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第25話 厨房の空腹

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 おばさんだ。ここにもまたおばさんだ。

 たしかに厨房は、女の人が働いてることはある。
 あるけど、お城でチーフの座まで行くのは珍しい。というか、僕は初めて聞いた。

 何より、なんでこんなに「おばさん」づいてるんだろう。

 ただでさえここに厄介なおばさんがいるのに、さらに追加しなくたっていいと思う。
 本当に神様はヒドい。

 イサさんのほうは、相手がおばさんなことをちっとも気にしてなかった。
 きっと、自分もおばさんだからだろう。

「材料は何がいるんだい? 粉がいるのは分かるけどさ」
「あとは卵と油と、砂糖は……あるかな? なければ蜜ね」
「それなら山ほどあるよ。あと、粉は菓子用のでいいのかい?」
「んと……ともかくふんわり焼けるもの。ある?」
「ああ、あるよ。あと道具は何を用意すればいいかね」

 二人が相談を始めて、僕はただ立ってるしかなくなる。

 なんで僕、こんな場所でこんなことしてるんだろう?
 まだ朝ごはんも食べてないのに。しかもここは厨房なのに。

 お預けを食らった犬の気分だ。
 というか、イサさんおかしい。夕べだって大して食べてないのに、あの人なんでお腹空かないんだろうか。

 そんなこと考えてたら、お腹が盛大に鳴った。

「あら」「おや」

 おばさん二人が声を上げる。

「そういえばキミ、ご飯食べてなかったっけ?」
「あれま、じゃぁその辺のものでも食べるかい?」

 厨房おばさんがそう言うと、あっという間に食べ物が並んだ。

「残り物だけどね」

 厨房おばさんはそう言うけど、パンにチーズにスープまであって、しかもお城のなだけあって、師匠の家のよりずっと質がいい。
 おばさんはみんな魔人だけど、飢えから解放してくれることだけは確かみたいだ。

 必死にお腹を満たす僕を尻目に、おばさんたちはまだ相談を続けてた。でもそれも、やっと終わったらしい。

「だいたい分かったよ。ちょっと待ってな」

 厨房おばさんが手を叩いて、下働きの少年――だいたい台所の働き手は男だ――を呼ぶ。

「いいかい、いま言った物を持っておいで。割るんじゃないよ」

 怯えた顔でこくこくうなずいて、少年が走り去った。
 きっと彼も、「おばさん」って種族の怖さを、日々思い知ってるんだろう。きっと僕と気が合うに違いない。

 しばらくすると、少年が大急ぎで戻ってきた。

 僕が食べてる皿に、視線が突き刺さる。
 もう朝ごはんは終わってるはずなのに、僕のまで食べようって言うんだろうか?

 隣じゃおばさんが、びっくりした声を出してた。
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