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第42話 天と地と
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「具体的には、それはどのように?」
「そーねぇ、やってみないと分かんないけど……まずはともかく、話を聞くかな。困ってることとか辛いことを訊き出して、可能だったら考え方をひっくり返す」
「ひっくり返す?」
姫さまが「全く分からない」って顔になった。というか、僕もわからない。
でもそもそもおばさんたちの言うことやることは、いちいち分かりづらい。
もう少し、分かりやすくできないんだろうか?
イサさんが言葉をつづけた。
「要するに考え方ってね、物の見方とらえ方の問題が大きいのよ」
そんなもので変わるんだろか? そう思う僕をよそに、おばさんが話を進める。
「たとえばお酒の瓶を見て『あと半分しかない』って言う人に、『でも、今まで飲んだのと同じだけ残ってますよ。けっこうありますよ』って言ったら、どうなると思う?」
「たしかにそう言われると、気持ちが明るくなりますわね」
この人、異世界でなにしてたんだろう?
どう見てもただのおばさんなのに、ときどき侮れない。
「――だとすると、私が父上の話を伺って同じようにすれば、父上の心労が少しは晴れますかしら?」
「晴れるでしょうね。でもそれだけじゃダメよ」
おばさんがきっぱりと言った。
姫さまが不思議そうな顔をする。
「気が晴れるのに、ダメなのですか?」
「ダメよ。だって、何も変わってないもの。お酒くらいなら大した話じゃないけど、大ケガした人に『死ななくてよかった』って言っても、痛いのは消えないわ。手当てするなりなんなり、ともかく何か動かなきゃ」
「たしかにそうですわね」
何だろう、何か僕はいま、見てはいけないものを見ている気がする。
話がとんでもない方向へ、向かってる気がしてならない。
姫さまがひとりごちた。
「でしたら仮に私が父上にするとして……まずお話を伺ったうえで、それに対して何か、動けなければいけないんですね」
「あ、実際に動けなくてもいいのよ。専門家に任せるって方法もあるから。ただ、指針や代案を出せないとね」
「そういうことですのね。イサさんのお話は、分かりやすくていいですわ」
姫さまいけません、そんなおばさんの言葉を鵜呑みにしたら。
そういう言葉が喉まで出かかる。
出かかったけど、必死で飲み込む。
いまここで言ったら、不興を買うのは僕のほうだ。それはイヤだ。
姫さまは、ひとつひとつ何か確かめるみたいに、ひとり黙ってうなずいてた。
そして困った様子で顔を上げる。
「イサさん、大変ですわ」
「何が」
なんでもう少し気を遣わないんだろう?
姫さまがこんなに困った顔をなさってるのに、あんなぶっきらぼうな答え方をしなくたっていいじゃないか。
本当におばさんって生き物は、繊細さとか思いやりに欠けると思う。
僕がそんなことを思ってる間に、姫さまが問いかける。
「そーねぇ、やってみないと分かんないけど……まずはともかく、話を聞くかな。困ってることとか辛いことを訊き出して、可能だったら考え方をひっくり返す」
「ひっくり返す?」
姫さまが「全く分からない」って顔になった。というか、僕もわからない。
でもそもそもおばさんたちの言うことやることは、いちいち分かりづらい。
もう少し、分かりやすくできないんだろうか?
イサさんが言葉をつづけた。
「要するに考え方ってね、物の見方とらえ方の問題が大きいのよ」
そんなもので変わるんだろか? そう思う僕をよそに、おばさんが話を進める。
「たとえばお酒の瓶を見て『あと半分しかない』って言う人に、『でも、今まで飲んだのと同じだけ残ってますよ。けっこうありますよ』って言ったら、どうなると思う?」
「たしかにそう言われると、気持ちが明るくなりますわね」
この人、異世界でなにしてたんだろう?
どう見てもただのおばさんなのに、ときどき侮れない。
「――だとすると、私が父上の話を伺って同じようにすれば、父上の心労が少しは晴れますかしら?」
「晴れるでしょうね。でもそれだけじゃダメよ」
おばさんがきっぱりと言った。
姫さまが不思議そうな顔をする。
「気が晴れるのに、ダメなのですか?」
「ダメよ。だって、何も変わってないもの。お酒くらいなら大した話じゃないけど、大ケガした人に『死ななくてよかった』って言っても、痛いのは消えないわ。手当てするなりなんなり、ともかく何か動かなきゃ」
「たしかにそうですわね」
何だろう、何か僕はいま、見てはいけないものを見ている気がする。
話がとんでもない方向へ、向かってる気がしてならない。
姫さまがひとりごちた。
「でしたら仮に私が父上にするとして……まずお話を伺ったうえで、それに対して何か、動けなければいけないんですね」
「あ、実際に動けなくてもいいのよ。専門家に任せるって方法もあるから。ただ、指針や代案を出せないとね」
「そういうことですのね。イサさんのお話は、分かりやすくていいですわ」
姫さまいけません、そんなおばさんの言葉を鵜呑みにしたら。
そういう言葉が喉まで出かかる。
出かかったけど、必死で飲み込む。
いまここで言ったら、不興を買うのは僕のほうだ。それはイヤだ。
姫さまは、ひとつひとつ何か確かめるみたいに、ひとり黙ってうなずいてた。
そして困った様子で顔を上げる。
「イサさん、大変ですわ」
「何が」
なんでもう少し気を遣わないんだろう?
姫さまがこんなに困った顔をなさってるのに、あんなぶっきらぼうな答え方をしなくたっていいじゃないか。
本当におばさんって生き物は、繊細さとか思いやりに欠けると思う。
僕がそんなことを思ってる間に、姫さまが問いかける。
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