18 / 34
case4. 略奪◇9
しおりを挟む「.....いやだ、やだよエルミーユ。どうか僕のために目を覚まして.....。」
「エルミーユ.....悪かった、どうしてもあんたの抗おうとする姿に自分の憎悪が抑えられない。どうか、どうか目を覚まして.....!」
仕事以外の時間は必ず2人はエルミーユの傍にいた。
彼女の胸に耳を当て数分置きに鼓動を確認するアーチ。そして彼女の黒い髪を何度も撫で自分の過ちを悔やむアーサ。
これまで強く歯向かうばかりだったエルミーユが初めて彼らに見せた脆弱な姿。
エルミーユが目を覚ましたのはそれからさらに3日後のことだった。
──────────........
「エルミーユ!!!」
自分の名前を呼ぶ男の声。
その声の主がインハルトではないと分かるとエルミーユの瞳は再び恐怖の色に染まっていく。
しかし彼は何故か今自分の手を握り、優しい手つきで自分の頭を撫でている。
自分の知る彼ではない。
「........だ、だれ?」
「......俺は、アーサだよ、エルミーユ。」
「...........」
何故彼が病人を扱うかのように自分に触れているのかは分からない。
しかしやはり現実からは逃れられないのだと思うとエルミーユはアーサから顔を反らし再び天井を見つめる。
今まで反抗していたがきっと彼らの前で自分の感情を露にするのは無意味だ。それなら何の感情も持たずにいるのが一番楽に違いない。
エルミーユがそう胸に誓いかけた時だった。
アーサがそっと彼女の唇にキスをしたのだ。
「─────っ」
エルミーユの瞳が揺れる。
この一月、一度も2人が彼女の唇にキスをしたことなどなかった。
「.....悪かった、エルミーユ。」
「っ」
「ほんとに死なれたら俺はどうにかなりそうだ。」
そう言ってエルミーユの額に一つ唇を落とし、「食事の用意をする」とアーサが部屋から出て行った。
自分の寝ている間に一体何が起こったのか.....。
今のもすべて何かの罠かもしれない。
暫くしてアーサが湯気の立つスープを運んできた。それを見て身を強張らせるエルミーユ。
今まで自分に出されていたものはパンくずばかりだった。温かいものといえば自分の身体に垂らされた蝋燭ぐらいだろうか。
無表情を作ろうにも何をされるのか分からず、やはり膝に置く手が震える。
アーサはアーチよりも感情的になりやすいため恐怖心ばかりが募る。
「.....ほら、スープだよ、飲める?」
「.........」
アーサにスープが浮かぶスプーンを差し出され、エルミーユは戸惑いを隠せない。
媚薬を入れたスープかもしれないし、皿ごと頭からかけられるのかもしれない。
どう動くべきか分からず、アーサの手元ばかりを見つめるエルミーユ。痺れを切らしアーサがふぅとスープを冷ますと、それを彼女の口元へと運んだ。
しかしエルミーユは怖さのあまり口を開けることが出来ない。見えない腹の底ほど怖いものはない。
「......エルミーユ、大丈夫。媚薬も毒も入ってないから.....。」
そう言って自分でスープを一口飲んでみせたアーサ。彼の喉元が動いたのを確認すると少しだけエルミーユの手の震えが止まった。
それから彼にされるがままスープを飲み終え、温かいものが身体の中へと流れ込んでいくと彼女は虚ろな目を擦り始める。
「エルミーユ.....本当に、.......ごめん...。」
アーサのその言葉を最後にエルミーユは再び眠りについた。
ああ、今のは全て夢かもしれないと思いながら。
大丈夫、私にはインハルトがいる。
必ずインハルトが来てくれる.....
何があっても双子の手には堕ちない.....
私は強く気高いハンター。
あなたに愛された自分を決して見失わない─────.....
0
お気に入りに追加
79
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる