32 / 52
第32話 悩める姫さま
しおりを挟む
召使いが入ってきて、お菓子とお茶を置いていく。
匂いからすると、どうやらユラの村近辺で採れるお茶みたいだ。
たしかにあの村は高級なお茶が採れることで有名だけど、姫さまのお気に入りだなんて、なんだか誇らしい。
「で、話は何?」
おばさんがまた無遠慮に訊く。本当にカケラも尊敬してない。不敬罪で捕まってしまえと思う。
けど寛大な姫さまは怒ったりしないで、おばさんの質問に答えた。
「実は、父のことで……」
さすが優しい姫さまだ。あのすっごく先行きが不安な領主様のことを、姫さまもとっても心配してたらしい。
「父の噂は、この城に滞在していたなら、もうお聞き及びかと思います」
「聞いてるわ。でもあたし、政治は専門じゃないのよねぇ」
なんて人だ。姫さまの願いに、難色を示すだなんて!
「ですがイサ様は遠い異国の出で、ずいぶん物知りだと侍女たちから聞きました。何かいい知恵はございませんか?」
「……わかった。ともかく聞かせて」
おばさんの言葉に、姫さまは話し始めた。
「父は、けして悪い人ではないのですが……」
そういう前置きで始まったエピソードは、でも今まで以上に心配になる話だった。
命乞いをする敵のスパイを、可哀想だと釈放した。
友好の印として貢物を要求してきた国に、言われたとおりに出そうとした。
隣国が「ここは古来から自国領だ」と言いだした場所を、あっさり割譲しようとした。
他にもいろいろ。
「……こんなとこにも、鳩がいるとは思わなかった」
「なんですかそれ」
「あたしの国にいた、似たような王様」
どうもおばさんのとこにも、同じような話があったらしい。
姫さまがため息をつく。
「私の耳に事前に入れば、父に直接言って、何とか止められるのですが。けれど私は基本、政治に口出ししてはいけない立場なので……」
「あれ、そうなの? 姫なんだから、堂々と言えるんじゃないの?」
「いいえ」
なんでも姫さまが言うには、「姫」っていうのは案外、お城の中じゃ立場が弱いんだそうだ。
「いずれは輿入れする身で、出ていく人間。妻でも母でもありませんから、そんなに強くは言えないんです。あまり言えば、父の側近たちの不興を買ってしまいますし」
「あらまー。でもまぁ、たしかにそういう立場かもねぇ」
お姫さまっていうのも、ずいぶん大変みたいだ。これだったら、
ユラの村の若い娘のほうが、ずーっと気楽だろう。
「ともかく、何か異国流の、いい方法はないでしょうか? たしかに私はいつかこの国を出てしまいますが、このままでは心配で」
「んー、確約はできないけど、ともかく考えてみるわ。何も考えないよりは、何十倍もマシだろうし」
姫さまの顔がぱっと明るくなった。きっと、夜も眠れないほど心配してたんだろう。
匂いからすると、どうやらユラの村近辺で採れるお茶みたいだ。
たしかにあの村は高級なお茶が採れることで有名だけど、姫さまのお気に入りだなんて、なんだか誇らしい。
「で、話は何?」
おばさんがまた無遠慮に訊く。本当にカケラも尊敬してない。不敬罪で捕まってしまえと思う。
けど寛大な姫さまは怒ったりしないで、おばさんの質問に答えた。
「実は、父のことで……」
さすが優しい姫さまだ。あのすっごく先行きが不安な領主様のことを、姫さまもとっても心配してたらしい。
「父の噂は、この城に滞在していたなら、もうお聞き及びかと思います」
「聞いてるわ。でもあたし、政治は専門じゃないのよねぇ」
なんて人だ。姫さまの願いに、難色を示すだなんて!
「ですがイサ様は遠い異国の出で、ずいぶん物知りだと侍女たちから聞きました。何かいい知恵はございませんか?」
「……わかった。ともかく聞かせて」
おばさんの言葉に、姫さまは話し始めた。
「父は、けして悪い人ではないのですが……」
そういう前置きで始まったエピソードは、でも今まで以上に心配になる話だった。
命乞いをする敵のスパイを、可哀想だと釈放した。
友好の印として貢物を要求してきた国に、言われたとおりに出そうとした。
隣国が「ここは古来から自国領だ」と言いだした場所を、あっさり割譲しようとした。
他にもいろいろ。
「……こんなとこにも、鳩がいるとは思わなかった」
「なんですかそれ」
「あたしの国にいた、似たような王様」
どうもおばさんのとこにも、同じような話があったらしい。
姫さまがため息をつく。
「私の耳に事前に入れば、父に直接言って、何とか止められるのですが。けれど私は基本、政治に口出ししてはいけない立場なので……」
「あれ、そうなの? 姫なんだから、堂々と言えるんじゃないの?」
「いいえ」
なんでも姫さまが言うには、「姫」っていうのは案外、お城の中じゃ立場が弱いんだそうだ。
「いずれは輿入れする身で、出ていく人間。妻でも母でもありませんから、そんなに強くは言えないんです。あまり言えば、父の側近たちの不興を買ってしまいますし」
「あらまー。でもまぁ、たしかにそういう立場かもねぇ」
お姫さまっていうのも、ずいぶん大変みたいだ。これだったら、
ユラの村の若い娘のほうが、ずーっと気楽だろう。
「ともかく、何か異国流の、いい方法はないでしょうか? たしかに私はいつかこの国を出てしまいますが、このままでは心配で」
「んー、確約はできないけど、ともかく考えてみるわ。何も考えないよりは、何十倍もマシだろうし」
姫さまの顔がぱっと明るくなった。きっと、夜も眠れないほど心配してたんだろう。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】悪役令嬢と言われている私が殿下に婚約解消をお願いした結果、幸せになりました。
月空ゆうい
ファンタジー
「婚約を解消してほしいです」
公爵令嬢のガーベラは、虚偽の噂が広まってしまい「悪役令嬢」と言われている。こんな私と婚約しては殿下は幸せになれないと思った彼女は、婚約者であるルーカス殿下に婚約解消をお願いした。そこから始まる、ざまぁありのハッピーエンド。
一応、R15にしました。本編は全5話です。
番外編を不定期更新する予定です!
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた
リオール
恋愛
だから?
それは最強の言葉
~~~~~~~~~
※全6話。短いです
※ダークです!ダークな終わりしてます!
筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。
スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。
※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる