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第三部 第四章 兵器と決着をつけるまで
71話 悦ぶ男①
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体を捻り、剣の平面を据える。目の前で光が炸裂し、シグルズは目を閉じた。
だが瞼の裏の明るさがすぐに消えた。
目を開けたときには、ノートゥングの黒い剣身が光を吸収していた。
シグルズは相手の光が完全に消えた瞬間に剣を振り下ろし、黒い球体部分を真っ二つにした。
さらにその後ろから2体、シグルズに向けて光を発射しようと近づいてきた。
さすがに躱わせないと思ったが、ものすごい勢いで横から黒い傘が体当たりすると同時に、鋭く尖った黒い足で2体の球体部分を串刺しにした。
3体の残骸が地面に落ちる。
「シグルズ!」
シグルズは再びグラムにキャッチされ、藁干し状態でネフィリムの前に運ばれてきた。
「すごいじゃないか、これなら本当に変異体を撃退できる……」
「ははは」
「シグルズ?」
「楽しいな」
グラムから降りると、シグルズは前髪をかきあげた。
手に持つノートゥングをじっと見詰める。
やはり間違いではなかった。
“儀式”を重ねたことで俺自身が変異した。
その結果、試作品とはいえニブルヘイムの兵器ですら敵に値しなくなった。
この力。これがあれば守ることができる。
失いたくないと思ったもの。大切なもの。
ネフィリムも、ヴェルスング家も、国も、全て。
俺が。
「これならたくさん殺せるぞ、ネフィル」
ネフィリムは騎士の顔を凝視する。その言葉、その心からの悦びが浮かぶ笑み。
「シグルズ……? お前、」
言葉を交わす2人にラインの兵器が急接近してきた。鋭い足を剣のように突き出す。ネフィリムを後ろに下がらせ剣を構えたシグルズ。
が、突然その黒い足が倍以上に伸びた。
「そんな反則技があるか!?」
叫んだシグルズは咄嗟に頭を低くして腕をかざす。黒い足がシグルズの前腕を貫通した。
「シグルズ!!」
痛みで片膝をついたシグルズに、“黒い傘”がさらに追い打ちをかけようとしたところで「させません!」と凛とした声が響く。イゾルデだった。前に出る。
「トリスタン! お願い! シグルズ様を守ってください!!」
呼応した黒い傘が目にも見えない速さでシグルズと傘の間に入り込むと、再び光を帯びた。
光の傘。それは、ラインの乙女の攻撃を全て無効化した。残った6体の傘も3人に集中攻撃を浴びせる。光の傘はその全てを吸い込む。
だが、相手の攻撃が続いている間は、こちらも攻撃ができない。
「シグルズ! 大丈夫か!? 今止血を……」
そう言ってシグルズの腕を見たネフィリムは息を止めた。
ノートゥングを持った手から前腕、上腕にかけてヘビのような曲線の痣が出現している。
しかも、見間違いでなければその赤黒い痣は時折動いていている。
まるで、生きているように。
「この痣は……なんだ?」
ネフィリムの声が震える。
分かる。
この痣は……シグルズにとって良くないものだ。
ネフィリムの言葉には答えず、シグルズは立ち上がろうとした。
「おい! 待て、傷の手当てを」
「殺さないと」
聞いていない。
「こんなに気分がいいのは久しぶりだ。君を害する全てのものを、俺が」
血が流れても一向に気にも留めない。
楽しそうに笑うシグルズはノートゥングを手に取った。
だが、再び黒い剣が振られることはなかった。
残ったラインの乙女6体が、ボトボトと地上に落ちてきたのだ。
そのまま全く動かなくなった。
ネフィリムは兵器製造拠点のほうを見やる。
「ミモザか……!」
だが瞼の裏の明るさがすぐに消えた。
目を開けたときには、ノートゥングの黒い剣身が光を吸収していた。
シグルズは相手の光が完全に消えた瞬間に剣を振り下ろし、黒い球体部分を真っ二つにした。
さらにその後ろから2体、シグルズに向けて光を発射しようと近づいてきた。
さすがに躱わせないと思ったが、ものすごい勢いで横から黒い傘が体当たりすると同時に、鋭く尖った黒い足で2体の球体部分を串刺しにした。
3体の残骸が地面に落ちる。
「シグルズ!」
シグルズは再びグラムにキャッチされ、藁干し状態でネフィリムの前に運ばれてきた。
「すごいじゃないか、これなら本当に変異体を撃退できる……」
「ははは」
「シグルズ?」
「楽しいな」
グラムから降りると、シグルズは前髪をかきあげた。
手に持つノートゥングをじっと見詰める。
やはり間違いではなかった。
“儀式”を重ねたことで俺自身が変異した。
その結果、試作品とはいえニブルヘイムの兵器ですら敵に値しなくなった。
この力。これがあれば守ることができる。
失いたくないと思ったもの。大切なもの。
ネフィリムも、ヴェルスング家も、国も、全て。
俺が。
「これならたくさん殺せるぞ、ネフィル」
ネフィリムは騎士の顔を凝視する。その言葉、その心からの悦びが浮かぶ笑み。
「シグルズ……? お前、」
言葉を交わす2人にラインの兵器が急接近してきた。鋭い足を剣のように突き出す。ネフィリムを後ろに下がらせ剣を構えたシグルズ。
が、突然その黒い足が倍以上に伸びた。
「そんな反則技があるか!?」
叫んだシグルズは咄嗟に頭を低くして腕をかざす。黒い足がシグルズの前腕を貫通した。
「シグルズ!!」
痛みで片膝をついたシグルズに、“黒い傘”がさらに追い打ちをかけようとしたところで「させません!」と凛とした声が響く。イゾルデだった。前に出る。
「トリスタン! お願い! シグルズ様を守ってください!!」
呼応した黒い傘が目にも見えない速さでシグルズと傘の間に入り込むと、再び光を帯びた。
光の傘。それは、ラインの乙女の攻撃を全て無効化した。残った6体の傘も3人に集中攻撃を浴びせる。光の傘はその全てを吸い込む。
だが、相手の攻撃が続いている間は、こちらも攻撃ができない。
「シグルズ! 大丈夫か!? 今止血を……」
そう言ってシグルズの腕を見たネフィリムは息を止めた。
ノートゥングを持った手から前腕、上腕にかけてヘビのような曲線の痣が出現している。
しかも、見間違いでなければその赤黒い痣は時折動いていている。
まるで、生きているように。
「この痣は……なんだ?」
ネフィリムの声が震える。
分かる。
この痣は……シグルズにとって良くないものだ。
ネフィリムの言葉には答えず、シグルズは立ち上がろうとした。
「おい! 待て、傷の手当てを」
「殺さないと」
聞いていない。
「こんなに気分がいいのは久しぶりだ。君を害する全てのものを、俺が」
血が流れても一向に気にも留めない。
楽しそうに笑うシグルズはノートゥングを手に取った。
だが、再び黒い剣が振られることはなかった。
残ったラインの乙女6体が、ボトボトと地上に落ちてきたのだ。
そのまま全く動かなくなった。
ネフィリムは兵器製造拠点のほうを見やる。
「ミモザか……!」
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