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本編
六夜ー1 3連泊、楽しもうね
しおりを挟む3連泊は桜が満開に咲くある春の日に決まった。
それまでにも週に2、3度呼ばれる日が続き、2日前にも予約が入った。
風呂上がりにベッドに寝転ぶとすぐにグランに抱きしめられる。高めの体温とラベンダーの香りが心地いい。
「いよいよ明後日からだな」
「うん……すごく楽しみ」
ハンドクリームを塗った指先が俺の手を掴み、絡められた。
「もうこのまま帰らずにいるのはどうだ?」
蕩けるような甘さを含んだ金色の瞳に見つめられ、心が揺れる。
「それもいいね。ーーでも、明日は予定があるから。ごめんね」
「別の、仕事が入ってるのか?」
拗ねるような声音。
今まで俺の仕事に口を出してきたことも、ここで会っている時以外のことを聞いてきたこともほとんどないのにどうしたんだろう。
「違うよ。仕事じゃなくて友達と会う約束してるの」
本当は俺が退職後もしばらくはグランが困らないようにハーブティーやラベンダーオイル、ハンドクリームの買い出しに行こうと思っていた。
でも、退職することは、グランの前から消えることはまだ内緒だから。
「そうか。残念だ……」
なんてしょんぼりした声で言う。
「すぐ来るよ。それに明後日から3日間はずっと一緒だから」
待ってて、と耳元で囁くと繋いだ手を引き寄せられ、グランはキスをするように口元へ持っていった。
「約束だ」
「うん……」
◇◇◇
最後の待ち合わせに神妙な顔で現れたキリノさんに気づかない振りで明るく振る舞い、早く行きましょうと促す。何か言いたげに口を開いていたけど、諦めたように長いため息をつかれた。
誰に何を言われても、俺の決意が揺らぐことはない。
いつもは誰もいない界渡りの間へ出るとすぐに手を引かれ、ぎゅっと抱きしめられた。
「トモル」
「え、グラン?」
驚いて顔を上げると、金色の瞳と目が合う。
「ここで待っててくれたの?」
いつもは部屋で待ってるのに。
何かあったのかと聞くと、罰が悪そうに首を振られた。
「あ、あぁ……待ちきれず、つい」
「ありがと。ーー今日はいつもと違う洋服なんだね」
いつもはラフな部屋着のグランだが、今日は濃紺のジャケットの中にボトムと揃いの黒いウェストコートを着て、白いシャツには光沢があり、品質の良さがわかった。首元はネクタイではなく、ヒラヒラとしたクラバットに飾られている。
2日前に丁寧に洗い上げた銀髪は緩く編まれ、肩から垂らされていた。
どこかの貴族のような装いは、グランにとても似合っていて見惚れるぐらいにかっこいい。
「すごく似合っててかっこいいよ」
「これは外出用だが、気に入ってもらえて良かった」
「外出用ってことはお出掛けするの?」
てっきりグランの私室やせいぜいお城の中くらいで過ごすのかと思っていたけど。
「王都の視察に付き合ってくれ」
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