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第32話 悩める姫さま

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 召使いが入ってきて、お菓子とお茶を置いていく。

 匂いからすると、どうやらユラの村近辺で採れるお茶みたいだ。
 たしかにあの村は高級なお茶が採れることで有名だけど、姫さまのお気に入りだなんて、なんだか誇らしい。

「で、話は何?」

 おばさんがまた無遠慮に訊く。本当にカケラも尊敬してない。不敬罪で捕まってしまえと思う。
 けど寛大な姫さまは怒ったりしないで、おばさんの質問に答えた。

「実は、父のことで……」

 さすが優しい姫さまだ。あのすっごく先行きが不安な領主様のことを、姫さまもとっても心配してたらしい。

「父の噂は、この城に滞在していたなら、もうお聞き及びかと思います」
「聞いてるわ。でもあたし、政治は専門じゃないのよねぇ」

 なんて人だ。姫さまの願いに、難色を示すだなんて!

「ですがイサ様は遠い異国の出で、ずいぶん物知りだと侍女たちから聞きました。何かいい知恵はございませんか?」
「……わかった。ともかく聞かせて」

 おばさんの言葉に、姫さまは話し始めた。

「父は、けして悪い人ではないのですが……」

 そういう前置きで始まったエピソードは、でも今まで以上に心配になる話だった。

 命乞いをする敵のスパイを、可哀想だと釈放した。
 友好の印として貢物を要求してきた国に、言われたとおりに出そうとした。
 隣国が「ここは古来から自国領だ」と言いだした場所を、あっさり割譲しようとした。
 他にもいろいろ。

「……こんなとこにも、鳩がいるとは思わなかった」
「なんですかそれ」
「あたしの国にいた、似たような王様」

 どうもおばさんのとこにも、同じような話があったらしい。
 姫さまがため息をつく。

「私の耳に事前に入れば、父に直接言って、何とか止められるのですが。けれど私は基本、政治に口出ししてはいけない立場なので……」

「あれ、そうなの? 姫なんだから、堂々と言えるんじゃないの?」
「いいえ」

 なんでも姫さまが言うには、「姫」っていうのは案外、お城の中じゃ立場が弱いんだそうだ。

「いずれは輿入れする身で、出ていく人間。妻でも母でもありませんから、そんなに強くは言えないんです。あまり言えば、父の側近たちの不興を買ってしまいますし」

「あらまー。でもまぁ、たしかにそういう立場かもねぇ」

 お姫さまっていうのも、ずいぶん大変みたいだ。これだったら、
 ユラの村の若い娘のほうが、ずーっと気楽だろう。

「ともかく、何か異国流の、いい方法はないでしょうか? たしかに私はいつかこの国を出てしまいますが、このままでは心配で」

「んー、確約はできないけど、ともかく考えてみるわ。何も考えないよりは、何十倍もマシだろうし」

 姫さまの顔がぱっと明るくなった。きっと、夜も眠れないほど心配してたんだろう。
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