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8-4.
しおりを挟む「いや考えてるに決まってるよね。」
ホテルの最上階のレストラン。親を交えた会食の席で、目の前に座る心陽君が私に言った。
「は?」
「いやだから、これから朱南ちゃんのこと何て呼べばいいかなって話だよ。僕は"お姉ちゃん"かなって考えてるんだけど、"お姉様"のが良かった?」
学生時代はどうしようもない格好ばかりしていたのに、今日はスーツを着てビシッと決めている心陽君。しかもスーツの中は原色カラーの青いタートルネックとか着ちゃって、シャツじゃないところが妙にこなれ感を出していた。
「いや2人が仲良くてよかったよ。お互い職場が違うし会う機会は少ないかもしれないが。」
「ほんと、ママ、こんな可愛い子が息子になるだなんて幸せだわあ。」
パパに、心陽君が弟になると言われた時、私は全力で拒否はできなかった。
無理に男子校に入学させられたとはいえ、大学まで行って中退してしまったのだ。これ以上我儘は言えないし、それに心陽君は私に執着していたとしても、変態性癖があるわけじゃない。ただ男の穴も掘れるというだけだ。
仕方なく彼を養子に迎えることを受け入れてしまった。
会食が終わり、ホテルのロビーまで来る途中、心陽君が私に小声で話し掛けてきた。
「朱南ちゃんが結婚する気がなくてよかった。」
「え?な、何で?」
「結婚されたら僕が養子にきた意味なくなっちゃうじゃん。」
ふっと見せる笑顔には、以前には感じられなかった色気が含まれている。
「なんか心陽君、大人っぽくなったね。」
"色っぽくなった"と口にすれば、確実につけあがるだろうと"大人っぽい"で濁した。でも彼は、私の口から"色気"の二文字を出そうとしているのか、無遠慮に攻め入る。
「もう逃がさない。覚悟しとけよ。」
耳元に彼の吐息がかかり、一気に体温が上昇する。ポストチャラ男だと思っていた男は、チャラ男よりももっとタチが悪そうな男に豹変していた。
私は何度も自分に言い聞かせた。彼は駄目だ。今だって周りに、心陽君に釘付けな御婦人やスタッフたちがあちこちにいるのがわかる。
彼は駄目だ、私が苦労するタイプだ。それに穴さえあれば何でもいい動物だ。
大体私が心陽君の姉になっただけでも高梨先生に殴られるかもしれないのに、どうこうなってしまったら殺されるかもしれない。
「これからよろしくね、お姉ちゃん。」
私の肩に置く手がやたらでかく感じた。
彼は本当に斎藤心陽を改名し、一色心陽になってしまった。
それからはバタバタと、心陽君の引っ越しが片付いて、その日の夜は家でバアヤたちが振る舞ってくれたディナーを食べた。
家族4人揃ってご飯を食べる機会はそれっきり。
お互い仕事が忙しい日々が続いた。
それでも心陽君が早めに仕事が終わった日は、私の帰りを起きて待っていてくれることもあったし、たまに心陽君が休みの日は、私を車で職場まで送り迎えしてくれることもあった。
下心は見え隠れする程度には感じたけど、基本よくできた弟で、私の生活をつつがなくサポートしてくれている。
「朱南ちゃん、働き過ぎじゃない?連休とかないの?」
「ないね、夏までは。」
「え?お盆休みあるの?あるなら一緒に旅行行こうよ!」
「え?連休くらい家でゆっくりとBL漫画眺めさせてよ。」
「でた腐女子!まさか僕のお姉ちゃんともあろう人がそっちの人だったなんてっ!」
心陽君とは本当に家族みたいに気の許せる間柄になっていて、私がBL好きだってこともオープンにしていた。心陽君には「ありえない」とよく言われるが、BLを実演していたご本人には言われたくない。
もうあの狼贅学園でのことは夢のようだ。
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