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14.お子様ランチ 改 魔王様プレート

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土下座に始まった朝から数日。私室の外では普通に振る舞うフォルティスだったが、俺が部屋に戻るとすぐに抱きついて来るようになった。

べったりと張りつくフォルティスを引き摺るようにして部屋着に着替え、食事を並べ、トイレは悲しそうな目で見送られ、終われば速攻貼りつかれ……もちろん、夜は抱きつかれたまま眠った。
赤ちゃん返りしちゃったのか?

そんな状態のため、フォルティスの一番好きなものを作ろう計画は延期になった。はりつかれたままで料理なんて危険過ぎる。

そのことを伝えると、フォルティスはしばらく考え込んでいたが、うん、力強く頷いて同意してくれた。
代わりに俺の知ってるかぎりの好物を作ることにした。

今夜のメニューはーーお子様ランチだ。

厨房の片隅で朝から隙をみて準備を重ねた料理の仕上げにかかる。
今回は、唐揚げ、ハンバーグ、ハッシュドポテト、海老フライ、チキンライス、ナポリタン、ポテトサラダ、エビチリと付け合わせのレタスサラダ、そしてデザートはプリンだ。
エビチリはお子様ランチには入らない料理だけど、フォルティスが大好きなメニューだから入れてみた。

大きめのお皿にキレイに盛り付け、最後にチキンライスの上に旗を立てる。
魔王城の旗を再現したかったが、模様が複雑過ぎたのでフォルティスと俺の似顔絵をデフォルメして描いてみた。
可愛すぎるかな。フォルティスはいま赤ちゃん返り中だからいいか。
トレーに乗せて食堂の夕食用コーンポタージュも分けてもらう。
出来映えに満足し、鼻歌まじりに振り返るとガンツが立っていた。
お子様ランチをじっと見て呆れたように笑う。

「朝からちょこまか動いてると思ったら、なんつー手の込んだものを作ってんだ」

「いいだろ、今夜は特別だよ」

「あんまり甘やかしてっと部屋から出してもらえなくなっちまうぞ」

どんな駄々っ子だと思ったけど、保育園にもいたなぁ。保育園をヤダヤダ言ってママから離れない子。
フォルティスも甘やかすとあの状態になるのか?! 
シュール過ぎるだろう、魔王様。
まさか、な。

「そんなわけないだろ。冷めるからもう行く。お疲れ様です」

「おう、お疲れさん」

冗談を言うガンツに辞去の挨拶をして厨房を出た。





扉の前で名前を名乗ると、自動で開く。見た目は普通の扉なのに開閉は全自動なのだ。
この仕様はこの部屋と魔王執務室のみらしいので、防犯の関係だろう。

「ただいま。フォルティス様、夕ご飯ですよー」

おかえり、という言葉とともにフォルティスの腕が腰に回った。

「ストップ、ストップ。今日は結構重いし、形が崩れやすいから置くまで待って」

「……わかった」

たった数歩がそんなに嫌なのか不満げな表情で離れてくれた。
俺は内心ため息をつきながらも、手早くテーブルに置き、両手を広げる。

「おいで」

と言うたった3文字を言い終わらないうちにフォルティスが腕の中に飛び込んできた。

「伊織」

肩口に顔を埋め、甘えるように首筋にキスをされる。
マーキングみたいだな。
しばらくすると気が済んだのか、お子様ランチの匂いに誘われたのかハグを解き、ソファに腰掛けた。
お子様ランチをじっとみながら

「今日は、ずいぶん豪華だな。ハンバーグと唐揚げと海老フライって一緒に食べてもいいんだな?!」

「魔王様ですから」

「エビチリも入ってる。魔王というのは、私が思っているよりすごい存在なのか」

フォルティスは難しい顔をして頷いた。
お子様ランチは魔王様特権になりそうだな。
魔王様ランチ、いやランチじゃないから魔王様プレートか?

「そうですよ。魔王様は凄くて偉いんです。この料理は、魔王様プレートです。なんとコーンポタージュとプリン付き」

「最高だな」

「ん? このチキンライスに立っているのは旗か?」

「フォルティス様と俺の似顔絵描いてみました」

「すごく可愛いな。なら、私はこっちだな」

と言ってなぜか俺の似顔絵が描かれた方を持ち、自分のと入れ替えた。

「そっちがいいの?」

「伊織の方を食べたいと思って。この旗、後でもらってもいいか?」

「いいですけど、どうするんです?」

「とっておきたいんだ。初めて食べた記念に」

「いつでも作るのに」

「初めては大事にしたい派なんだ」

何だそれとは思うけど、そこまで喜んでもらえて正直、嬉しい。

「また作りますよ」

「コレクションが増えるな」

そう言ってフォルティスは嬉しそうにエビチリを頬張った。


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