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第38話 難しい話

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「そういえば」

 僕の国を思う深慮を破ったのは、おばさんの声だった。

「この国って、どうなってるの?」
「どうって、どういう意味です?」

 こんな訊かれかたしたって、分かるわけがない。おばさんがやれやれって顔で説明した。

「この国の政治とか、国境とかよ。あたし何も知らないんだから」

 それは威張ることじゃないと思う、そう思ったけど言えない。

「あなた、知ってるんでしょ。教えなさいな」
「そりゃ教えますけど……」

 なんで、教える側に命令口調で言われなきゃならないんだろう? でもやっぱり逆らえない自分が悲しい。

「えぇと、何から説明すればいいかな……まず、領主様は分かりますよね」
「分かる。ここのヌシよね」
「はい。で、ここにはほかに王様がいます」
「なにそれ」

 ちょっとこの辺は、おばさんには分からなかったみたいだ。まぁ複雑な話だから、しかたないだろう。

「この地方はもともと、小さな領主がいっぱいいたんですよ。
 でも百五十年ほど前に今の王家の祖、イングヴァル王が統一したんです」

「あぁそういうことね」

 おばさんが説明の半分までで勝手に納得する。けど、本当に分かってるんだろうか?
 まぁおばさんって生き物はもともと、人の話なんて聞かないわけだけど……。

 イサさんが訊いてきた。

「だとするとここの領主は昔はともかく、今は国王から領地を預かってる身、でいいわけ?
 まぁ建前上だけで、実質所有なんだろうけど」

「そうなります」

 ちょっと内心驚く。まだ半分しか説明してないのに、なんで分かっちゃったんだろう?
 おばさんの半分ひとり言らしき言葉は、まだ続いてた。

「そういうことなら、ここは半独立ってことよね……ねぇキミ、国王が支配してる国って、どのくらい? あと国境はここからどの辺?」

「それは地図がないと……」

 僕は書くものを手元に寄せて、この近辺の大雑把な地図を描いた。

「僕たちがいたユラの村をこの辺だとすると、ここらが今いるお城です。首都はもっともっと西ですね。
 あと村の東の山脈の向こうは、違う国王の国です」

「ちょっと待ってよ、じゃぁここ、すごく国境近いんじゃない」

 なぜかおばさんが慌てて、さらに訊いてくる。

「東のほうに山があったのは分かるけど、北は? 南は?」
「えーと、描くとこうなるんですけど……」

 僕は描き足した。

 ユラの村のずっと東は南北に長く連なる山脈だけど、これが面白いことに一部が横に突き出る形で、北と南にも延びてる。
 というかこのヤルマル領の東半分が、山脈の大きな谷に入り込んでる格好だ。
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