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本編

幕間 3.5

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「キリノさん!」

駅前を歩いてくる見慣れた姿に駆け寄った。

「トモルさん、お待たせしました。今夜も陛下がお世話になります」

優美な微笑みにいつもなら笑い返すところだが、今日はそれどころじゃない。

「キリノさん!すみません、忙しいのに」

「いえ、私の方はだいぶ落ち着きましたから。早めに来て欲しい、とのことでしたが何かお話でも?」

「ちょっとここでは話しづらいので異世界に行ってからでもいいですか?」

駅前の雑踏の中、立ち話でするような内容じゃない。
さっさと異世界の、キリノさんが管理してるらしい界渡りの間ででも話をさせて欲しかった。

「大丈夫ですけど、陛下にはトモルさんが来たことすぐにバレますよ?」

どうして?! 
あの部屋、結構離れてるのに。

「それは、ちょっと気まずいのでーー前行ったファミレスでいいですか?」

「そうしましょう。私もあらぬ疑いを掛けられたくはないので」

あらぬ疑いって?といつもなら突っ込んで聞くところだけど、本当に今日は些細なことを気にかける余裕がない。

キリノさんを引き摺るように入ったファミレスは、時間が中途半端なせいか空いている。

案内されたテーブルにつき、ドリンクバーを頼むと足早にコーヒーを2つ入れて戻ると、キリノさんの方から話を切り出された。

「それでお話というのは、陛下のこと、ですよね?」

「そうです。前回、ちょっとトラブってしまって。一昨日会った時に一緒にお風呂に入ったんですけど……その後にその、ベッドで」

「お2人が結ばれた、というお話ですか?」

言いにくそうにしていた俺に気付いたのか、キリノさんは察してくれた。
それにしても表現が詩的だ。

「結ばれて、ません……俺が断ったので」

「断った……あぁ、そういったことはしない既約でしたね」

ひつじ屋の注意事項を思い出したのか、キリノさんは一人で納得した。

「明確に求められたわけじゃないんですけど……したいのかと訊いたら、してもいいのかって聞き返されて」

「……それで、どう返されたんですか」

「サービスが可能なお店を紹介する決まりになっているので」

俺の答えにキリノさんは深い深い溜め息をついた。

「それを陛下に伝えられた、と」

「はい。そしたら、必要ないって怒らせてしまってめちゃくちゃ気まずい雰囲気になっちゃったんですよ!!」

「……」

「きっと溜まってたところに手近に俺がいたから手を出そうとしたんだと思うんですよ。で、上手く断われば良かったんですけど初めてのことで慣れてなくて……」

まさか俺相手にえっちなサービス求められると思わなかったんだと言うとキリノさんに不思議そうな顔で確認された。

「トモルさんはその、誘われることはないんですか?」

「ないです。皆無です。ーーていうか、俺、添い寝することも少ないですし」

「え?」

「添い寝屋にあるまじき話なんですけど、話し相手やマッサージ師として呼ばれることが多いんですよ……」

自分で言ってて悲しくなってきた。

「なるほど。ーーだから、陛下に誘われて動揺されたということですか」

「そうです。ーー正直、触りっこぐらいなら良いかなと思うんですけど、あの時のグランはなんていうかマルっと食べられそうというか」

あの時のグランの目を思い出して、居た堪れなくなる。

「まるっと……最後までされそうだったということですね」

「そうです」

「実際、どこまでなら大丈夫なんですか?」

キリノさんの問いにバツを出す。

「全部ダメですよ、店的には」

「トモルさん的には?」

「……グラン限定ですけど、手で抜くぐらいなら……口でするのは、まだちょっと」

「凄く生々しい回答ですね」

「今の素直な気持ちです。実際にそうなったら変わるかもしれませんけど」

経験がないからわからない。

「では、今後そういう雰囲気になった時は今のように正直に話されてはどうでしょうか」

キリノさんの提案に想像してみる。もし、またグランにあの目で迫られたらーー

「手で抜くね!って言えと?」

俺にそんなこと言われてグラン、喜ぶかな?
萎えそうだけど。萎えるならそれはそれでいいのか。
納得しかけたが、キリノさんにダメ出しをされた。

「そこはもう少し情緒を考えてください」

情緒、情緒かぁ。
AVの知識しかないんだけど。

「グランのおっきいの触りたいな、とか?」

可愛い子がいうなら嬉しいだろうけど。

「そんなこと言ったら、最後まで食べられて孕みますよ」

「キリノさんでもそういう冗談いうんですね」

「いえ、冗談では」

「情緒かぁ……て、そもそもダメなんですって」

性的なサービスはダメだよって店長に厳命されている。詳しく知らないけど、法律に引っ掛かるらしいし。

「お店的には、でしょう? バレなければいいのでは?」

校則も破ったことありません、みたいなキリノさんがそんなこと言うなんて。

「えぇ……ていうか、グランに溜め込まないよう言ってくださいよ」

「私から定期的に処理してくださいと言えと?」

「俺と会う前に出しといて、とか」

そしたらグランだって俺相手に血迷ったりしないだろうと頼んだが。

「ご自分でおっしゃってください」

冷たくあしらわれてしまった。
上司相手にそんなこと言えないよね。すみません。

「グランって国王ですよね? 夜伽役とかいないんですか?」

「あなた以外、陛下の私室に入れるものはいませんよ」

「そういえば、そんなことを聞いたような。掃除とかどうしてるんですか?」

「ご自身でされますよ」

「箒とちりとりで?」

三角巾とエプロンつけて掃除をするグランを想像して微妙な気持ちになった。

「面白いご想像ですが、残念ながら魔法で、です」

それはそれで見てみたいかも。

「さて、そろそろ行きましょう。陛下がもう待てないようです」

「はい……」

仕方ない、腹を括るか。

「大丈夫です。少なくとも今回は色っぽい雰囲気にはなりませんよ」

「え?」

キリノさんの言葉の意味をグランに会ってすぐに理解したーー



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