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本編

六夜ー8 3連泊、楽しもうね *

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にっこりといい笑顔のグランに一抹の不安を覚えながら、場所を交代し、椅子にかけた。

「髪を洗う薬液はこれでよかったか」

「うん、それだけど。髪は自分で洗うよ?」

グランの持つシャンプーボトルを取り返そうと手を伸ばしたが、取れないところへ遠ざけられてします。

「ダメだ。順番に洗い合う約束だろう?」

約束は背中を流すだけだったと思うけど。真剣なグランの顔に絆されて頷く。

「……わかった。じゃあ、お願いします」

「あぁ。トモルのように上手くできないかもしれないが、最善を尽くそう」

そんな肩に力入れなくて大丈夫だと言いかけた言葉を飲み込む。俺のために頑張ってくれることが嬉しくて。

不安と期待で始まったグランの洗髪は意外にも丁寧で心地いい。長い指で頭皮を揉み解される気持ちよさに自然と身体から力が抜けていく。

「髪洗うの上手だね」

「トモルのを真似してるだけだがな」

そう言われてみるとやり方は近いが、自分で洗うときにこんな癒されるような感じはしない。

「んー、でも、自分でするより気持ち良いよ?」

「そうなのか?」

「うん。グランの手の感触とか体温が好みなのかも」

同じようにやっても、手の大きさや温度は異なる。グランの手と相性が良いのだろう。

そう伝えると、泡のついた手が耳の後ろをすっと撫でた。

「ひゃっ」

くすぐったさに肩を竦めると、耳に吐息がかかった。

「私もトモルの手が好きだ。ーーずっと触っていて欲しいくらいに」

後半の低音に艶めいた響きを感じ、身を離しつつ手桶を取った。

「ありがとう。……グラン、そろそろ流した方がいいかも」

「流すのまでが洗髪だろう? 目を閉じてくれ」

桶を奪われてしまったので、大人しく目を閉じる。

グランの手つきは泡を流すときまで優しく、大事に扱われていることを感じさせた。

嬉しいような切ないような気持ちで任せていると、濡れた頸から背中を温かい手が這う。

ぞわりと背が震え、喉がなった。

「んっ」

「次は身体だな」

どこかうっとりとしたグランの声に今日一番の危機感を覚える。

「背中だけでいいからね?」

「トモルの望むままに」

「背中のみを望みます!」

振り返ってそう断言すると、金色の瞳が煌めいた。

「承知したーーただ、背中は洗いにくいから膝に乗ってくれ」

了承の言葉とともに伸びてきた腕に抱き上げられ、空いた椅子に腰掛けるグランの膝に向かい合わせに乗せられた。

お互い何も纏ってない下半身が嫌でも密着する。

ちょっと、これは。

「ねぇ、待って。これじゃ、背中見えなくて洗いにくいでしょ?」

「全く問題ない」

「問題しかないから」

俺の抗議を無視したグランは石鹸を素手で泡立て始める。

「ねぇ、グラン、スポンジは?」

まさかと思って訊くと、泡だった手で背中を撫でられた。

「ぁんーーっ」

「トモルは肌が柔らかいから傷つけそうで怖い」

そう嘯くグランを睨みつけると、紅い口唇が楽しそうに弧を描く。

「全然平気だから、ぁ……!」

「ほら、手で洗ってもこんなに敏感じゃないか」

背筋を辿られ、脇腹を撫でられると反論しようにもまともな言葉が出てこない。

ただ腰を揺らし、甘い声を上げながらグランの首に縋りついた。

「っ……ひゃ……んんっ、ぁ……」

「動くと手が滑る」

誰のせいで……!

意地悪なグランの言葉に首を振って抗議するが、やらしく動く手は止まらない。

腰の震えに合わせるように手が滑り、双丘を撫でた。

「やぁ……ッ!!」

「ん? どうした?」

「ぁ……そこ、背中じゃ、」

息絶え絶えに注意しながら、力の入らない手でグランの腕を掴むが。

「だが、気持ち良さそうな顔してる」

「してな、い……」

「分かった。ここはやめよう。ーー他に洗うところは?」

もう無いと答えるより先にグランの手が脇腹から上へ這い、胸の先端を掠めた。柔らかな泡に突起が触れた瞬間、痺れるような快感が足先まで駆け抜ける。

「ゃぁんっ」

強い快感に背を仰け反らせ、胸をグランに突き出すような格好になると、2つの尖りを押しつぶすように転がされ、甘く刺激される。

「ぁ、ぁ、ゃ……ん、んぁ」

グランの指の動きに絶え間なく嬌声が溢れる。

「ぅん、だめ、……グラ……ン……」

必死に首を振ると、やっと手が止まった。

「トモル」

名前を呼ぶグランの視線が下に落ちる。俺のモノはグランとの間で屹立し、露を溢しながら震えていた。

「……嫌なのか?」

触られるのが、嫌なわけじゃない。職場の規約ももう関係ない。

ただ、別れが決まっているのに受け入れてしまうのが怖いだけ。抱かれてしまえば、もっと未練が残るんじゃないかと。

でも、もう拒めるような段階じゃない。本当はこうなることが頭のどこかで分かっていた。

本気で嫌ならグランと洗いっこしようなんて約束しなかった。触られたい、抱かれたいと思う気持ちもあったから、身を任せたのだ。

相反する気持ちを伝えることさえ、今は出来ない。

「嫌じゃないから、ダメなんだって」

快感と切なさに滲む涙をこぼし、それだけ伝えた口唇を強引に塞がれた。

「んーーッ」

「嫌じゃないなら抱きたい」

熱い視線に身体の奥が火照る。何も考えず、抱かれてしまえばいっそ楽なのかもしれない。だが、全てを曝け出し、明け渡した後に残る後悔が怖くて頷けなかった。

でも、このまま熱が引くのを待つようなレベルじゃないこともわかっている。

「……触るだけ。挿れるのはなし」

「…………」

譲歩案を出したが、金色の瞳の熱は変わらない。

「グラン」

縋るように名前を呼ぶと、深く吐息のあと、目尻に口付けられた。

「……今夜は引こう。トモルに触れるだけにしておく」

「ありがとう」

ほっと安堵すると、頬に口唇が落ち甘えるように額を首筋に押し付けられる。

「キスはだめか?」

いいよ、という代わりにちゅっと音を立ててグランの口唇を塞いだ。


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