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3-5.

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「じゃ、じゃあ、村の人たちはもしかして生でこれを食べたってこと?!」


 私たちはその和装本を手に、宇汾さんの待っている客人の間に向かうと、芳逗という山菜のことを尋ねた。


「へえ、確かにあの山菜は、皆生でも食べていましただ。ただオラは生の山菜の味がどうも苦手で···。火を通してしか食べたことないんですだ。」

「ああ、それであなたには症状がないのですね。」


 芳逗は西の村では、最近沢山取れるようになったらしく、枯れさせるのも勿体ないから摘んだそばから食べる人も多いのだとか。

 その和装本には、もし芳逗など、毒性のある山菜を生で食べてしまった場合の対処方も記されており、とにかく大量の水を飲み、体内から毒素を排出することが重要だとのことだった。


「あと安静も大事ですよ!」


 智彗様が和装本を見せると、「へあ~」と感心したような声を上げた宇汾さん。


「書物で原因と対処方がわかるなんてすごいんだべな~!さすが宮廷の書物だべ!」


 字が読めるのか読めないのか、宇汾さんがペラペラと和装本をめくっていると、ある挿絵を指差していった。


「あ!オラの村にこの草、生えてますだ!!これも食べれる山菜だべか?!!」

「···いや、それは山菜ではなく薬草だ。薬を作るための草で···って、これ、万能薬を作るのに必要な薬草じゃないか?」


 宇汾さんが自分の村に生えているといった薬草は、智彗様が薬草学の本で見つけていた万能薬を作るための珍しい薬草だった。


「···ありがとうございましただ。これで村の皆の病を治せます。」


 客人の間の扉の前で深々と頭を下げる宇汾さんが、智彗様を見て言った。


「瑞凪様の弟様はたいそうしっかりなすってることで、これで幌天安の未来も安泰だべな。」

「は、はは。」


 苦笑いをする智彗様。瑞凪様が軽く咳払いをする。


「ところで、そちらのお方は瑞凪様の婚約者だべですか??」

「「···は?」」


 宇汾さんの真っ直ぐな目が私を捉えており、瑞凪様と2人で思わず顔を見合わせた。

 ···そうだ、小さくなった智彗様だけじゃなく、私こそこの世界ではかなり不思議な存在だ。自分はどんなポジションになるのだろう、と目を泳がせていると、


「いえ、随分と親しくされてましたから、御正室さん候補かと、あ!も、もしや側室さんだったべか?!」

「···い、いや」

「オラとしたことが!!申しわげねえです!!」


 瑞凪様の返答も待たず、勝手に宇汾さんがまとめ上げてしまった。病の対処法がわかって安心したからなのか、謁見の間に居た時よりも随分と饒舌に思える。

 従者とか侍女とかそんなことを考えていた私の予想を遥かに裏切ってくれた。

 
「あ!智彗様に素敵な御正室さんが見つかりますように。」
 

 扉を開けて、こちらに向き直った宇汾さんが、拝むようにして私たちにそう告げた。


 宇汾さんが帰ったその日の夜、宮廷内では芳逗パーティーが行われたが、智彗様はなぜか始終ふてくされた顔をしていた。

 でもそのふてくされた顔も可愛くて可愛くて♡私は始終ニヤケ顔が止まらなかった。


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