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4-4.
しおりを挟む「朱南、何飲む?ジンジャーエール?デカビタC?」
とてもさっきまで泣いていた男とは思えない。大変嬉しそうな顔でいそいそとジュースとお菓子を用意している。
「朱南が好きな"たけのこの里"買っといたんだ。ほら見ろよ。」
小さな冷蔵庫の扉を開けて、私に「見て見て」と潤んだ瞳で見つめてくる。
面倒だから冷蔵庫から出して見せろよと思っていたら、なんと冷蔵庫から出せない理由があったのだ。
中を覗くと、そこには大量の"たけのこの里"が···。6段の山が7つ。見事、冷蔵庫には里ができていた。
そのうち山脈ができそうだ。
「い、いくらなんでも買いすぎじゃない?!」
「だって朱南これ好きだって言ってただろ?」
「ま、まあそうだけど···」
前世の母を思い出す。
母がたまたま買ってきてくれた焼きプリン。美味しくて美味しくて、「またこれ買ってきてね!」と言ったら、次の日には焼きプリンが3つも用意されていた。
そんな母の心温まるエピソードを根底からくつがえす琉生。
「そういえば秋人の部屋には"きのこの山"があったな···。」
私が思い出したようにポツリと呟けば、琉生が真っ青な顔面で手足を震わせ、何か悪魔めいたものが取り憑いたかと思うほどのシャガレ声を上げた。
「な"····しゅ、秋人の部屋に入ったのか···?!」
「え?う、うん···だからさっき着替えを取りに行ったって、」
「うわああああ"あ"あ"ァァァァ」
いきなり奇声を放ったかと思えば、膝を床につき頭を抱え崩れ落ちる琉生。
「え?!ど、どうしたの琉生ッ?!持病のしゃくが出たの??!」
「ダメだああぁぁ俺はやっぱりダメなんだ捨てられるんだぁああ」
「ッは??い、いきなり何の話?!!」
私はとりあえず琉生の前にしゃがみ、琉生の背中を何度かさすった。
パニックに陥る琉生を15分ほどさすり続けたところで、ようやく震えが落ち着いてきた。
すると、エサを食べようと必死にパクパクする池の鯉に酷似する琉生が、私を見て死人のような掠れ声を出す。
「き、今日、しゅ秋人と2人で子作りする気だったんだろー····」
「······は。」
「だだだから朱南、今日そんなにおしゃれしてんだ····。やたら可愛くしてさー···」
え?····今なんと?
"子作り"って言った??
「それ、子作りに励もうとする時の求愛行動的な意思表示だろー···?」
私はクジャクか何かか。
「な、何馬鹿なこと言ってんの?!!そんなワケないじゃん!!はあっ?!」
「じゃあ今日そんなにオシャレしてんのって何でなの·····ねえ何でなの····!」
糞ウゼー····
さっきまで嬉しそうに私にたけのこの里を見せてたのに、どうしたらそんな簡単にスイッチ切り替えられるの?あんたの無気力スイッチどこにあるの?!
こうなったら女の武器を使わせてもらうしかない。私だって女だってとこ見せてやる。
「な何でもないよ!てか私だって一応女だしさ···た、たまにはこういう格好したっていいじゃん!·····ダメ??」
可愛く上目遣いで「ダメ?」とお願いしてみた。ぶりっ子キャラの芸能人や心陽は幾度となくこの上目遣いで男たちを落としている。
これで上手く琉生のスイッチを切り替えさせることができるはず!キュンってさせてやるわよ琉生!
「ねえ朱南····、秋人と俺、どっちが好き?
ねえ、どっちが好き?!ねえねえ?!?」
変わらず、どんよりと曇った顔色で私に問い詰める琉生。ゾンビ臭が凄い。
信頼も実績もない女の武器は2秒でこの世を去った。
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