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最終章
第21話 決着11
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そして、クラスの出し物が決まった日から始まった音楽ユニットとしての練習。
何と、場所は田口さんの家で、だった。
実は、田口さんのお母さんの再婚相手の趣味が音楽で、その影響で田口さんも音楽をやり始め、家には楽器の演奏練習用の地下室まであるという。
それは、使わないわけには、いかなかった。
まぁ、一男子が、一女子の家にお邪魔することは、とても緊張するイベントであるはずだが。
僕は、あまり緊張していなかった。
田口さんは以前に、二人で音楽ユニットとして練習する時間を悪用して僕に迫ってきたりすることはしないというようなことを言っていたし。
それに、行くのは、練習用の地下室だ。
決して、私生活を覗き見れたり、ベッドがあったりする田口さんの部屋などではない。
僕は普段乗らない電車に乗って、普段降りない駅で降りて、それから普段行かない街を歩き、そして行ったことのなかった田口さんの家まで辿り着いた。
田口さんの家は我が家と同じくらい、かなり大きかった。ただ、最寄り駅から歩いて二十五分かかったのは、少し立地条件が悪いと言える。
田口さんは最寄り駅まで自転車で通学しているが、僕に合わせて自転車を押しながら一緒に歩いてくれた。
田口さんの家に着くまでの会話の内容は、これからの練習スケジュールのことや具体的な曲の完成度の高め方など、音楽に関することが全てだった。
決して、お互いに、あの雨の日のような甘い雰囲気に流されることなく、真剣に議論を重ねていった。
そして、田口さんの家にお邪魔した僕は、田口さんのお母さんに玄関で出迎えられた。
「あなたが……、赤崎君……」
少し涙ぐみながら、田口さんのお母さんは僕へと深々と頭を下げた。
僕は驚いて、恐縮してしまって、思わず田口さんを見た。
田口さんは尊いものでも見ているような目で、その光景を、いや、僕を見つめていた。
「小学生の頃、娘を、愛理をいじめから救ってくれて、本当にありがとう」
田口さんは、僕について田口さんのお母さんにそこまで話していたんだな。
まぁ、彼氏を家に連れ込んできたなんて誤解されるより、よっぽどましな状況だった。
僕は、優しく田口さんのお母さんに言った。
「どうか、顔を上げてください。僕は、僕がしたくて、そうしたのですから。後悔は、していません」
壊れてはしまったけれど。
田口さんのお母さんは、そうしてゆっくりと顔を上げて、それからにこりと笑みを浮かべた。その笑顔を見て、ああ、やっぱり田口さんと顔が似ているなと思った。
「さっ、上がって。練習用の地下室はこっちよ」
そう言って、歩き始める田口さんのお母さん。
僕は、急いで靴を脱いでから、田口さんのお母さんに先導される形で、田口さんと並んで廊下を歩く。
そして、すぐに地下への階段へと案内され、それを一段一段下りていく。
そうして、地下室のドアを田口さんのお母さんが開ける。
天井の照明に照らされ、そこには十畳くらいの空間が広がっていた。
アコースティックギターとエレキギターが一本ずつ、壁に飾られている。
僕は、おおっと思わず声を漏らす。
「さっ、思い存分練習していってね。帰りは、私の車で送っていくから」
その申し出に、僕は恐縮してしまう。
「大丈夫ですよ。スマホの地図アプリで帰れますから」
「それくらいさせてほしいの。愛理の恩人に」
そう懇願するように言ってくるので、僕は申し訳ないと思いながらも、分かりましたと答えた。
そして、田口さんのお母さんが地下室から出て行くと、田口さんは壁に飾ってあったアコースティックギターを手に取り、それを胸元に寄せて、音を鳴らしてチューニングし、それが終わると制服の上着のポケットからピックを取り出した。
「赤崎、早速、前奏を聴かせるから、お前の意見を聞かせてほしい」
真剣な表情で、そう声をかけてくる田口さんからは、確かな熱を感じられた。
「分かった。ギターのことは詳しくはないけど、僕なりの意見を言わせてもらうよ」
そうして、一呼吸してから、田口さんはアコースティックギターで前奏を弾き始めた。
悲しく、切なく、少しアップテンポな出だし。
僕の歌詞のイメージにぴったりな気がした。
ただ、欲を言えばちょっとアップテンポ過ぎるかな。
前奏を弾き終えた田口さんに、そう伝えると、田口さんはこんな感じかとややスローテンポにしてすぐに前奏を修正してきた。
本当に、田口さんには音楽の才能があると感心する。
僕は、それだよ、と言って、にっこり笑った。
田口さんもにかっと笑って、そこからが本番だった。
前奏の調整が終わり、僕の歌声と田口さんのギターの伴奏の完成度を高める段階に入った。
お互いに、ちょっとイメージが違っていた部分があり、ここはこうだとか、ああだとか言い合い、お互いが納得するまで修正する。
結局、サビに到達する前で、その日の練習はお開きとなった。午後七時を回ったからだ。
本当に音楽の練習に特化した濃密な時間だった。
僕と田口さんはやや疲れながらも、得も言われぬ充実感をそれぞれ抱えて地下室から出た。
そして、田口さんのお母さんに車で最寄り駅まで送ってもらった。
「本当に、ありがとう、赤崎君」
僕が車から降りると、心の底からといった風に、田口さんのお母さんがそう言った。
僕はただ、黙って笑顔で頷いた。
そして、僕が自分の家に帰ったのは、午後八時を回っていた。
だが、母さんは何も言わずに、黙って二人で遅い夕食を食べた。
僕が過去のいじめについてのことを両親に話して以来、母さんとの会話はほとんどない。
ただ、念のために、僕は今日から恐らく音楽ユニットとして練習を開始するとだけ昼休みにスマホで両親に伝えておいた。
もう、それに対して、父さんも母さんも肯定も否定もしなかった。返信は父さんからも母さんからもなかった。
やっぱり、僕らは悲しい家族だ。
それから、五月になってやや暑くなってきても、練習の日々は続き。
僕らは僕の歌い方、そして、田口さんのギターの伴奏の完成度を高めていった。
成瀬さん、小池君、高橋君は、本番まで楽しみを取っているのか。
僕らの練習の進捗状況を、高校で聞いてはこなかった。
そして、文化祭前日に、僕と田口さんは、地下室でお互いが納得するほどのレベルに曲を仕上げた。
何と、場所は田口さんの家で、だった。
実は、田口さんのお母さんの再婚相手の趣味が音楽で、その影響で田口さんも音楽をやり始め、家には楽器の演奏練習用の地下室まであるという。
それは、使わないわけには、いかなかった。
まぁ、一男子が、一女子の家にお邪魔することは、とても緊張するイベントであるはずだが。
僕は、あまり緊張していなかった。
田口さんは以前に、二人で音楽ユニットとして練習する時間を悪用して僕に迫ってきたりすることはしないというようなことを言っていたし。
それに、行くのは、練習用の地下室だ。
決して、私生活を覗き見れたり、ベッドがあったりする田口さんの部屋などではない。
僕は普段乗らない電車に乗って、普段降りない駅で降りて、それから普段行かない街を歩き、そして行ったことのなかった田口さんの家まで辿り着いた。
田口さんの家は我が家と同じくらい、かなり大きかった。ただ、最寄り駅から歩いて二十五分かかったのは、少し立地条件が悪いと言える。
田口さんは最寄り駅まで自転車で通学しているが、僕に合わせて自転車を押しながら一緒に歩いてくれた。
田口さんの家に着くまでの会話の内容は、これからの練習スケジュールのことや具体的な曲の完成度の高め方など、音楽に関することが全てだった。
決して、お互いに、あの雨の日のような甘い雰囲気に流されることなく、真剣に議論を重ねていった。
そして、田口さんの家にお邪魔した僕は、田口さんのお母さんに玄関で出迎えられた。
「あなたが……、赤崎君……」
少し涙ぐみながら、田口さんのお母さんは僕へと深々と頭を下げた。
僕は驚いて、恐縮してしまって、思わず田口さんを見た。
田口さんは尊いものでも見ているような目で、その光景を、いや、僕を見つめていた。
「小学生の頃、娘を、愛理をいじめから救ってくれて、本当にありがとう」
田口さんは、僕について田口さんのお母さんにそこまで話していたんだな。
まぁ、彼氏を家に連れ込んできたなんて誤解されるより、よっぽどましな状況だった。
僕は、優しく田口さんのお母さんに言った。
「どうか、顔を上げてください。僕は、僕がしたくて、そうしたのですから。後悔は、していません」
壊れてはしまったけれど。
田口さんのお母さんは、そうしてゆっくりと顔を上げて、それからにこりと笑みを浮かべた。その笑顔を見て、ああ、やっぱり田口さんと顔が似ているなと思った。
「さっ、上がって。練習用の地下室はこっちよ」
そう言って、歩き始める田口さんのお母さん。
僕は、急いで靴を脱いでから、田口さんのお母さんに先導される形で、田口さんと並んで廊下を歩く。
そして、すぐに地下への階段へと案内され、それを一段一段下りていく。
そうして、地下室のドアを田口さんのお母さんが開ける。
天井の照明に照らされ、そこには十畳くらいの空間が広がっていた。
アコースティックギターとエレキギターが一本ずつ、壁に飾られている。
僕は、おおっと思わず声を漏らす。
「さっ、思い存分練習していってね。帰りは、私の車で送っていくから」
その申し出に、僕は恐縮してしまう。
「大丈夫ですよ。スマホの地図アプリで帰れますから」
「それくらいさせてほしいの。愛理の恩人に」
そう懇願するように言ってくるので、僕は申し訳ないと思いながらも、分かりましたと答えた。
そして、田口さんのお母さんが地下室から出て行くと、田口さんは壁に飾ってあったアコースティックギターを手に取り、それを胸元に寄せて、音を鳴らしてチューニングし、それが終わると制服の上着のポケットからピックを取り出した。
「赤崎、早速、前奏を聴かせるから、お前の意見を聞かせてほしい」
真剣な表情で、そう声をかけてくる田口さんからは、確かな熱を感じられた。
「分かった。ギターのことは詳しくはないけど、僕なりの意見を言わせてもらうよ」
そうして、一呼吸してから、田口さんはアコースティックギターで前奏を弾き始めた。
悲しく、切なく、少しアップテンポな出だし。
僕の歌詞のイメージにぴったりな気がした。
ただ、欲を言えばちょっとアップテンポ過ぎるかな。
前奏を弾き終えた田口さんに、そう伝えると、田口さんはこんな感じかとややスローテンポにしてすぐに前奏を修正してきた。
本当に、田口さんには音楽の才能があると感心する。
僕は、それだよ、と言って、にっこり笑った。
田口さんもにかっと笑って、そこからが本番だった。
前奏の調整が終わり、僕の歌声と田口さんのギターの伴奏の完成度を高める段階に入った。
お互いに、ちょっとイメージが違っていた部分があり、ここはこうだとか、ああだとか言い合い、お互いが納得するまで修正する。
結局、サビに到達する前で、その日の練習はお開きとなった。午後七時を回ったからだ。
本当に音楽の練習に特化した濃密な時間だった。
僕と田口さんはやや疲れながらも、得も言われぬ充実感をそれぞれ抱えて地下室から出た。
そして、田口さんのお母さんに車で最寄り駅まで送ってもらった。
「本当に、ありがとう、赤崎君」
僕が車から降りると、心の底からといった風に、田口さんのお母さんがそう言った。
僕はただ、黙って笑顔で頷いた。
そして、僕が自分の家に帰ったのは、午後八時を回っていた。
だが、母さんは何も言わずに、黙って二人で遅い夕食を食べた。
僕が過去のいじめについてのことを両親に話して以来、母さんとの会話はほとんどない。
ただ、念のために、僕は今日から恐らく音楽ユニットとして練習を開始するとだけ昼休みにスマホで両親に伝えておいた。
もう、それに対して、父さんも母さんも肯定も否定もしなかった。返信は父さんからも母さんからもなかった。
やっぱり、僕らは悲しい家族だ。
それから、五月になってやや暑くなってきても、練習の日々は続き。
僕らは僕の歌い方、そして、田口さんのギターの伴奏の完成度を高めていった。
成瀬さん、小池君、高橋君は、本番まで楽しみを取っているのか。
僕らの練習の進捗状況を、高校で聞いてはこなかった。
そして、文化祭前日に、僕と田口さんは、地下室でお互いが納得するほどのレベルに曲を仕上げた。
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