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第二章
第8話 無敵のノーギャル2
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それから、職員室に入ると、宮田先生が、不機嫌そうに僕らを迎えた。
「小池が、すごい剣幕で今日はもう早退しますと言って、帰っていったぞ。何か、あったのか?」
面倒事が嫌いな宮田先生だ。
厄介事はごめんだぞと顔に書いてある。
僕が答えに困っていると、毅然と成瀬さんが言った。
「小池君は私のことが好きだったようですが、私が他に好きな人がいると言ったので、怒ってしまったみたいです」
その成瀬さんの答えに、ああ、とため息をつくように宮田先生は言って、それから天井を仰いだ。
「そうか、お前ら高校生だもんなぁ。そんなことの一つや二つあって当たり前か。それでも、赤崎なら、その場をうまくまとめてくれる気がしていたんだがなぁ」
明らかにがっかりした表情で、宮田先生が僕を見てくる。
僕は胸が縛り上げられたような気持ちになる。
他者からの失望。
それは、無敵のイエスマンである僕が、とても恐れていたことだった。
だが、また毅然と成瀬さんは言った。
「田口さんが、場をめちゃくちゃにしたんです。赤崎君がどうしようもできないくらいに。だから、そんな言い方はしないでください」
僕は少し驚いて、成瀬さんを見る。
「……分かったよ」
宮田先生は、疲れた声を出して、僕らにプリントを手渡した。
教室に戻る途中。
僕は毅然とした表情を浮かべたままの成瀬さんの横顔を見つめていた。
成瀬さんって、こんな表情を、あんな言い方をすることもあるんだな。
「ねぇ、赤崎君、今日は大変だったね、田口さんに場をめちゃくちゃにされて、小池君が大人げなく教室から出て行って」
それからは、デジャブのようだった。
早歩きした成瀬さんが、僕の前に立って、僕と向き合ったので、僕は足を止めた。
こんなこと、前にもあったような。
しかし、違うのは成瀬さんが毅然とした表情を浮かべていることだった。
「弱いところ、私にだけは見せてもいいって、そんなこと、私、赤崎君に昨日言ったよね?」
「う、うん……」
そうだ、そのときも、成瀬さんは僕とこうして向き合って。
「私、誰にも優しくて壊れそうな赤崎君のこと、守れる自信、あるから」
その二重の目には、確かな強い意志が宿っていて。
僕は呆然として、その目を見つめる。
「誰よりも、赤崎君を守ってみせる。そう、誰よりも」
そして、成瀬さんは、はっきりとその名を口にした。
「田口さんよりも」
「え?」
成瀬さんは、僕の目を見つめてくる。
「私には、分かったよ。多分、やり方はどうであれ、結果はどうであれ、田口さんは赤崎君を守ろうとしたこと」
僕は驚いて、まじまじと成瀬さんの顔を見つめる。
その表情には、わずかな悔しさと負けまいとする強い意志が込められていて。
だが、どうして?
確かに、成瀬さんが言ったことは事実だ。
しかし、成瀬さんは、カラオケでの僕と田口さんのやり取りを知らないはずだ。
それなのに、どうして。
「どうして分かったのかって、そんな顔してるね、赤崎君」
成瀬さんはその目に強い意志を宿したまま、それでも少し得意げな声になって微笑んだ。
「分かるよ、赤崎君を強く、大事に想っている者同士だもの」
「な……」
何で、そんなことまで。
愛している。
カラオケでの田口さんの言葉が頭の中で蘇る。
僕に恩を感じている田口さん。
僕にイエスもノーも求めずに、ただ、愛していると口にした田口さん。
無敵のノーギャル。
どうして、そのことを成瀬さんが分かるんだ。
「また、どうして分かったのかって、そんな顔してるね、赤崎君」
くすくすと笑う成瀬さん。
僕はもうどんな表情を浮かべていいか分からくなって、また途方に暮れた顔をしてしまう。
あのとき、田口さんにしたように。
「私ね、さっきも言ったように、優しくて壊れそうな赤崎君のこと、守れる自信、あるから。そんなに弱い女の子じゃないんだよ?」
また毅然とした表情を浮かべて、成瀬さんは言った。
「優しくて壊れそうな赤崎君に、すぐにイエスかノーかなんて求めない。それだって、今はわきまえているんだよ? きっと、赤崎君、小池君のことを配慮して、困ってしまうから」
ふふっとまた微笑んで、それから田口さんとはまた違う、にっと力強い笑みへと成瀬さんはその表情を変えた。
開いている窓から、暖かな春風が廊下に吹いて、僕と成瀬さんの髪を揺らした。
「決して、赤崎君を壊させたりしない。守ってみせる。さっき場を乱した田口さんから、その覚悟を私は感じ取った。だから、からかもね。これまでの私は、きっと優しい赤崎君に甘えてわがままを言ってしまっていたときもあったと思う。赤崎君の弱いところ、私にだけは見せてもいいみたいなこと言って、独占欲を丸出しにして。だけど、もう負けない。田口さんにも、誰にも。だって、これは」
そうして、成瀬さん、君はその言葉を言ってしまうんだな。
「私の遅い初恋だもの」
僕は力が抜けて、目を細めて、成瀬さんをまた見つめた。
無敵のイエスマンも、案外、見抜かれているものだな。
それに、この女の子の、何て強いことか。
僕なんかより、はるかに。
まるで、あのノーギャルの田口さんのように。
いや、強くなったのだろう。
あの無敵のノーギャルに影響されて。
僕は、僕はまた。
田口さんに助けられた。
これは、無敵のイエスマンが無敵のノーギャルに負けるピンチかも。
何て、ね。
それでも、僕は今の僕を傑作品だと思っていることに変わりはないから。
だから、勝負はまだ、続くよ、田口さん。
「さぁ、教室に戻ろう、赤崎君」
春風に吹かれながら、長い黒髪を揺らして、やはり頬を赤くして、それから成瀬さんは僕へと背を向けた。
それから、教室に入るまで。
成瀬さんは、一度も振り返らなかった。
僕は、その凛とした背中をただ、眩しいものでも見るように見つめていた。
「小池が、すごい剣幕で今日はもう早退しますと言って、帰っていったぞ。何か、あったのか?」
面倒事が嫌いな宮田先生だ。
厄介事はごめんだぞと顔に書いてある。
僕が答えに困っていると、毅然と成瀬さんが言った。
「小池君は私のことが好きだったようですが、私が他に好きな人がいると言ったので、怒ってしまったみたいです」
その成瀬さんの答えに、ああ、とため息をつくように宮田先生は言って、それから天井を仰いだ。
「そうか、お前ら高校生だもんなぁ。そんなことの一つや二つあって当たり前か。それでも、赤崎なら、その場をうまくまとめてくれる気がしていたんだがなぁ」
明らかにがっかりした表情で、宮田先生が僕を見てくる。
僕は胸が縛り上げられたような気持ちになる。
他者からの失望。
それは、無敵のイエスマンである僕が、とても恐れていたことだった。
だが、また毅然と成瀬さんは言った。
「田口さんが、場をめちゃくちゃにしたんです。赤崎君がどうしようもできないくらいに。だから、そんな言い方はしないでください」
僕は少し驚いて、成瀬さんを見る。
「……分かったよ」
宮田先生は、疲れた声を出して、僕らにプリントを手渡した。
教室に戻る途中。
僕は毅然とした表情を浮かべたままの成瀬さんの横顔を見つめていた。
成瀬さんって、こんな表情を、あんな言い方をすることもあるんだな。
「ねぇ、赤崎君、今日は大変だったね、田口さんに場をめちゃくちゃにされて、小池君が大人げなく教室から出て行って」
それからは、デジャブのようだった。
早歩きした成瀬さんが、僕の前に立って、僕と向き合ったので、僕は足を止めた。
こんなこと、前にもあったような。
しかし、違うのは成瀬さんが毅然とした表情を浮かべていることだった。
「弱いところ、私にだけは見せてもいいって、そんなこと、私、赤崎君に昨日言ったよね?」
「う、うん……」
そうだ、そのときも、成瀬さんは僕とこうして向き合って。
「私、誰にも優しくて壊れそうな赤崎君のこと、守れる自信、あるから」
その二重の目には、確かな強い意志が宿っていて。
僕は呆然として、その目を見つめる。
「誰よりも、赤崎君を守ってみせる。そう、誰よりも」
そして、成瀬さんは、はっきりとその名を口にした。
「田口さんよりも」
「え?」
成瀬さんは、僕の目を見つめてくる。
「私には、分かったよ。多分、やり方はどうであれ、結果はどうであれ、田口さんは赤崎君を守ろうとしたこと」
僕は驚いて、まじまじと成瀬さんの顔を見つめる。
その表情には、わずかな悔しさと負けまいとする強い意志が込められていて。
だが、どうして?
確かに、成瀬さんが言ったことは事実だ。
しかし、成瀬さんは、カラオケでの僕と田口さんのやり取りを知らないはずだ。
それなのに、どうして。
「どうして分かったのかって、そんな顔してるね、赤崎君」
成瀬さんはその目に強い意志を宿したまま、それでも少し得意げな声になって微笑んだ。
「分かるよ、赤崎君を強く、大事に想っている者同士だもの」
「な……」
何で、そんなことまで。
愛している。
カラオケでの田口さんの言葉が頭の中で蘇る。
僕に恩を感じている田口さん。
僕にイエスもノーも求めずに、ただ、愛していると口にした田口さん。
無敵のノーギャル。
どうして、そのことを成瀬さんが分かるんだ。
「また、どうして分かったのかって、そんな顔してるね、赤崎君」
くすくすと笑う成瀬さん。
僕はもうどんな表情を浮かべていいか分からくなって、また途方に暮れた顔をしてしまう。
あのとき、田口さんにしたように。
「私ね、さっきも言ったように、優しくて壊れそうな赤崎君のこと、守れる自信、あるから。そんなに弱い女の子じゃないんだよ?」
また毅然とした表情を浮かべて、成瀬さんは言った。
「優しくて壊れそうな赤崎君に、すぐにイエスかノーかなんて求めない。それだって、今はわきまえているんだよ? きっと、赤崎君、小池君のことを配慮して、困ってしまうから」
ふふっとまた微笑んで、それから田口さんとはまた違う、にっと力強い笑みへと成瀬さんはその表情を変えた。
開いている窓から、暖かな春風が廊下に吹いて、僕と成瀬さんの髪を揺らした。
「決して、赤崎君を壊させたりしない。守ってみせる。さっき場を乱した田口さんから、その覚悟を私は感じ取った。だから、からかもね。これまでの私は、きっと優しい赤崎君に甘えてわがままを言ってしまっていたときもあったと思う。赤崎君の弱いところ、私にだけは見せてもいいみたいなこと言って、独占欲を丸出しにして。だけど、もう負けない。田口さんにも、誰にも。だって、これは」
そうして、成瀬さん、君はその言葉を言ってしまうんだな。
「私の遅い初恋だもの」
僕は力が抜けて、目を細めて、成瀬さんをまた見つめた。
無敵のイエスマンも、案外、見抜かれているものだな。
それに、この女の子の、何て強いことか。
僕なんかより、はるかに。
まるで、あのノーギャルの田口さんのように。
いや、強くなったのだろう。
あの無敵のノーギャルに影響されて。
僕は、僕はまた。
田口さんに助けられた。
これは、無敵のイエスマンが無敵のノーギャルに負けるピンチかも。
何て、ね。
それでも、僕は今の僕を傑作品だと思っていることに変わりはないから。
だから、勝負はまだ、続くよ、田口さん。
「さぁ、教室に戻ろう、赤崎君」
春風に吹かれながら、長い黒髪を揺らして、やはり頬を赤くして、それから成瀬さんは僕へと背を向けた。
それから、教室に入るまで。
成瀬さんは、一度も振り返らなかった。
僕は、その凛とした背中をただ、眩しいものでも見るように見つめていた。
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