこの渡り廊下を通らなければならない。
面倒なことだ。
そんなことを思いながら歩いていると、不意に空から強い魔力を感じた。
強いが暖かくぽっかりと空いた穴を埋めてくれるような、そんな優しい魔力を。

ーー行かないと

魔力に導かれるように中庭に出て空を見上げると、そこには人がいた。
羽根でも生えているかのように、不思議な力で浮かび、ゆっくりと落ちてくる。

落下点に近付くと、落ちる速度が急に速くなった。

ーー危ない!

息をするのも忘れ、必死に走り手を伸ばす。

「ーーッ!!」

ふわりと羽根を受け止めるような感触の後、確かな重みを腕に感じた。

腕の中を覗くと微笑むような寝顔があった。その表情を見た瞬間、心臓を直接掴まれたような衝撃と柔らかく包まれるような幸福に襲われる。

甘い香りのする身体をそっと抱きしめ、その額に口付けた。






××××××××××××××××××××××××

ディーンさんサイドの出会い編でした。
仄暗かった彼の日常がリツと出会ったことで暖かなものに変わっていく、そんな前日譚をかければいいなと本編ではありませんが、上げさせて頂きました。
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