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本編
初夜ー4 初めまして、添い寝屋です
しおりを挟む翌朝。朝日に目を覚ますと、グランが隣で頭を抱えて項垂れていた。
何してるんだろ?
ふかふかで気持ちのいいベッドに身体を沈めたまま声を掛ける。
「おはよ?」
「………おはよう」
グランはボサボサの髪で膝に埋めた顔を上げないまま、か細い声で返して来た。
もし次回があればシャンプーしてあげよう。トリートメントをしっかりすればきっと艶やかな髪になるはず。
そんなことを考えながらしばらく見守っていた。時々小さく唸る声に昨日肩を揉んでいた時のことを思い出した。凝りが酷かったし、頭痛がするのかもしれない。
「あたま、痛いの?」
「いや……」
「どっか痛い?」
「いや、よく寝たなと……」
「うん。ぐっすり寝てたね」
昨日のことを思い出しながら同意すると、グランはとんでもないことを言い出した。
「……………何か盛ったのか?」
え、何それ。
「薬ってこと? まさか。安眠効果のあるお茶しか飲んでないでしょ。それも1口だけ」
「匂いに何か」
匂いって蒸しタオルのラベンダーのアロマスプレーとハーブティーのことか。
あんなに褒めてたくせに毒を盛ったと?
「はあ? ただのアロマスプレー……植物の油といい香りのする植物から作ったお茶だよ」
「本当に……?」
ちらりと眉を顰めたグランがこちらを見る。
「本当だよ。どうやって証明しろと? 残ってるやつを俺が飲めばいい?」
「残っているのか」
「飲んでたら寝落ちしそうだったから受け取ってそこに置いといたよ」
テーブルの上のマグカップを示すと、グランはベッドから抜け出し、マグカップを取って手を翳していた。
手から光が出ているように見える。
寝転んだままグランの様子を眺めていると、マグカップを持ったまま戻って来てベッドの端に腰掛けた。
寝返りをうって近付くと、グランがマグカップに残ったお茶を飲んでいる。
「どう? 毒入ってた?」
わざとらしく訊くと、グランは気まずそうな顔で首を振った。
「ただの香りのいい茶だった……冷めてもうまいな」
「どうやって確認したの?」
「毒の検知魔法だ」
そういってグランは見やすいように俺にマグカップを近づけ、さっきみたいに手を翳す。近くで見ると、ほのかにお茶が緑色に光っているのが見えた。
「おぉ。異世界っぽい」
「この光が青だと無害、緑だと体に良い、赤だと毒が含まれている」
「すごい!」
感心しながらカップを見ていると、グランは申し訳なさそうに謝ってきた。
「疑って、悪かった」
「いいけど、どうせなら飲む前に確認しなよ」
「返す言葉がない。……言い訳するわけじゃないが、毒や薬に耐性があるから確認する習慣がないんだ」
「効かないならなんで疑ったの?」
「異世界の毒や薬ならあるいは、と」
そんなことを朝っぱらから頭抱えて考えていたのか。
「なるほどねー。アロマスプレーも確認する?」
「あろ……すぷ?」
「さっき話してた植物から作った精油……匂いのする、油?を薄めたやつ。肩揉むときに温めた布を目の上に置いたの記憶にある? あれに少しだけ振り掛けてたんだ」
言いながら怠い身体を起こし、持ってきたカバンからスプレーボトルを取り出してグランに渡した。
グランは検知魔法を使うことなく、匂いを嗅いでいる。
それじゃあ、ほとんど香らないんだけど。
キャップを外して、空中に向けて噴霧してみせた。
「ここを押して中身を噴射しないと匂わないよ。毒の確認はしないの?」
「確認は大丈夫だがーーこれと茶葉を売ってもらうことは出来るか?」
茶葉はいいけど、アロマオイルは……
スプレーボトルの予備はあるけど、ラベンダーオイル自体はあまりがない。今夜も他のお客さんの予約が入れば使うだろうし、ないと適切なサービスが出来なくなる。
「お茶は販売してるからいいけど、スプレーはそれしか持ってないし、正式に販売してないから難しいかな」
「そうか……」
やんわり断ると、グランは残念そうな顔でボトルを返してきた。
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