無敵のイエスマン

春海

文字の大きさ
8 / 25
第二章

第8話  無敵のノーギャル2

しおりを挟む
 それから、職員室に入ると、宮田先生が、不機嫌そうに僕らを迎えた。

「小池が、すごい剣幕で今日はもう早退しますと言って、帰っていったぞ。何か、あったのか?」

 面倒事が嫌いな宮田先生だ。
 厄介事はごめんだぞと顔に書いてある。
 僕が答えに困っていると、毅然と成瀬さんが言った。

「小池君は私のことが好きだったようですが、私が他に好きな人がいると言ったので、怒ってしまったみたいです」

 その成瀬さんの答えに、ああ、とため息をつくように宮田先生は言って、それから天井を仰いだ。

「そうか、お前ら高校生だもんなぁ。そんなことの一つや二つあって当たり前か。それでも、赤崎なら、その場をうまくまとめてくれる気がしていたんだがなぁ」

 明らかにがっかりした表情で、宮田先生が僕を見てくる。
 僕は胸が縛り上げられたような気持ちになる。
 他者からの失望。
 それは、無敵のイエスマンである僕が、とても恐れていたことだった。
 だが、また毅然と成瀬さんは言った。

「田口さんが、場をめちゃくちゃにしたんです。赤崎君がどうしようもできないくらいに。だから、そんな言い方はしないでください」

 僕は少し驚いて、成瀬さんを見る。

「……分かったよ」

 宮田先生は、疲れた声を出して、僕らにプリントを手渡した。
 教室に戻る途中。
 僕は毅然とした表情を浮かべたままの成瀬さんの横顔を見つめていた。
 成瀬さんって、こんな表情を、あんな言い方をすることもあるんだな。

「ねぇ、赤崎君、今日は大変だったね、田口さんに場をめちゃくちゃにされて、小池君が大人げなく教室から出て行って」

 それからは、デジャブのようだった。
 早歩きした成瀬さんが、僕の前に立って、僕と向き合ったので、僕は足を止めた。
 こんなこと、前にもあったような。
 しかし、違うのは成瀬さんが毅然とした表情を浮かべていることだった。

「弱いところ、私にだけは見せてもいいって、そんなこと、私、赤崎君に昨日言ったよね?」
「う、うん……」

 そうだ、そのときも、成瀬さんは僕とこうして向き合って。

「私、誰にも優しくて壊れそうな赤崎君のこと、守れる自信、あるから」

 その二重の目には、確かな強い意志が宿っていて。
 僕は呆然として、その目を見つめる。

「誰よりも、赤崎君を守ってみせる。そう、誰よりも」

 そして、成瀬さんは、はっきりとその名を口にした。

「田口さんよりも」
「え?」

 成瀬さんは、僕の目を見つめてくる。

「私には、分かったよ。多分、やり方はどうであれ、結果はどうであれ、田口さんは赤崎君を守ろうとしたこと」

 僕は驚いて、まじまじと成瀬さんの顔を見つめる。
 その表情には、わずかな悔しさと負けまいとする強い意志が込められていて。
 だが、どうして?
 確かに、成瀬さんが言ったことは事実だ。
 しかし、成瀬さんは、カラオケでの僕と田口さんのやり取りを知らないはずだ。
 それなのに、どうして。

「どうして分かったのかって、そんな顔してるね、赤崎君」

 成瀬さんはその目に強い意志を宿したまま、それでも少し得意げな声になって微笑んだ。

「分かるよ、赤崎君を強く、大事に想っている者同士だもの」
「な……」

 何で、そんなことまで。
 愛している。
 カラオケでの田口さんの言葉が頭の中で蘇る。
 僕に恩を感じている田口さん。
 僕にイエスもノーも求めずに、ただ、愛していると口にした田口さん。
 無敵のノーギャル。
 どうして、そのことを成瀬さんが分かるんだ。

「また、どうして分かったのかって、そんな顔してるね、赤崎君」

 くすくすと笑う成瀬さん。
 僕はもうどんな表情を浮かべていいか分からくなって、また途方に暮れた顔をしてしまう。
 あのとき、田口さんにしたように。

「私ね、さっきも言ったように、優しくて壊れそうな赤崎君のこと、守れる自信、あるから。そんなに弱い女の子じゃないんだよ?」

 また毅然とした表情を浮かべて、成瀬さんは言った。

「優しくて壊れそうな赤崎君に、すぐにイエスかノーかなんて求めない。それだって、今はわきまえているんだよ? きっと、赤崎君、小池君のことを配慮して、困ってしまうから」

 ふふっとまた微笑んで、それから田口さんとはまた違う、にっと力強い笑みへと成瀬さんはその表情を変えた。
 開いている窓から、暖かな春風が廊下に吹いて、僕と成瀬さんの髪を揺らした。

「決して、赤崎君を壊させたりしない。守ってみせる。さっき場を乱した田口さんから、その覚悟を私は感じ取った。だから、からかもね。これまでの私は、きっと優しい赤崎君に甘えてわがままを言ってしまっていたときもあったと思う。赤崎君の弱いところ、私にだけは見せてもいいみたいなこと言って、独占欲を丸出しにして。だけど、もう負けない。田口さんにも、誰にも。だって、これは」

 そうして、成瀬さん、君はその言葉を言ってしまうんだな。

「私の遅い初恋だもの」

 僕は力が抜けて、目を細めて、成瀬さんをまた見つめた。
 無敵のイエスマンも、案外、見抜かれているものだな。
 それに、この女の子の、何て強いことか。
 僕なんかより、はるかに。
 まるで、あのノーギャルの田口さんのように。
 いや、強くなったのだろう。
 あの無敵のノーギャルに影響されて。
 僕は、僕はまた。
 田口さんに助けられた。
 これは、無敵のイエスマンが無敵のノーギャルに負けるピンチかも。
 何て、ね。
 それでも、僕は今の僕を傑作品だと思っていることに変わりはないから。
 だから、勝負はまだ、続くよ、田口さん。

「さぁ、教室に戻ろう、赤崎君」

 春風に吹かれながら、長い黒髪を揺らして、やはり頬を赤くして、それから成瀬さんは僕へと背を向けた。
 それから、教室に入るまで。
 成瀬さんは、一度も振り返らなかった。
 僕は、その凛とした背中をただ、眩しいものでも見るように見つめていた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2025.12.18)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話

頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。 綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。 だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。 中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。 とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。 高嶺の花。 そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。 だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。 しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。 それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。 他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。 存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。 両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。 拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。 そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。 それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。 イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。 付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

after the rain

ノデミチ
青春
雨の日、彼女はウチに来た。 で、友達のライン、あっという間に超えた。 そんな、ボーイ ミーツ ガール の物語。 カクヨムで先行掲載した作品です、

クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる

グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。 彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。 だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。 容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。 「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」 そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。 これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、 高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。 前編 「恋愛譚」 : 序章〜第5章 後編 「青春譚」 : 第6章〜

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

処理中です...