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本編
六夜ー2 3連泊、楽しもうね
しおりを挟む界渡りの間からそのまま王都へ行くのかと思っていたが、連れて来られたのはいつものグランの私室。
どうしてここに? と問うと、どうせだからこちらの衣装を着て見ないかと提案された。
グランみたいに格好良く着こなせるとはさすがに思えないけど、着てみたい。
2つ返事で頷くと、前回きた時にはなかった新しいクローゼットの前へ連れて行かれた。取っ手の周囲に白銀の竜があしらわれた豪奢なものだ。
グランが扉を開けると、中にはたくさんの服が詰まっていた。
「色々あるが、これはどうだろうか」
「それは、汚しそうで怖い、かな」
グランが出してきた服はひらひらと余分な布の多い豪奢なシャツと細かな白銀の刺繍が施されたスーツみたいなセットアップだった。
いつ、どういう目的で着るんだろう。
「もっと動きやすそうなのがいいな。……布少なめの」
「布が少なくて動きやすそうなもの……これか」
そういったグランが見せてきたのは、薄紫のベビードールにしか見えない腰丈の透けたワンピース。それと同じ生地で仕立てられたショートパンツだった。
絶対に外出用じゃない。
「ーーこれはなし。生地少なくて動きやすいかどうかはわからないけど、これ着て外行けないでしょ」
「冗談だ……」
冗談という割に残念そうなのは、俺に着て欲しいってこと? グランってこういうのが好きなのかな。男として分からなくもないけど、薄っぺらな身体の俺が着て似合うとは思えないけど。
ベビードールはクローゼットに戻され、次に手渡されたのはオフホワイトのシャツと濃紺のジャケットに同じ色のボトム。ジャケットの袖や襟元には銀糸の刺繍が入っている。
刺繍といっても派手すぎず、ワンポイント程度。これなら最初のものより気にせず着れそうだ。
「手触りのいい生地だし、袖口の刺繍がかっこいいね」
「気に入ったなら着てみてくれ」
グランに手伝ってもらいながら着替えると、腕を曲げたり伸ばしたりしがら確認する。ジャケットは見た目よりも柔軟性が高く、シャツは滑らかで肌触りが良かった。
「大きさはどうだ?」
「多分、ちょうどいいと思うけど。袖とかこんな感じでいいの? 長すぎない?」
シャツが少し長いらしく、いわゆる萌え袖になっている。
「そのようなものだ。寸法が合ってよかった」
「本当だね。これってキリノさんの服?」
サイズ的にグランのものではないだろうと思って何気なく訊くと、グランは眉をひそめた。何、その反応。
「なんか変なこと訊いた?」
「……いや。だが、なぜキリノのものだと?」
拗ねたような声の原因が分からないまま、グランの質問に答える。
「俺と背格好近いから」
「そうなのか?」
「え、うん」
身長も同じくらいだし、痩せ気味の体格も似ている。見ればわかると思うんだけど。
「キリノの体格を気にしたことがなかったから気づかなかったな」
気付かないって。
「さっき俺たち並んでたじゃん」
「……そう言われてみると、近かったような気がしてくるな」
思い出すように俺を見ながら頷くグラン。
「もしかして、俺ばっかり見てた?」
なんてね。
「当然だろう?」
ふざけた言葉に真顔で返されて、気恥ずかしくなる。
「あ、そう、なんだ」
「あぁ。ーーそろそろ出かけようと思うが、その前に渡しておきたいものがある」
「なに?」
ジャケットのポケットからグランが取り出したのは、銀鎖に大きめのガラス玉がついたペンダントだった。ガラス玉はべっこう飴にも見える透明な薄い黄褐色。
透かすときらきらと光が分散した。
「きれい……グランの瞳と同じ色だ」
俺の言葉にグランは嬉しそうに微笑んだ。
「私の魔力が籠った玉だ。これをつけていれば私たち以外とも会話ができる」
「え、ここって日本語通じるのかと思ってた」
たまに通じない単語もあるが、グランともキリノとも普通に会話できる。そういう世界なんだと思っていた。
「いや、私やキリノの一族は日本語を勉強していて話せるが、他のものはこの国独自の言葉を話している」
「そうなんだ。っていうか、俺、この国や世界のこと何も知らないのか……」
俺が知っているのは、グランから世間話に聞いた程度のこと。言語すら今初めて知ったぐらいだ。
この3連泊が最後になるから、知らなくてもいいのかもしれないけど……
「今回の滞在で色々知ってくれると嬉しい」
「うん。俺も知りたいから色々教えて。この世界や国のこと。それからグランのことも」
たくさん知って、ずっと覚えておきたいから。
グランには伝えられない気持ちを飲み込み、微笑んでエスコートするように伸ばされた手を取った。
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