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 地区大会を終えてから半年の月日が流れた。

 みのりはあのあと吉沢と話し合った通り、インターハイの出場を辞退し、足の治療に専念することにした。

 両親の送迎でしばらく病院に通い続けていたが、あれから誠也の姿を目にすることは一度もなかった。


 みのり
「(会いたいな~……)」


 その日、みのりは足のリハビリも兼ねて河川敷まで散歩に来ていた。

 ここに来るたびに誠也の姿が思い起こされる。

 あのあと誠也がどうなったか彼女はまだ知らされてない。

 担当医や看護師に話を聞いても、患者の個人情報は教えられないと断られてしまっていた。

 ただ彼を信じて待ってあげてほしいとだけ告げられ、それから半年も彼を待ち続けている。


 みのり
「さぶっ――!」


 今は12月である。

 冬の河川敷はとても寒い。

 みのりは休憩所に立ち寄り、あったかいお茶を自販機で購入した。

 彼女はベンチに腰かけ、お茶の熱で両手を温める。

 すると、そのとき――――

 遠方からバイク音が響いてきた。

 走ってきたバイクはみのりの目の前で停車し、ヘルメットを被ったドライバーの少年が彼女に声をかけた。


 ???
「やあ、お嬢さん。これから一緒にホテルでもいかがですか?」


 みのり
「…………」


 みのりは一瞬熱いお茶をぶちまけてやろうかと思ったが、怒りよりも〝彼〟と再会できた喜びの方が勝っていた。

 怒りで相殺されていなければ、頬が緩んでいたかもしれない。

 彼女はあくまで冷静な態度を装い、少年に向かって右手を差し出した。


 みのり
「ヘルメット」


 少年
「ああ?」


 みのり
「もちろん私の分もあるんですよね?」


 みのりは右手をちょいちょいと動かして、さっさと寄こせという合図を送る。


 少年
「ちっ……。――――ほらよっ!」


 『藤波誠也』はバイクから降りて座席の下からヘルメットを取り出し、それをみのりに投げ渡した。

 ここで再会したのはただの偶然だが、予備のヘルメットを事前に用意していたということは、彼もみのりとの再会を楽しみにしていたに違いない。

 みのりが渡されたヘルメットを頭に被り、誠也はバイクの座席に座り直した。

 
 みのり
「これからどこに連れてってくれるんですか?」


 誠也
「そうだな……。とりあえずメシでも食いに行くか?」


 みのり
「……ですね」


 みのりはバイクの後部座席に跨って誠也の腰に腕を回した。

 誠也がゆっくりとバイクを発進させ、みのりのために安全運転を心がける。


 みのり
「あの……、藤波さん……」


 誠也
「ああ⁉ もう少しデカい声で頼む!」


 冬の風音で少し聞こえづらかった誠也は大きめの声で彼女に聞き返した。


 みのり
「私たち……、出会いは最悪でしたけど――――その……、最悪にしたのは私なんですけど……」


 みのりにしては珍しく歯切れの悪い言い方だ。

 彼女はたどたどしい口調で自分の気持ちを彼に伝えた。


 みのり
「私たち……、これからも仲良く出来ますよね?」


 誠也
「……」


 誠也からは彼女の顔が見えていない。

 しかし、彼女が今どんな表情をしているのか、彼女と同じ想いを抱いている誠也には手に取るようにわかった。


 誠也
「そうだな……」


 彼の答えは既に決まっていた。

 しかし、誠也は少しだけ考え込む素振りを見せる。


 誠也
「まあ……、死ぬまで一緒にいることぐらいは出来んじゃねえの?」


 みのり
「…………」


 誠也の腰に掴まっている彼女の腕に力が込められる。

 みのりは彼の背中に自分の頭をヘルメット越しに押し付けた。


 みのり
「藤波さん。――――それってプロポーズですか?」


 誠也
「なっ――⁉」


 みのり
「なら私はダイヤの指輪を所望します」


 誠也
「てめっ――」


 今の誠也にはあまりに無茶ぶり過ぎる要求だ。

 しかし、それは今までの遅れを取り戻すために〝頑張って働け〟という彼女なりのエールだった。

 そして彼女は最後に元不良の彼に向かってしっかりと釘を刺しておいた。


 みのり
「あと浮気したらお兄さんのお墓の前で報告しますから」


 誠也
「それだけは勘弁して……」


 二人を乗せたバイクはそのままどこかに走り去っていった。

 果たして二人はこの先どのような人生を歩んでいくことになるのか……。

 願わくば二人の未来に幸せが訪れんことを――――





 ――――――――――――





 どうも、叶あずさです。

 みのりんの親友キャラでありながら出番が少なかったので、この場を借りてお話させていただくことになりました。

 なぜ地区大会でみのりんの応援に来なかったのかって?

 そもそも私は陸上に興味はありませんし、皆さんだって貴重な休日を潰してまで友だちの部活の応援に行ったりしないでしょ?

 そんなことをやってるのは野球部が甲子園にいったときくらいですよ。

 まあ、やってもせいぜい大会の前日に応援メッセージを送るくらいですかね。

 前置きはこの辺にして――――――

 あのお二人がその後どうなったか知りたくないですか?

 もちろんあのあとすぐに付き合うことになるのですが、お二人の間で好きだの付き合うなどという言葉が交わされることはありませんでした。

 みのりんは元々そういうことを口にするタイプじゃないですし、藤波さんも本気の相手だからこそ恥ずかしくて言えず仕舞いだったみたいです。

 ただ行動はお互い積極的で、みのりんはあのあとすぐに藤波さんに食べられちゃったそうです。

 普段はお尻の下に彼を敷いているみのりんですが、夜の生活では経験豊富な彼にまったく敵わないようです。

 一体どんなすごい夜を過ごしているでしょう?

 藤波さんのテクに泣かされては彼のニヤケづらを見るたびに「この人と一緒にいたら私は不幸になる……」と嘆いているそうですよ。

 実際、藤波さんの影響でみのりんはかなり変わってしまいました。

 あれだけ大好きだった陸上を諦めて藤波さんと同じ大学に進むことにしたんですから、もう完全に堕ちちゃってますよね?

 まあ藤波さんは女の子にモテますから、他の女子に浮気されるよりはマシだという判断だったんでしょう。

 高校時代はショートだった髪も伸ばし始めて今じゃ普通の可愛い女の子になっちゃいました。

 元々みのりんのポテンシャルは高かったんです。

 何かとは言いませんが、藤波さんと付き合い始めてBの下くらいだったサイズがCの上くらいまで一気に成長したらしいですよ。

 まったく羨ましい限りです。

 すると今度はみのりんが同じ大学の男子に声をかけられるようになって、藤波さんが子どもみたくねるねる(笑)

 ひどいときは大学の空き部屋にいきなり連れ込まれて避妊せずに出されたこともあったそうです。

 そのときはさすがにみのりんも怒ったそうですが、彼の気が済むまでは大人しく受け入れてあげるなんてみのりんも甘々ですね。

 きっと他の男子に盗られるくらいならと藤波さんも焦っていたんでしょう。

 そしてみのりんもそれがわかっていたから許してあげたんだと思います。

 結局みのりんは大学を中退することになって二人はそのままデキ婚しちゃいました。

 人生何があるかわかりませんね。

 当然みのりんのご両親の藤波さんに対する印象は最悪で、特にお父さんはかなりご立腹だったそうです。

 それについては藤波さんも覚悟の上だったことでしょう。

 藤波さんは結婚を許す条件として突き付けられたみのりんのお父さんの下で働くという条件をすんなり受け入れたそうですから……。

 最終的に二人の間には女の子が一人と男の子が二人生まれたので夫婦仲は悪くなかったと思います。

 しかし、やっぱりお金にはかなり苦労したようで、そのせいでケンカが絶えない時期もあったそうです。

 それでも二人に別れるという選択肢はなかったそうですからその件については良しとしましょう。

 みのりん曰く――この人と一緒になると決めたときから苦労することは覚悟していた。

 藤波さん曰く――みのりと一緒のベッドに入ったら大抵の悩みは一晩で吹き飛ぶ。

 ――――だ、そうです。

 どうやらお二人は体の相性もかなり良かったみたいですね。

 お金には苦労しましたが、この二人は間違いなく幸せな人生を歩めたんだと思います。

 四十代の半ばで孫の顔も見れたようですし、両親としての務めも果たしたと言えるでしょう。

 そのときはまだ二人とも現役バリバリだったそうですから、本当に若々しくてお似合いの二人です。

 若さの秘訣と夜の生活には因果関係でもあるのでしょうか?

 そんなこんなで苦楽を共にした二人は、最期には無事に同じ墓に入ることが出来ました。

 理想の家庭ではなかったにせよ、お互い運命の相手に巡り会えたことは確かだと思います。

 お二人は私より先に天国に旅立ってしまいましたが、きっと旅先でも幸せに暮らしていることでしょう。

 最後になりましたが、これでお二人の物語は終わりです。

 ご清聴ありがとうございました。
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