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本編
プロローグ
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プロローグ
「ご利用ありがとうございます。添い寝サービスひつじ屋のトモルです。本日はよろしくお願いします」
「トモルか。私はグラン。この国の王だ。ーー今夜はよろしく頼む」
◇◇◇
3年勤めたブラック企業を辞めて半年。
俺ーー深井 朋琉ーーは添い寝サービスひつじ屋でキャストのバイトをしていた。
可愛い女の子やイケメン陽キャに需要が偏りそうな仕事だが、俺みたいな平凡顔でもそれなりに依頼が入る。
店長からの電話に出ると、いつものおっとりとした声が聞こえてきた。
『新規のお客様なんだけど、マッサージの上手い人をご希望でねぇ。トモルくん、入ってもらってもいいかい?』
「大丈夫です。待ち合わせはどこですか?」
『ありがとう。篠の桜駅の中央口。詳しくはアプリに送るから確認して』
「了解です」
電話を切り、店の専用SNSを立ち上げると、店長からメッセージが入っていた。
『依頼主:グラン様(男性) プラン内容:お泊りコース(強い希望。性的サービスはしないこと確認済み) キャストへの要望:秘密を守れること、マッサージが上手いこと キャストの性別:不問 待合せ場所……』
新規でお泊りコースね。
大抵はお昼寝コースで体験をしてもらってお泊まりコースを案内する流れだ。
それに秘密を守れることを態々書くっていうのは引っかかる。
こんな商売なので守秘義務は当然だ。店のホームページにも目につきやすいところに記載がある。
それでも書くってことは、よっぽどの訳ありとしか思えない。
厄介なお客さんかな、と引き受けたことを少し後悔した。会ってみないことには分からないけど……
約束の時間までに仕事道具を揃え、大きなカバンを持って待合せ場所の駅へ向かう。
帰宅ラッシュを過ぎた時間帯だったが、それでも人が多い。
相手は、黒いコートに赤いカバン、と。
頭の中でお客さんの姿を想像しつつ探していると、背後から「トモルさんですか?」と声がかかった。
振り向くと、細身で小柄な男性がにこやかな笑顔で立っている。
グラン、というかっこいい名前のイメージとは違って、可愛らしい顔立ちの青年だった。
「はい、ひつじ屋のトモルです。あなたがグランさんですか」
「いえ、グランは私の主です。私は代理のキリノと申します」
主、というのは雇用主ということ?
聞きなれない単語に面食らっていると、キリノと名乗る青年は周囲に目をやった。
「立ち話もなんですから、そちらのファミレスでお話させて頂けませんか」
キリノの視線の先には、大手チェーン店のファミレスがあった。ある程度の人が居て、賑やかな場所の方が都合がいいということか。
すんなりグランと対面といかないらしい。
ファミレスには運よく空席があり、すんなりと席に案内された俺たちはドリンクバーだけを頼んだ。
代理とはいえお客さんであるキリノに席を立たせるのも悪いと2人分のコーヒーを運び、キリノの向かいに腰掛ける。
キリノはコーヒーのお礼をいうと、一口啜り、話を切り出した。
「トモルさんは異世界ものライトノベルや漫画は読まれますか」
意外な言葉に驚いたが、グラン様と趣味の話が可能かどうか確認されているのかもしれないと話を合わせる。
「異世界の話ですか。ネット小説で読んだことありますよ。面白いですよね」
そう答えると、キリノの顔がパッと明るくなった。
「良かった。それなら話が早いです。ーートモルさん、異世界で添い寝をしてもらえませんか?」
「は?」
「ご利用ありがとうございます。添い寝サービスひつじ屋のトモルです。本日はよろしくお願いします」
「トモルか。私はグラン。この国の王だ。ーー今夜はよろしく頼む」
◇◇◇
3年勤めたブラック企業を辞めて半年。
俺ーー深井 朋琉ーーは添い寝サービスひつじ屋でキャストのバイトをしていた。
可愛い女の子やイケメン陽キャに需要が偏りそうな仕事だが、俺みたいな平凡顔でもそれなりに依頼が入る。
店長からの電話に出ると、いつものおっとりとした声が聞こえてきた。
『新規のお客様なんだけど、マッサージの上手い人をご希望でねぇ。トモルくん、入ってもらってもいいかい?』
「大丈夫です。待ち合わせはどこですか?」
『ありがとう。篠の桜駅の中央口。詳しくはアプリに送るから確認して』
「了解です」
電話を切り、店の専用SNSを立ち上げると、店長からメッセージが入っていた。
『依頼主:グラン様(男性) プラン内容:お泊りコース(強い希望。性的サービスはしないこと確認済み) キャストへの要望:秘密を守れること、マッサージが上手いこと キャストの性別:不問 待合せ場所……』
新規でお泊りコースね。
大抵はお昼寝コースで体験をしてもらってお泊まりコースを案内する流れだ。
それに秘密を守れることを態々書くっていうのは引っかかる。
こんな商売なので守秘義務は当然だ。店のホームページにも目につきやすいところに記載がある。
それでも書くってことは、よっぽどの訳ありとしか思えない。
厄介なお客さんかな、と引き受けたことを少し後悔した。会ってみないことには分からないけど……
約束の時間までに仕事道具を揃え、大きなカバンを持って待合せ場所の駅へ向かう。
帰宅ラッシュを過ぎた時間帯だったが、それでも人が多い。
相手は、黒いコートに赤いカバン、と。
頭の中でお客さんの姿を想像しつつ探していると、背後から「トモルさんですか?」と声がかかった。
振り向くと、細身で小柄な男性がにこやかな笑顔で立っている。
グラン、というかっこいい名前のイメージとは違って、可愛らしい顔立ちの青年だった。
「はい、ひつじ屋のトモルです。あなたがグランさんですか」
「いえ、グランは私の主です。私は代理のキリノと申します」
主、というのは雇用主ということ?
聞きなれない単語に面食らっていると、キリノと名乗る青年は周囲に目をやった。
「立ち話もなんですから、そちらのファミレスでお話させて頂けませんか」
キリノの視線の先には、大手チェーン店のファミレスがあった。ある程度の人が居て、賑やかな場所の方が都合がいいということか。
すんなりグランと対面といかないらしい。
ファミレスには運よく空席があり、すんなりと席に案内された俺たちはドリンクバーだけを頼んだ。
代理とはいえお客さんであるキリノに席を立たせるのも悪いと2人分のコーヒーを運び、キリノの向かいに腰掛ける。
キリノはコーヒーのお礼をいうと、一口啜り、話を切り出した。
「トモルさんは異世界ものライトノベルや漫画は読まれますか」
意外な言葉に驚いたが、グラン様と趣味の話が可能かどうか確認されているのかもしれないと話を合わせる。
「異世界の話ですか。ネット小説で読んだことありますよ。面白いですよね」
そう答えると、キリノの顔がパッと明るくなった。
「良かった。それなら話が早いです。ーートモルさん、異世界で添い寝をしてもらえませんか?」
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