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第14話 寝場所を探して
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「すごい……これなら簡単だ」
「でしょ。あ、じゃぁこれもお願いね」
「あ、はい」
上の空で生返事をしながら、僕は次々とお皿を洗って……結局全部洗ったことに気づいたのは、洗い終わった後だった。
――おばさんに洗い物を任せて楽をするっていう、僕の隙のない計画が。
でもまぁ、お皿がピカピカになったからいいか。そんなことを考えながら自分の部屋へ向かってドアを開けて、僕は硬直した。
おばさんが、僕のベッドを占領して寝息を立ててる。
しまった、と思う。
僕はおばさんに、客間がどこか教えてない。
そしておばさんは多分、僕が洗い物をしてる間に、自分の部屋を探しに行ったんだろう。
けど客間は師匠の陰謀で、とてもじゃないけどすぐ寝られるようにはなってないわけで……だからおばさんは、僕の部屋のベッドを、寝る場所として認識したに違いなかった。
「ちょ、ちょっと!」
揺すり起こすと、うみゃうみゃ言いながらおばさんが動いた。
ヤバイ、子猫みたいな声がなんか可愛い。
けどここで情け心を起こしたら僕の負けだ。だからもう一回揺すってみる。
「ここ、僕の部屋なんですけど」
「ふみゃ……? あれ、おはよ」
異世界人っていうのは、猫語で話すクセでもあるんだろうか? そんなことを考えながら、僕はまだ寝ぼけてるおばさんに説明した。
「起きてくださいってば、ここは僕のベッドです!」
「そんなこと言ったって――あぅ、気持ち悪い」
なんだか具合が悪そうだ。異世界から移動してきたせいかもしれない。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫、よくあるから。で、もう寝ていい?」
「ダメですよ、隣の部屋に行ってください」
「イヤよ。あそこ、寝る場所ないもの」
言ってることは分かる。でもここで引き下がったら、僕の寝る場所が無いわけで。
「でもここでおば……じゃない、イサさんが寝ちゃったら、僕の寝る場所がないです」
「じゃぁあなたが隣で寝たら?」
至極当然、という顔でおばさんが答える。
それから「あ、そうか」という感じで、彼女はぽんと手を叩いた。
「じゃぁ、一緒に寝ましょ。それなら問題ないでしょ」
「いいいいいい一緒?! ダメですっ!」
何考えてるんだこの人は。
けど当のおばさんは、何がいけないのか全く分かってないみたいだった。
「いいじゃない、別に。何もしないし」
「そういう問題じゃないです! 隣空けますから! っていうか僕が片付けますから!」
言ってから気づいた。墓穴だ。巨大な墓穴を今僕は掘った。
目の前のおばさんが、にこにこ笑いながら悪魔の宣言をする。
「ありがと、お願いね。こんなとこへ飛ばされたせいか、ホント調子悪くて。寝て待ってるから、できたら起こして」
言うなりおばさんは、こっちに背を向けてころりと横になった。
よく見ると、おばさんの息が少し荒い。少なくとも調子が良さそう、には見えない。
――これじゃ、起こせないじゃないか。
さすがの僕だって、具合の悪い人を無理やり起こして動かすなんてできないわけで。
だから泣く泣く僕は毛布を持ってきて、居間のソファで寝ることにした。
明日は絶対客間を片付けよう、そう心に誓いながら。
「でしょ。あ、じゃぁこれもお願いね」
「あ、はい」
上の空で生返事をしながら、僕は次々とお皿を洗って……結局全部洗ったことに気づいたのは、洗い終わった後だった。
――おばさんに洗い物を任せて楽をするっていう、僕の隙のない計画が。
でもまぁ、お皿がピカピカになったからいいか。そんなことを考えながら自分の部屋へ向かってドアを開けて、僕は硬直した。
おばさんが、僕のベッドを占領して寝息を立ててる。
しまった、と思う。
僕はおばさんに、客間がどこか教えてない。
そしておばさんは多分、僕が洗い物をしてる間に、自分の部屋を探しに行ったんだろう。
けど客間は師匠の陰謀で、とてもじゃないけどすぐ寝られるようにはなってないわけで……だからおばさんは、僕の部屋のベッドを、寝る場所として認識したに違いなかった。
「ちょ、ちょっと!」
揺すり起こすと、うみゃうみゃ言いながらおばさんが動いた。
ヤバイ、子猫みたいな声がなんか可愛い。
けどここで情け心を起こしたら僕の負けだ。だからもう一回揺すってみる。
「ここ、僕の部屋なんですけど」
「ふみゃ……? あれ、おはよ」
異世界人っていうのは、猫語で話すクセでもあるんだろうか? そんなことを考えながら、僕はまだ寝ぼけてるおばさんに説明した。
「起きてくださいってば、ここは僕のベッドです!」
「そんなこと言ったって――あぅ、気持ち悪い」
なんだか具合が悪そうだ。異世界から移動してきたせいかもしれない。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫、よくあるから。で、もう寝ていい?」
「ダメですよ、隣の部屋に行ってください」
「イヤよ。あそこ、寝る場所ないもの」
言ってることは分かる。でもここで引き下がったら、僕の寝る場所が無いわけで。
「でもここでおば……じゃない、イサさんが寝ちゃったら、僕の寝る場所がないです」
「じゃぁあなたが隣で寝たら?」
至極当然、という顔でおばさんが答える。
それから「あ、そうか」という感じで、彼女はぽんと手を叩いた。
「じゃぁ、一緒に寝ましょ。それなら問題ないでしょ」
「いいいいいい一緒?! ダメですっ!」
何考えてるんだこの人は。
けど当のおばさんは、何がいけないのか全く分かってないみたいだった。
「いいじゃない、別に。何もしないし」
「そういう問題じゃないです! 隣空けますから! っていうか僕が片付けますから!」
言ってから気づいた。墓穴だ。巨大な墓穴を今僕は掘った。
目の前のおばさんが、にこにこ笑いながら悪魔の宣言をする。
「ありがと、お願いね。こんなとこへ飛ばされたせいか、ホント調子悪くて。寝て待ってるから、できたら起こして」
言うなりおばさんは、こっちに背を向けてころりと横になった。
よく見ると、おばさんの息が少し荒い。少なくとも調子が良さそう、には見えない。
――これじゃ、起こせないじゃないか。
さすがの僕だって、具合の悪い人を無理やり起こして動かすなんてできないわけで。
だから泣く泣く僕は毛布を持ってきて、居間のソファで寝ることにした。
明日は絶対客間を片付けよう、そう心に誓いながら。
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