上 下
2 / 34

case.1 目合い◆1

しおりを挟む
 
   真っ黒な髪に真っ黒なボンテージ調の全身スーツ。


髪は細かくうねり、その豊満な形がはっきりと分かる身体に密着したスーツ。

風も通らない最下層の地下牢で目隠しをされ両手首を天井から吊るされる女が一人。

しかし床から繋がる鎖の足枷は何故か両足首ともに外れていた。

その足元から冷えたコンクリートの床を辿ると、細々とした血の川が流れている。

更にその川に沿っていけば床に転げる5体のヴァンパイアが寝そべっていた。


   重い鉄の扉の外からは口々にかしこまった言葉を放ち整列させられた部隊。

両脇に綺麗に並べられた隊の間を少し毛だるそうに歩いてくる赤髪の男が姿を現した。

「こんな時間に起こすなよ。」

「はっ!申し訳ありませんっ!」

髭の男の看守が赤髪の男に敬礼をした。

「しかしながらここからは我々の管轄外でして!」

「わあってるって。」

赤髪の男の腰には二本のサーベルが下げられている。

嫌々被ったであろう帽子のつばを深く下げるとその扉に付けられた重たいハンドルを回した。

この重いハンドルを回せる力を持つのはヴァンパイアの中でも限られた者だけ。

ギギィッ

分厚い鉄の扉から暗いコンクリートの床にゆっくり目を這わせていく。

「····やってくれたなNo.824。」

赤髪の男が言葉とは裏腹にニヤリと笑みを浮かべた。

「よし、お前ら死体を片付けろ」

男が隊の兵士たちに指示を出す。

すると 小さな声がコンクリートに木霊した。

『 殺してない 』

声の主は吊るされた女だった。

「····しゃべれんのかお前。」

兵士たちが恐る恐るその空間に入ると怯えながらも倒れているヴァンパイアをそそくさと運び始める。

赤髪の男が全員運び出されたのを確認すると兵士に向かって言った。

「ここからは嫌でも俺の管轄だ。
全員上に行ってろ。」

「はっ !」

兵士たちが声を揃え返事をするとその重く分厚い扉が轟音を鳴らしながら閉じられていく。


 水滴すら進入出来ないその空間に、赤髪の男と吊るされた女が取り残された。

赤髪の男がつばを持ち帽子を取ると、その左頬にはナイフでつけられたような傷があった。

女は目隠しをされているが、男の帽子を取る音に少し顔を上げ反応を示す。

「俺の声が誰か分かるか。」

「····」

「···まただんまりかよ。」

男は女の足枷が外れているのを確認するとそのまま女の方へと近寄った。

女の顔面を目の前に再び男が口を開く。

「俺の頬につけた傷、覚えてるか?」

「····」

「俺らが境界線に乗り込んで行った時、お前の剣につけられた傷だ。」

「····」

「そんな強ぇ女がわざわざ捕まりにくるとは···一体何を企んでる?」

「····」

「こういう時に俺らがするのを何て言うか知ってるよな?」

「····」

男は一つ溜め息をつくと女の耳元で囁いた。

「"拷問"だよ。」

「····」

しかし女は微動だにしない。

表情は見えないが手首を吊るされるその姿は怯えでも諦めでもない様子で堂々と立ちはだかっていた。

「···さっきの5人、お前を襲おうとしたのか。」

「····」

足枷が外されていたのはそのためだと、見た瞬間にこの男は悟っていた。

「····アイツらは下っ端だ。いくら5人とはいえやり方が悪い。
なんせヴァン・ヘルシングの娘だからな。」

「····」

男が女の鎖骨あたりから下腹部まで続くボンテージのジッパーに手を掛けた。

ジーーー····

その刹那、女が真横から男の腰を狙って蹴りを繰り出した。

が、男はそれよりも早く女の首元に小さな注射器を刺していた。

「!」

注射器が無造作に抜かれ床に捨てられる。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

甘々に

緋燭
恋愛
初めてなので優しく、時に意地悪されながらゆっくり愛されます。 ハードでアブノーマルだと思います、。 子宮貫通等、リアルでは有り得ない部分も含まれているので、閲覧される場合は自己責任でお願いします。 苦手な方はブラウザバックを。 初投稿です。 小説自体初めて書きましたので、見づらい部分があるかと思いますが、温かい目で見てくださると嬉しいです。 また書きたい話があれば書こうと思いますが、とりあえずはこの作品を一旦完結にしようと思います。 ご覧頂きありがとうございます。

皇帝陛下は身ごもった寵姫を再愛する

真木
恋愛
燐砂宮が雪景色に覆われる頃、佳南は紫貴帝の御子を身ごもった。子の未来に不安を抱く佳南だったが、皇帝の溺愛は日に日に増して……。※「燐砂宮の秘めごと」のエピローグですが、単体でも読めます。

燐砂宮の秘めごと

真木
恋愛
佳南が子どもの頃から暮らしていた後宮を去る日、皇帝はその宮を来訪する。そして

執着系狼獣人が子犬のような伴侶をみつけると

真木
恋愛
獣人の里で他の男の狼獣人に怯えていた、子犬のような狼獣人、ロシェ。彼女は海の向こうの狼獣人、ジェイドに奪われるように伴侶にされるが、彼は穏やかそうに見えて殊更執着の強い獣人で……。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...