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5-3.

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 次の日、朝食の広間に行くと、智彗様と瑞凪様がすでに座っていて、私を見るなり、智彗様が手を振って同じ円卓に呼んだ。


 笑顔で挨拶を交わす私たちを見て、瑞凪様が「···ほう」と呟く。


「···男の嫉妬はみっともないと白状したのか。」


 すると智彗様が赤い顔で瑞凪様をバシバシと叩き、その振動で瑞凪様の眼鏡がずれた。
 

 やっぱり私に嫉妬してたんだ、智彗様。



「そういえば瀬里、宇汾さんが、村に生えている薬草で、万能薬を作ることに成功したそうなんですよ!」

「え?!本当?!凄いね!!」


 村に生えているならせっかくだからと、あの時智彗様は宇汾さんに、万能薬の作り方も教えていたのだ。

 その万能薬で、皆のアザと喉の痛みを抑えたのはもちろんのこと、腹痛や頭痛といった風の症状も抑えることに成功したとのことだった。


「それで宇汾さんは、その万能薬を売るため、しばらく隣国を旅するそうなんです。」

「···そういえば商人の恰好をした男が一人、手形の発行手続きに来ていたな。」

「あれが宇汾さんですよ!」

「···は?とても最初に見た時とは違う姿をしていたが。」


 宇汾さんは商人として旅をするために、新しく服を新調し、無精髭も剃って見た目を小奇麗にしたのだとか。


 本の知識のお陰で、新しい商売にも繋げることができるなんて、"知の聖地"への大きな第一歩を踏み出せた気がする。



 それから日は経ち、書庫の整理は滞りなく行われ、と同時に景郷国から来た兵士さんたちによる宮廷の修繕作業も行われた。

 あの馬車や志成さんの風貌から、もっと怖い人たちが来ると思っていたら、以外にもフランクに話せるような人たちばかりだった。


「あれだけ男手があれば、この書庫内の配置変えもすぐに終わりそうだなあ。ちょっと頼んでみよっかな。」

「···あなたは本当に肝が据わっている。いや、ちゃっかりしていると言った方がいいのだろうか?」


 本のジャンル分けの作業中、瑞凪様に嫌味を言われるも、私は「相手が大国だろうと対等に、むしろ優位に立っていかないと!」と軽く返しておいた。

 すると瑞凪様が私に初めての笑顔を見せてくれた。


「はは···あなたは頼もしい女性だ。やはり側室候補よりも正室候補のが似合っている。」

「えっ」


 さすがにイケメンにそんなことを言われると照れてしまう。なんだか恥ずかしくなった私は、違う話題を振ることにした。


「あ、そ、そうだ!棚の数を増やしたいんだけど、棚って作れるのかな。」

「···書棚のことか?書棚くらいなら大工の力を借りずとも作れるかもしれない。···確か木工技術の書に書いてあったと思うが、」


 と瑞凪様と2人で建築や木工技術の本を見ている時だった。


 
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