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本編
七夜ー2 どんな姿もかっこよくて、可愛いよ
しおりを挟む『トモル、私が可愛いというのはどういう意味だ?』
俺の感想に驚いたらしいグランは金色の大きな瞳を更に見開いた。そんなにびっくりするようなことかな。
「そのまんまの意味だけど。それより、竜の姿で今日は出掛けるの?」
『そうだ。トモルはあの籠に乗ってくれ。籠ごと私が運ぶ』
グランの視線の先を見ると、籐籠を大きくしたような2メートル四方の箱があった。長くしっかりとした綱がついている。大型動物のポシェットの見えなくもない。
「あれを肩に掛けるの? それとも背中に乗せる感じ?」
『いや、綱がついているだろう。あれを首にかけるんだ』
「首に? 重くない?!」
籐籠がどれくらいの重さか分からないが、俺と荷物が乗ればかなりの重量になるはず。竜姿のグランの首は細いわけじゃないけど、結構な負荷がかかるだろう。
『問題ない。トモルは軽過ぎるくらいだ』
「本当に? 籠も結構しっかりしてて重そうだよ。荷物もあるし」
痛めないか心配でグランの首を撫でると、気持ちよさそうに目を細めたが。
『心配ない。それにそれほど長く飛ぶわけじゃないからな』
グランの発した単語に首を撫でる手が止まる。
「とぶ?」
『この身体で地を駆けると振動が激しいからな。周囲の建物が揺れてしまう』
「確かに」
グランの身体は民家ぐらいのサイズだ。日本で見たどの動物より大きい。この大きさでは、一歩動くだけでも地が揺れるだろう。
高所恐怖症ってわけじゃないけど、飛行機にも乗ったことがないので、上空は未知の領域。ちょっと腰がひけた。恐怖心が顔に出ないように気をつけながらグランに質問する。
「結構高く飛ぶの?」
『地上が肉眼で見えるくらいの高さだ。この国の綺麗な景色をぜひトモルに見て欲しいからな』
嬉しそうに言うグランに怖いと言い出せず、曖昧に笑った。
「それは、楽しみだな」
グランに促されるまま籐籠に荷物と一緒に乗り込んだ。植物で編まれた籠はしっかりとした作りで、なかは2畳ほどの広さだった。
同じ植物で作られた大きめのソファと荷物入れも設置されている。
荷物をしまっていると、籠の外からグランの声が聞こえて来た。
『トモル、声が聞こえるか?』
「うん、ちゃんと聞こえるよ。俺の声も届いてる?」
外に聞こえるよう大きな声を出すと。
『大きな声を出さなくても大丈夫だ。隣にいるくらいの声量で届くから』
「そうなの? 竜って耳がいいんだね」
うさぎみたいだと、感心しているとグランが苦笑するような声で種明かしをしてくれた。
『いや、トモルが着けているペンダントの効果だ。どれだけ離れていても、小さくても、トモルの声は拾える』
これが通信機器にもなっているってこと?
翻訳機でもあるし、このガラス玉、すごい便利アイテム過ぎない?
「本当?」
『試してみるか?』
ちょっと疑わしくなって、聞き返すとグランは面白そうに提案してくる。
それじゃあ。
「ーー今夜も一緒にお風呂はいろ?」
耳元で囁くような小さな声でガラス玉に話しかけると、籠の真上でグランの喉が鳴った。
『もちろんだ、トモル!!』
喜びと情欲を含んだ声に言葉選びを間違えたかなと後悔したけど、もう遅い。今夜のことは今夜考えよう。
「本当に聞こえてるみたいだね。ーーで、俺は椅子に座っておけばいいの?」
『あぁ。入り口の鍵はかけたか? それと窓は分かるか?』
「鍵かけたよ。窓は……」
壁の一部が扉のように開くようになっている。そのすぐそばにも一人掛けの椅子があり、座りながら地上を眺められるようだ。
「あった。窓見つけたよ。開けた方がいいの?」
『上昇するとき、風が吹き込むことがあるから今は閉めておいた方がいい。声をかけるまでそのままにしてくれ』
グランの注意に伸ばした手を引っ込める。
「了解。……もう飛ぶの?」
『あぁ。多少揺れるかもしれないから掴まっていてくれ』
グランの言葉にすぐさま壁際のソファへ移動し、手摺りにしっかりと掴まった。
「掴まったよ!」
『では行くぞ』
グランの声が聞こえたすぐあと、エレベーターに乗ったときのような浮遊感があり、飛び立ったのが分かった。
思っていたより揺れはないけど、僅かに感じる重力に手摺りを掴む手に力が入る。
グランが俺を傷つける心配はない、と自分に言い聞かせながらぎゅっと目を閉じた。
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